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第12話:1年7組 悠里 唯誓(3)
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教室にやってきた男子生徒は今、魅守部長と向かい合ってテーブルについている。
部室を訪れた相談者の応対は、基本的に彼女の担当だ。
僕は魅守部長の右斜めに控え、賽原は例によって男子生徒に相談者に渡すお供えの水が入ったグラスをコトンと置くと、僕の隣に回った。
「それではまず、君の簡単な自己紹介から始めようか。」
「はい。悠里 唯誓。年齢・・・っていうか享年ですけど、16歳。11年前に1年7組でした。」
要するに、11年前にこの学校に1年の7組に在籍していた悠里 唯誓さん、ということらしい。
年下とはいえ、実年齢は一応上なワケだから、敬称をつけないと。
「差支えなければでいいのだが、その、死因について聞いてもかまわぬか。」
「はい。自宅で階段から落ちて、運悪く打ちどころが悪かったみたいで・・・」
「そうか・・・すまなかったな。」
魅守部長が謝ると、悠里さんは「もう大分経つんで気にしないで下さいっ。」と言ってくれた。
やはり魅守部長とはいえ、この手の質問は気が進まないらしい。
「ありがとうな。それで早速なんだが、相談内容というのは?」
「俺、成仏したら天国に行けますかね?」
身を乗り出して真剣な眼差しで聞いてくる悠里さんに魅守部長は困った顔をした。
「あっ、いや、その・・・」
ちょっとちょっと!
何答えに困ってんの。
魅守部長今までいっぱい死んだ生徒の悩み聞いてきたんだから知ってるはずじゃないの!?
「教えて下さい!俺、まさか地獄なんかに堕ちないですよね!?」
「待て待て待てっ。どうしてそんなに心配になるのだ!」
「だって俺、小さい頃に駄菓子屋で万引きしたし、親にウソついて怒られたし・・・」
そんなんで地獄行きなら、この世にいる人間ほとんどが地獄行き決定だよ・・・
悠里さんにまくしたてられて、魅守部長の困り顔がどんどん深刻になってきた。
「う~ん、そうだなぁ・・・ちょっと待ってくれないか。」
魅守部長は部室の窓際に僕と賽原を呼んで、コソコソ話しし出した。
「なぁ、どう思う?彼のこと。」
「どう思うって、魅守部長今まで死んだ生徒の相談事散々乗ってきたんだったら分かるでしょう?」
「こういうストレートな相談事は今までなかったのだから仕方なかろう。第一私には、死んだ人間がきちんと天国に行けるかなんて分からんのだぞっ。」
「そりゃ僕にだって分かりませんよ!」
「魅守部長、ここは櫟先輩を先遣隊として派遣して、その報告を彼に伝える、というのはどうでしょうか?」
「それって僕のこと殺すってことだよね!?それって絶対報告できないよね!?」
あれこれ言い合う僕らに、悠里さんは「あの・・・」と声を掛けてきた。
「櫟先輩、聞いてきて下さい。」
「私と流那君で案をまとめるから、しばらく繋いでくれ!」
そう言って、2人は僕の背中をドンっと押した。
場を繋げるたって・・・
僕はおずおずと椅子に座り、ガチガチに緊張しながら両手を組んでテーブルの上に置いた。
「えっーと、それで・・・」
「ですから、俺って死んだ後、天国に行けますよねっ。」
僕は口をギュッと閉じて「う~ん」と呻った。
普通の人の人生相談すらやったことないのに、ましてやそれがこの世のモンじゃないなんてなぁ・・・
「そう、ですね・・・生きてる間に特に重大な罪を犯してはいないみたいですから、おそらく大丈夫、だと、思いますよ・・・」
「えっ、本当ですか!?」
ヤベェよ食いついてきたよ・・・
「いや~やっぱりお悩み相談クラブに聞いて来て本当正解だったよ!!」
何でそんな関心すんの?
