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最終章:無双代行の結末
オルテストの戦い④・出来損ない2人
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斬られる寸前でリセを庇い、怒りを露わにするトヴィリン。
それは留まることを知らず、ルイギから教わった居合の構えでヘルヴェに向かった。
冥炎の剣で初撃を防いだが、トヴィリンは続く二太刀目、三太刀目を叩き込んだ。
「うおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
トヴィリンの怒号が戦場に木霊する。
剣戟の速度も早まってゆく。
そこには内気な少女の面影は一切なく、ただ衝動に身を任せ、目の前の敵を斬り捨てる戦乙女であった。
しかし、所詮は怒り任せの連撃。
スピードは申し分ない・・・むしろ目で追うことができない代物だが、出鱈目に剣を振り回すのみで急所をまるで捉えられていない。
「振り回すだけしか能がないのか!沈着の欠如は命取りになりかねぬぞ?」
ヘルヴェの剣が形を変え、トヴィリンの剣を絡めとった。
ヘルヴェは空いた左手に二振り目の剣を顕現させると、それをトヴィリンの心臓に突き立てようとする。
「トリシアっっっ!!!」
トヴィリンの影から巨鬼種並に巨大化したトリシアの上半身が現れ、ヘルヴェを掴むと、オルテストの門に向かって投擲した。
破られた門の向こうの街には避難したのだろうか、誰の姿も確認されなかった。
「父上・・・。」
生気が失せた顔をしたリセが、よろよろと門へと近づく。
「ダメです。下がってて下さい。」
トヴィリンは手を上げて、リセを制止した。
「トヴィリン・・・何故・・・?」
「リセさん。あなた・・・幸せ者ですね。」
「え・・・?」
「仇討ちが決められる程の家族がいて。私は・・・家族には恵まれませんでしたから。父親と母親、2人揃って小さい頃から私に人を殺すことを強要してましたから。今でも思います。もっと幸せな家に生まれたかったって・・・。私、前からリセさんのこと・・・羨ましいって思ってたんです。冥王だけど優しいお父さんのところに生まれて、その仇を取るために人間なんかの下に付いて・・・。だからなんでしょうね。リセさんが・・・お父さんの見たくもない、信じたくもないあんな姿を見せられているのが、なんだか自分のことのように辛くて、腹が立って・・・!!なんでこうなったか、私には分かりません。だけどこれだけははっきり言えます。あれは・・・あなたのお父さんなんかじゃありません!!姿が全く一緒の別の何かです!!私がこの手で・・・消してやりますッッッ!!!」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「粋がるなよ。小娘が。」
「リセさん?」
「たかが十数年しか生きておらぬ人間の娘に絆されるなど、魔族の姫として不甲斐ないことこの上ない!!この借り・・・必ず返させてもらうぞッッッ!!!」
毅然とした眼差しで、実の父に剣を向けるリセに、トヴィリンは安心した笑みを見せた。
「出来損ないの英雄が2人揃っても状況は変わらぬ。まとめて始末してくれようぞッッッ!!!」
「否。2人だけではない。」
「ッッッ!!!」
見ると朽鬼どもを蹴散らしながら、エリガラードとスドラ、彼らが率いる軍、そしてリセの配下が鋭い眼光を光らせているではないか。
「私達も相手になりますよ。冥王討伐は、元より3000年前の戦の悲願ですから。」
「我らを相手取るとは貴様・・・余程の外れくじを引いてしまったな?」
トヴィリンとリセに続き、彼らもヘルヴェと戦うために門へと駆け出した。
それをアドニサカの軍が必死に追いかける。
焦ったような表情を見せるヘルヴェ。
しかし・・・。
「今だ。開け。」
門をくぐったエリガラードとスドラ達。
だがその先は、オルテストの街ではなかった。
門の先は・・・書庫だった。
広大な空間に、無数の本棚が立ち並ぶ、圧巻の光景。
「なっ・・・!?こっ、ここは!?」
「街への門をくぐったはずだが・・・。何故このような場所に?」
エリガラード達はおろか、スドラでさえも困惑の色を隠せない。
「ようこそ。私の書庫へ。」
動揺する一行の前に一人の男が歩いてきた。
30代半ばくらいで、髪は白髪交じりの長髪。紺の襟が長い礼装に身を包み、銀縁の片眼鏡をかけていた。
「初めまして。私はこの魔歴書院の司書を務め、導主アクメル様から❝録魔雄❞の名を先日戴きました、ルクイヴ=ミニステラ=ジェルテロスと申します。短いひと時になりますが、お見知りおきを。」
