上 下
368 / 514
第六章 : 女王の帰還

盾役(タンク)の貴婦人

しおりを挟む
総令部の会議室。

ミラとの激しいやり取りをしたグレースはルイギ、ヒューゴを交えて執将らに改めて報告へと参っていた。

「グレース、俺達に見せてくれねぇか?っつう指輪を。」

「はい。」

ラリーザに促され、グレースは薬指にはめられた指輪を4人の執将に見せた。

が?」

グレースはコクっと頷く。

「しかし驚いたっス。まさかグレースさんが吸血鬼の王国・ラトヴァールの王家の最後の生き残りだったなんて・・・。」

「私は未だに理解が追い付かずにいます。」

「それは僕も同じです。」

ノヴァク、ソニア、セドヴィグの3人は、グレースが自分達が仕えるべき主君の血を引いているという事実に混乱していた。

だけどグレースは、そんな3人の様子を見ても、表情一つ変えないでいる。

「大丈夫か?」

心配になったラリーザがグレースに聞く。

しかしグレースの反応は、いま一つだ。

「ミラに・・・話したんだな?」

何となく察しがついたラリーザが聞くと、グレースはコクンと寂しそうに頷いた。

「その様子じゃ、相当もめたな?」

「私・・・知りませんでした。まさかミラ様が、あんなに擦り切れていたなんて・・・。」

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「お前にはこんなモン見せたくなかったが、仕方ねぇ。」

そう言ってラリーザは、一枚の写真をグレースに投げて渡した。

「こっ、これ・・・!!」

グレースは口元を押さえて驚愕した。

写っていたのは、赤黒い血が溜められた、大量の樽。

「ミラのだ。」

「工・・・房・・・?」

「アイツ、地下に自分の血が入った樽を大量に貯めこんでてよ。そっから各防衛ラインに供給する武器を捻出してやがった。あの野郎・・・相当キテんな。」

震える手で写真を眺めるグレースが想起したのは、リヴンポーラーで言われた

エリガラードは全てを知っていた。

だからグレース達にミラをつま弾きにするような試練を言い渡したのだ。

「リヴンポーラーでエリガラード世界の観察者から言われた試練についてはすでにヒューゴから聞いてる。仕方ねぇが、ラトヴァール奪還作戦は、ミラ抜きでやるしかねぇ。それが祖王会議開催の条件だからな。そもそもこんな状態のミラを、とてもじゃねぇが参加させるワケにはいかない。」

グレースはその決定に賛成だった。

真実を打ち明けられた際の反応。

ここに至るまでに重ねた無茶な独断行動。

グレースは、これ以上ミラを戦場に立たせたくはなかった。

「しかしだラリーザ。アマリア・・・いや、キイルはかなりの手練れ。我が弟子を同伴したとてようやく五分に持ち込める強敵ぞ。」

「そこは勿論分かってるよジイさん。だからこっちもを呼んでおいた。」

「誰じゃ?」

だよ。」

「何と!?をここに呼んだのか!?」

「ルイギ様、誰なんですか?そのエズラって。」

「昔の馴染みじゃ。儂と同じく元四大戦将の一角にして、吸血鬼軍創設メンバーの一人じゃ。防御に優れた奴での。かつては❝血壁けっぺきの貴婦人❞と呼ばれ、幅を利かせていたものじゃ。」

それを聞いたグレースは頼もしく思った。

ルイギと同じ四大戦将の一人であった者とあらば、キイルの戦い方に関してよく熟知しているはずだ。

味方は一人でも多い方が心強い。

と、その時、会議室のドアが『ガチャ。』と開かれた。

「この気配・・・きおったな。」

「お払い箱からのご帰還ね!!隠居生活は身体が鈍って仕方なかったわ!!」

「おおエズラ!!よく来てくれ・・・ッッッ!!!」

その場にいる誰もが、部屋に入ってきたエズラに目を奪われた。

そこに立っていたのは・・・長身で、桃色の髪をカールにした、大きく横に広がった巨漢の女だった。

「何よ?」

「えっ、エズラ・・・じゃよな・・・?」

「その老け顔・・・もしかしてルイギね!!またあなたと仕事するなんてなんだか懐かしいわね。」

「なっ、何だか・・・様変わりしたな・・・。」

「100年間も会ってなかったのだから、そりゃちょっとは変わってるわよ。」

❝ちょっとどころではないだろ。❞

そうルイギはツッコミたかったが、仮にも女性なので抑えることにした。

「それで、どこなの?って。」

「ああ、それな・・・。」

「あっ、あの・・・。」

「あら!!もしかして・・・・この子!?」

「そう・・・だが・・・。」

「なんてことなのぉ・・・。アリス女王陛下にそっくりじゃない。こんな日が来るなんてねぇ・・・。」

エズラは目に薄っすらと涙を浮かべて感動した。

「初めまして。グレースです。エズラ様ですね。随分となお方なので驚きました。」

「ばっ・・・!!グレース!!何を・・・!?」

「あらま~!!♡♡♡」

「へ・・・?」

「私ってそんなにいい身体しているかしら!?フフッ。お姉さん、優しい女の子は好きよ♪よし!!頑張って、アマリアのバカから王国を取り戻しましょうね!!!」

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「お前って奴は・・・。」

外見こそ大きく変わったものの、相変わらずのポジティブ思考な戦友に、ルイギは苦笑いを浮かべつつも喜んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...