僕、極めてボヤっとしたことしか言ってないぜ。
「流石は俺みたいに死んだヤツの相談にいつも乗ってるだけはありますね!」
「あっ、当ったり前ですよ!僕だってこの部活の端くれですからっ。」
まだ入部して1ヵ月しか経ってなくて、まともに相談者と話したのこれが初めてだけどね・・・
「実は俺、恥ずかしい話なんすけど、本当それのことが気がかりで11年前に死んでそのまま成仏できなかったんですよね・・・」
え、この件が未練でこの世に留まってたの!?
どんだけくよくよ悩んでたのこの人!!
「でも今日、しっかりと踏ん切りがつきましたっ。」
なんだか知らない内に、彼の長年の疑問が解決に向かってる(?)みたいで僕としてもなんだか安心する。
「これで天国に行って、晴れてクジラに生まれ変われるんですね!!」
うん?
クジラ?
生まれ変わる?
「ああっ、いや。俺、昔から大海原を旅することが夢で。それだったら来世は生まれた頃から海の中にいて、優雅に海をいつまでも泳ぐことができるクジラになりたいなぁって。」
なんかこの人、すんごく壮大な夢抱え込んでんだけど・・・
でもなんか、悪くないかも。そういうの。
「今日は本当に、ありがとうございました!!」
ちょっと待って!!
なんかこの人、薄くなってんだけど!?
まさか、もう、旅立とうとしてる!?
ダメダメダメ!!
僕ザックリとしたことしか言ってないから!
もしこれで万が一天国に行けなくて、クジラに生まれ変わることもできなかったらとても責任なんて持てないからぁ~!!
「待ってくれ!!」
振り返ると、魅守部長が血相を変えた様子で成仏しようとする悠里さんを止めた。
「え、どうしたんです?」
「確かに君は地獄に落ちることはないと思うが、クジラに生まれ変われる確証は100%じゃないからどうかもう少し待ってはもらえぬか!?」
魅守部長が引き留めてくれたおかげで、悠里さんは何とか成仏するのを止めてくれた。
そして、魅守部長はまだ新人である僕が、色々と勝手なことを言ってしまったことを悠里さんに詫びた。
悠里さんはあまり気にしてない素振りだったが、僕と魅守部長は何度もペコペコと頭を下げた。
「場を繋げろ。」って言ったのはそっちなんだけどなぁ・・・
その後、魅守部長は悠里さんに「明日諸々のことが確実に分かったらまた伝えるから、もう一度部室に来てほしい。」と伝えて、何とかその場は収まった。
悠里さんが部室を後にした途端、僕と魅守部長は大きなため息をついた。
「魅守部長、色々と勝手なマネしちゃって、ホント、すいませんでしたぁ~!」
「いや、縁人君が謝ることではない。全て私の不徳の致すところだ。申し訳なかった。」
全くもってその通りな気がするが、こちらの気が悪かったので「そんなことないですよっ。」と謙遜した。
「それで、どういう風にまとまったんですか?」
「流那君がその手の筋に縁があってな。今日の夜に聞いてくれるそうだ。」
賽原の方を見ると、エッヘンのポーズで手を腰にやっていた。
「後のことは私に任せて、櫟先輩は己の浅はかさをどうか反省して下さい!」
何故だろう?
誇らしげに言われると、後ろめたさより怒りが勝ってしまうのだが・・・
兎にも角にも、明日のことは賽原に任せるとして、僕達はこのまま部室で解散することになった。
はずだった・・・
「今日は本当に、縁人君に重荷を背負わせてしまって、大変済まないことをした。」
「いやもうそんなこと、全っ然ないですから、もう謝らないで下さい!!」
「そうか・・・では詫びの印に、今日は縁人君の悩みについてとことん付き合うことにしよう。」
は?