目にくまがあり、何とか聞き取れるくらいのボソボソとした口調で話すこの男から、形容し難い異質さが滲み出ていた。
それは留まることを知らず、ルイギから教わった居合の構えでヘルヴェに向かった。
冥炎の剣で初撃を防いだが、トヴィリンは続く二太刀目、三太刀目を叩き込んだ。
「うおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
トヴィリンの怒号が戦場に木霊する。
剣戟の速度も早まってゆく。
そこには内気な少女の面影は一切なく、ただ衝動に身を任せ、目の前の敵を斬り捨てる戦乙女であった。
しかし、所詮は怒り任せの連撃。
スピードは申し分ない・・・むしろ目で追うことができない代物だが、出鱈目に剣を振り回すのみで急所をまるで捉えられていない。
「振り回すだけしか能がないのか!沈着の欠如は命取りになりかねぬぞ?」
ヘルヴェの剣が形を変え、トヴィリンの剣を絡めとった。
ヘルヴェは空いた左手に二振り目の剣を顕現させると、それをトヴィリンの心臓に突き立てようとする。
「トリシアっっっ!!!」
トヴィリンの影から巨鬼種並に巨大化したトリシアの上半身が現れ、ヘルヴェを掴むと、オルテストの門に向かって投擲した。
破られた門の向こうの街には避難したのだろうか、誰の姿も確認されなかった。
「父上・・・。」
生気が失せた顔をしたリセが、よろよろと門へと近づく。
「ダメです。下がってて下さい。」
トヴィリンは手を上げて、リセを制止した。
「トヴィリン・・・何故・・・?」
「リセさん。あなた・・・幸せ者ですね。」
「え・・・?」
「仇討ちが決められる程の家族がいて。私は・・・家族には恵まれませんでしたから。父親と母親、2人揃って小さい頃から私に人を殺すことを強要してましたから。今でも思います。もっと幸せな家に生まれたかったって・・・。私、前からリセさんのこと・・・羨ましいって思ってたんです。冥王だけど優しいお父さんのところに生まれて、その仇を取るために人間なんかの下に付いて・・・。だからなんでしょうね。リセさんが・・・お父さんの見たくもない、信じたくもないあんな姿を見せられているのが、なんだか自分のことのように辛くて、腹が立って・・・!!なんでこうなったか、私には分かりません。だけどこれだけははっきり言えます。あれは・・・あなたのお父さんなんかじゃありません!!姿が全く一緒の別の何かです!!私がこの手で・・・消してやりますッッッ!!!」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「粋がるなよ。小娘が。」
「リセさん?」
「たかが十数年しか生きておらぬ人間の娘に絆されるなど、魔族の姫として不甲斐ないことこの上ない!!この借り・・・必ず返させてもらうぞッッッ!!!」
毅然とした眼差しで、実の父に剣を向けるリセに、トヴィリンは安心した笑みを見せた。
「出来損ないの英雄が2人揃っても状況は変わらぬ。まとめて始末してくれようぞッッッ!!!」
「否。2人だけではない。」
「ッッッ!!!」
見ると朽鬼どもを蹴散らしながら、エリガラードとスドラ、彼らが率いる軍、そしてリセの配下が鋭い眼光を光らせているではないか。
「私達も相手になりますよ。冥王討伐は、元より3000年前の戦の悲願ですから。」
「我らを相手取るとは貴様・・・余程の外れくじを引いてしまったな?」
トヴィリンとリセに続き、彼らもヘルヴェと戦うために門へと駆け出した。
それをアドニサカの軍が必死に追いかける。
焦ったような表情を見せるヘルヴェ。
しかし・・・。
「今だ。開け。」
門をくぐったエリガラードとスドラ達。
だがその先は、オルテストの街ではなかった。
門の先は・・・書庫だった。
広大な空間に、無数の本棚が立ち並ぶ、圧巻の光景。
「なっ・・・!?こっ、ここは!?」
「街への門をくぐったはずだが・・・。何故このような場所に?」
エリガラード達はおろか、スドラでさえも困惑の色を隠せない。
「ようこそ。私の書庫へ。」
動揺する一行の前に一人の男が歩いてきた。
30代半ばくらいで、髪は白髪交じりの長髪。紺の襟が長い礼装に身を包み、銀縁の片眼鏡をかけていた。
「初めまして。私はこの魔歴書院の司書を務め、導主アクメル様から❝録魔雄❞の名を先日戴きました、ルクイヴ=ミニステラ=ジェルテロスと申します。短いひと時になりますが、お見知りおきを。」
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