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第4話:2年5組 近衛 芽衣子(1)
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部室を訪ねてきた相談者に応対するために、僕は彼女と席を譲ることにした。
彼女の方は「お構いなくっ」と一度断ったが、体験入部とはいえこの部活の一員となった身としては、来客を立たせたままにしておくのは失礼だと思ったので、「遠慮せずに、どうぞ」と少し食い気味に再度促した。
彼女が申し訳なさそうに席に着くと、魅守部長が先に向かい合って座り賽原に飲み物を出すように指示した。
賽原は部室の奥の方に引っ込んだが、ものの五秒と経たずに戻ってきた。
彼女の手に握られたものを見て、僕は愕然とした。
それは、“水の入ったグラス”・・・
チョットマッテ。
こういう時って普通、湯呑に入ったお茶で「粗茶ですが。」って言って渡すんじゃなかったっけ?
なんでただの水なの?
僕は慌てて相談者の方を見たが、これといって機嫌を損ねたり、困惑してるような素振りは見せていない。
僕は賽原の行為が運よく彼女の許容範囲に収まっていることに胸を撫で下ろした。
何とか、上手いこと行ってるみた・・・
って、流石にチョウットマティ!!
今この女、水置いた後合掌しなかったか!?
これあんまりにも度が過ぎてるぞ!
これじゃまるでこの人死んでて、水がお供えモンみたいじゃねぇか!!
マズいって、絶対この人怒ったんじゃ・・・
しかし、相談者の女子は何も言わず両手でグラスを掴んで中の水を「ズズ・・・」と啜った。
魅守部長も賽原の、失礼なんかじゃ済まされなそうにない行動を特に咎めようともしなかったため、僕は今、目の前でおそらく過去イチの奇跡が起きていると感じた。
「改めまして相談に乗ってくれてありがとうございます。私は2年5組の近衛 芽衣子と言います。」
僕は相談者が自分と同学年で、しかも1クラス分しか隔たっていない事実に若干驚いた。
もしかしたら、この近衛という女子とは全校集会の際に見かけたことがあるかもしれない。
「よろしく、近衛さん。それで、相談内容というのは?」
魅守部長が質問すると、近衛は淡々と答えだした。
「はい。実は私、もうすぐこの学校を離れることになりまして。でもその前に、一昨日からケンカしたままの親友とどうしても仲直りがしたくて。でも、どうやって話しかけたらいいか・・・」
近衛の困りごとは大体想像がついた。
急遽の転校が決まったが、ケンカっぱなしの親友と仲直りしそのことを伝えたいが、ケンカした手前どうやって告白した良いか分からない、と。
言ってはなんだが、相談内容としてはごくありふれたものだというのが率直な感想だ。
「分かった。それは大変、大変辛いことだろうな・・・でも、もう大丈夫。私たちが何とかして、あなたの願いを叶えてみせるから・・・」
あまりにも言葉に熱がこもった魅守部長を見て、僕は大げさだとつい思ってしまった。
こんなのここに来るわけまでもなく、頑張って自力で解決できそうな悩みに思えるが・・・
「そう言ってくれるなんて、すごく嬉しいです・・・」
近衛も近衛で、目に涙を浮かべながら、魅守部長に感謝の意を伝えた。
もしかしたら、近衛にとっては身が裂かれる思いをするくらいの深刻な悩みだったのかもしれない。
「よし!そうと決まれば早速行こうか?」
「え、もう、ですか・・・?」
「“善は急げ”というだろう。私はあの言葉がとても好きなのだ。お願いなのだが、その親友がいるところまで案内してはくれないか?」
「わっ、分かりました。じゃあちょっと付いて来て下さいっ。」
近衛の案内で、僕たち全員はその彼女がケンカしたままの親友がいるところまで行くことにした。
「いやぁ、にしても意外だったよなぁ。」
「何がですか。」
「近衛さん、こんなところにまで頼みに来なくちゃならないくらい思い詰めてるなんて。やっぱり他の人にとったら大したことなくても、本人からしてみたら重い悩みなんだってことなのかなぁ。」
僕がそう呟いた途端、前を歩く賽原の足がピタッと止まった。
「櫟先輩。」
「ん?どうした。」
「櫟先輩にはまだ分からないですが、あの人が今抱えてる悩みっていうのはあなたの想像なんか到底及ばないくらい重く、そして苦しいものなんですよ。だから、あなたがこれからするべきは余計なことを言わず、ただ起こることを見て、それを事実、現実だと受け入れることなんですよ。いいですね?」
「賽原、それってどういう・・・」
「いいですね?」
振り返った賽原の、あまりに剣呑なその眼差しに、僕は何も言わず頷くことしかできなかった。
それを見ると賽原は踵を返し、再び歩き始めた。
僕は胸の内に、何か言い様のない不安とそれに混じる好奇心を抱きながら、賽原が部室を出るのに続き木造のドアを音を抑えてそっと閉じた。
彼女の方は「お構いなくっ」と一度断ったが、体験入部とはいえこの部活の一員となった身としては、来客を立たせたままにしておくのは失礼だと思ったので、「遠慮せずに、どうぞ」と少し食い気味に再度促した。
彼女が申し訳なさそうに席に着くと、魅守部長が先に向かい合って座り賽原に飲み物を出すように指示した。
賽原は部室の奥の方に引っ込んだが、ものの五秒と経たずに戻ってきた。
彼女の手に握られたものを見て、僕は愕然とした。
それは、“水の入ったグラス”・・・
チョットマッテ。
こういう時って普通、湯呑に入ったお茶で「粗茶ですが。」って言って渡すんじゃなかったっけ?