ちょ、それって・・・
賽原の方を見ると、ものすごくニコニコした顔で僕達を見つめている。
「良かったですね、櫟先輩!じゃあ邪魔したら悪いんで、私はお先に失礼しまぁ~す♪」
「ちょ、ちょっと待て!賽原!!」
僕が引き留めるのを全く意に介さず、賽原は「ごゆっくり~♪」と言いながら退室しようとしている。
「おっ、お願い・・・僕を独りにしないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
僕の魂からの叫びも虚しく、部室のドアは「バタン!!」固く閉じられた。
この時を以って、僕の19時過ぎの帰宅が、確定した。
部室を訪れた相談者の応対は、基本的に彼女の担当だ。
僕は魅守部長の右斜めに控え、賽原は例によって男子生徒に相談者に渡すお供えの水が入ったグラスをコトンと置くと、僕の隣に回った。
「それではまず、君の簡単な自己紹介から始めようか。」
「はい。悠里 唯誓。年齢・・・っていうか享年ですけど、16歳。11年前に1年7組でした。」
要するに、11年前にこの学校に1年の7組に在籍していた悠里 唯誓さん、ということらしい。
年下とはいえ、実年齢は一応上なワケだから、敬称をつけないと。
「差支えなければでいいのだが、その、死因について聞いてもかまわぬか。」
「はい。自宅で階段から落ちて、運悪く打ちどころが悪かったみたいで・・・」
「そうか・・・すまなかったな。」
魅守部長が謝ると、悠里さんは「もう大分経つんで気にしないで下さいっ。」と言ってくれた。
やはり魅守部長とはいえ、この手の質問は気が進まないらしい。
「ありがとうな。それで早速なんだが、相談内容というのは?」
「俺、成仏したら天国に行けますかね?」
身を乗り出して真剣な眼差しで聞いてくる悠里さんに魅守部長は困った顔をした。
「あっ、いや、その・・・」
ちょっとちょっと!
何答えに困ってんの。
魅守部長今までいっぱい死んだ生徒の悩み聞いてきたんだから知ってるはずじゃないの!?
「教えて下さい!俺、まさか地獄なんかに堕ちないですよね!?」
「待て待て待てっ。どうしてそんなに心配になるのだ!」
「だって俺、小さい頃に駄菓子屋で万引きしたし、親にウソついて怒られたし・・・」
そんなんで地獄行きなら、この世にいる人間ほとんどが地獄行き決定だよ・・・
悠里さんにまくしたてられて、魅守部長の困り顔がどんどん深刻になってきた。
「う~ん、そうだなぁ・・・ちょっと待ってくれないか。」
魅守部長は部室の窓際に僕と賽原を呼んで、コソコソ話しし出した。
「なぁ、どう思う?彼のこと。」
「どう思うって、魅守部長今まで死んだ生徒の相談事散々乗ってきたんだったら分かるでしょう?」
「こういうストレートな相談事は今までなかったのだから仕方なかろう。第一私には、死んだ人間がきちんと天国に行けるかなんて分からんのだぞっ。」
「そりゃ僕にだって分かりませんよ!」
「魅守部長、ここは櫟先輩を先遣隊として派遣して、その報告を彼に伝える、というのはどうでしょうか?」
「それって僕のこと殺すってことだよね!?それって絶対報告できないよね!?」
あれこれ言い合う僕らに、悠里さんは「あの・・・」と声を掛けてきた。
「櫟先輩、聞いてきて下さい。」
「私と流那君で案をまとめるから、しばらく繋いでくれ!」
そう言って、2人は僕の背中をドンっと押した。
場を繋げるたって・・・
僕はおずおずと椅子に座り、ガチガチに緊張しながら両手を組んでテーブルの上に置いた。
「えっーと、それで・・・」
「ですから、俺って死んだ後、天国に行けますよねっ。」
僕は口をギュッと閉じて「う~ん」と呻った。
普通の人の人生相談すらやったことないのに、ましてやそれがこの世のモンじゃないなんてなぁ・・・
「そう、ですね・・・生きてる間に特に重大な罪を犯してはいないみたいですから、おそらく大丈夫、だと、思いますよ・・・」
「えっ、本当ですか!?」
ヤベェよ食いついてきたよ・・・
「いや~やっぱりお悩み相談クラブに聞いて来て本当正解だったよ!!」
何でそんな関心すんの?
僕、極めてボヤっとしたことしか言ってないぜ。
「流石は俺みたいに死んだヤツの相談にいつも乗ってるだけはありますね!」
「あっ、当ったり前ですよ!僕だってこの部活の端くれですからっ。」
まだ入部して1ヵ月しか経ってなくて、まともに相談者と話したのこれが初めてだけどね・・・
「実は俺、恥ずかしい話なんすけど、本当それのことが気がかりで11年前に死んでそのまま成仏できなかったんですよね・・・」
え、この件が未練でこの世に留まってたの!?
どんだけくよくよ悩んでたのこの人!!
「でも今日、しっかりと踏ん切りがつきましたっ。」
なんだか知らない内に、彼の長年の疑問が解決に向かってる(?)みたいで僕としてもなんだか安心する。
「これで天国に行って、晴れてクジラに生まれ変われるんですね!!」
うん?
クジラ?
生まれ変わる?
「ああっ、いや。俺、昔から大海原を旅することが夢で。それだったら来世は生まれた頃から海の中にいて、優雅に海をいつまでも泳ぐことができるクジラになりたいなぁって。」
なんかこの人、すんごく壮大な夢抱え込んでんだけど・・・
でもなんか、悪くないかも。そういうの。
「今日は本当に、ありがとうございました!!」
ちょっと待って!!
なんかこの人、薄くなってんだけど!?
まさか、もう、旅立とうとしてる!?
ダメダメダメ!!
僕ザックリとしたことしか言ってないから!
もしこれで万が一天国に行けなくて、クジラに生まれ変わることもできなかったらとても責任なんて持てないからぁ~!!
「待ってくれ!!」
振り返ると、魅守部長が血相を変えた様子で成仏しようとする悠里さんを止めた。
「え、どうしたんです?」
「確かに君は地獄に落ちることはないと思うが、クジラに生まれ変われる確証は100%じゃないからどうかもう少し待ってはもらえぬか!?」
魅守部長が引き留めてくれたおかげで、悠里さんは何とか成仏するのを止めてくれた。
そして、魅守部長はまだ新人である僕が、色々と勝手なことを言ってしまったことを悠里さんに詫びた。
悠里さんはあまり気にしてない素振りだったが、僕と魅守部長は何度もペコペコと頭を下げた。
「場を繋げろ。」って言ったのはそっちなんだけどなぁ・・・
その後、魅守部長は悠里さんに「明日諸々のことが確実に分かったらまた伝えるから、もう一度部室に来てほしい。」と伝えて、何とかその場は収まった。
悠里さんが部室を後にした途端、僕と魅守部長は大きなため息をついた。
「魅守部長、色々と勝手なマネしちゃって、ホント、すいませんでしたぁ~!」
「いや、縁人君が謝ることではない。全て私の不徳の致すところだ。申し訳なかった。」
全くもってその通りな気がするが、こちらの気が悪かったので「そんなことないですよっ。」と謙遜した。
「それで、どういう風にまとまったんですか?」
「流那君がその手の筋に縁があってな。今日の夜に聞いてくれるそうだ。」
賽原の方を見ると、エッヘンのポーズで手を腰にやっていた。
「後のことは私に任せて、櫟先輩は己の浅はかさをどうか反省して下さい!」
何故だろう?
誇らしげに言われると、後ろめたさより怒りが勝ってしまうのだが・・・
兎にも角にも、明日のことは賽原に任せるとして、僕達はこのまま部室で解散することになった。
はずだった・・・
「今日は本当に、縁人君に重荷を背負わせてしまって、大変済まないことをした。」
「いやもうそんなこと、全っ然ないですから、もう謝らないで下さい!!」
「そうか・・・では詫びの印に、今日は縁人君の悩みについてとことん付き合うことにしよう。」
は?
ちょ、それって・・・
賽原の方を見ると、ものすごくニコニコした顔で僕達を見つめている。
「良かったですね、櫟先輩!じゃあ邪魔したら悪いんで、私はお先に失礼しまぁ~す♪」
「ちょ、ちょっと待て!賽原!!」
僕が引き留めるのを全く意に介さず、賽原は「ごゆっくり~♪」と言いながら退室しようとしている。
「おっ、お願い・・・僕を独りにしないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
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