なんでただの水なの?
僕は慌てて相談者の方を見たが、これといって機嫌を損ねたり、困惑してるような素振りは見せていない。
僕は賽原の行為が運よく彼女の許容範囲に収まっていることに胸を撫で下ろした。
何とか、上手いこと行ってるみた・・・
って、流石にチョウットマティ!!
今この女、水置いた後合掌しなかったか!?
これあんまりにも度が過ぎてるぞ!
これじゃまるでこの人死んでて、水がお供えモンみたいじゃねぇか!!
マズいって、絶対この人怒ったんじゃ・・・
しかし、相談者の女子は何も言わず両手でグラスを掴んで中の水を「ズズ・・・」と啜った。
魅守部長も賽原の、失礼なんかじゃ済まされなそうにない行動を特に咎めようともしなかったため、僕は今、目の前でおそらく過去イチの奇跡が起きていると感じた。
「改めまして相談に乗ってくれてありがとうございます。私は2年5組の近衛 芽衣子と言います。」
僕は相談者が自分と同学年で、しかも1クラス分しか隔たっていない事実に若干驚いた。
もしかしたら、この近衛という女子とは全校集会の際に見かけたことがあるかもしれない。
「よろしく、近衛さん。それで、相談内容というのは?」
魅守部長が質問すると、近衛は淡々と答えだした。
「はい。実は私、もうすぐこの学校を離れることになりまして。でもその前に、一昨日からケンカしたままの親友とどうしても仲直りがしたくて。でも、どうやって話しかけたらいいか・・・」
近衛の困りごとは大体想像がついた。
急遽の転校が決まったが、ケンカっぱなしの親友と仲直りしそのことを伝えたいが、ケンカした手前どうやって告白した良いか分からない、と。
言ってはなんだが、相談内容としてはごくありふれたものだというのが率直な感想だ。
「分かった。それは大変、大変辛いことだろうな・・・でも、もう大丈夫。私たちが何とかして、あなたの願いを叶えてみせるから・・・」
あまりにも言葉に熱がこもった魅守部長を見て、僕は大げさだとつい思ってしまった。
こんなのここに来るわけまでもなく、頑張って自力で解決できそうな悩みに思えるが・・・
「そう言ってくれるなんて、すごく嬉しいです・・・」
近衛も近衛で、目に涙を浮かべながら、魅守部長に感謝の意を伝えた。
もしかしたら、近衛にとっては身が裂かれる思いをするくらいの深刻な悩みだったのかもしれない。
「よし!そうと決まれば早速行こうか?」
「え、もう、ですか・・・?」
「“善は急げ”というだろう。私はあの言葉がとても好きなのだ。お願いなのだが、その親友がいるところまで案内してはくれないか?」
「わっ、分かりました。じゃあちょっと付いて来て下さいっ。」
近衛の案内で、僕たち全員はその彼女がケンカしたままの親友がいるところまで行くことにした。
「いやぁ、にしても意外だったよなぁ。」
「何がですか。」
「近衛さん、こんなところにまで頼みに来なくちゃならないくらい思い詰めてるなんて。やっぱり他の人にとったら大したことなくても、本人からしてみたら重い悩みなんだってことなのかなぁ。」
僕がそう呟いた途端、前を歩く賽原の足がピタッと止まった。
「櫟先輩。」
「ん?どうした。」
「櫟先輩にはまだ分からないですが、あの人が今抱えてる悩みっていうのはあなたの想像なんか到底及ばないくらい重く、そして苦しいものなんですよ。だから、あなたがこれからするべきは余計なことを言わず、ただ起こることを見て、それを事実、現実だと受け入れることなんですよ。いいですね?」
「賽原、それってどういう・・・」
「いいですね?」
振り返った賽原の、あまりに剣呑なその眼差しに、僕は何も言わず頷くことしかできなかった。
それを見ると賽原は踵を返し、再び歩き始めた。
僕は胸の内に、何か言い様のない不安とそれに混じる好奇心を抱きながら、賽原が部室を出るのに続き木造のドアを音を抑えてそっと閉じた。
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