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第六章 : 女王の帰還
ラトヴァール滅亡記・中
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「は?ちょっ、えへぇ・・・?」
状況を受け入れ難いアマリアは、上ずった笑いをしながら席から立ち上がって母の許によろよろと寄る。
「お母様?これ、何かの間違いですよね?王位を継ぐのは私のはずでしょう?」
「同じことを二度言わせないで。王位を継ぐのはアリス・・・。その決定は覆りません。」
「なっ、なんでこんな弱虫に跡を継がせるの?コイツ城に閉じこもってばっかで、なんの役にも立ってないじゃん!それに比べたら私の方が・・・!!」
「あなたが?何ですか?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「私がどれだけこの国に尽くしてやったと思ってんだよッッッ!!!次の女王に相応しいのは私でしょ!?アンタ・・・頭わいてんじゃないの?」
女王・・・何より自らの母に侮蔑の言葉を浴びせるアマリアを見て、群衆はどよめいた。
しかし女王は毅然とした態度で、こう言い放った。
「それはあなたの方でしょう!!アマリア!!!」
「はっ、はぁ・・・!?」
「私はあなたが生来持って生まれた傲慢を叩き直すために、あなたを国防を任せました。ですが、それは間違った選択のようですね。あなたと戦場に赴いた者の多くが、こう証言しています。❝姫君は戦いを愉しんでいた。目の前の敵を嬲り殺しにしていた。❞と。」
そう。
アマリアの性格は矯正されるどころか、更に悪化していた。
戦の才覚に恵まれていた彼女はそれに溺れ、傲慢不遜な吸血鬼の姫は、残虐かつ好戦的な狂戦士へと変貌を遂げてしまっていた。
先の竜種討伐戦においてもアマリアは、味方に大規模な損害が出ているにも関わらず、竜との戦いを児戯のように興じていたという。
そして斃した竜の首筋に噛み付き、せせら笑いを浮かべてその血を啜る光景に、兵達は皆、戦慄した。
「あなたのような恐ろしい者をこの国の王に据えることは罷りかねます。あなたが自らの行ないを少し
でも省みれば私にも慈悲が芽生えたでしょう。ですがあなたの先程の振る舞い・・・。あなたは本当に、子どもの頃から何一つ変わっていないのですね。即刻この場を去りなさいッッッ!!!」
群衆の冷ややかな視線がアマリアを突き刺す。
「私・・・ずっと頑張ってきたのに、何だよコレ・・・?」
憔悴しきった表情でアマリアはその場を離れた。
「覚えてろ・・・。必ず、後悔させてやる・・・。」
アマリアは俯きながら、呪詛の言葉を呟いた。
「我が愚娘が見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ございません。気を取り直して、これより継承の義を執り行います。アリス、前へ。」
「はっ、はい!」
気持ちを落ち着かせて、アリスは席から立ち上がり、壇上で母と向かい合った。
「アリス、これを。」
母は自分の指にはめられていた、王の証かる指輪をアリスの指にはめた。
これで王の権利は、アリスに譲渡された。
群衆から拍手が上がり、新たな女王の誕生を喜ぶ。
「アリス。」
王位を譲渡した母が、アリスの前に跪く。
これから行うことは、分かりきっていた。
母の血・・・即ち魂を自らの中に取り入れる。
「はい。」
アリスは母と同じ目線にしゃがみ込み、両肩を掴んでその首筋に牙を突き立てようとする。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「どうしました?」
口を開けたまま固まる娘を、母は訝しむ。
「私、には・・・。」
「辛いのは重々承知しています。ですが王位を継ぐ身として、これは避けては通れぬ道なのです。」
「でっ、ですが・・・!!」
「躊躇うことは許されません。さぁやるのです!!」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「イヤだ・・・。」
「アリス?キャッ・・・!?」
突然アリスは母を突き飛ばした。
「何で私がお母様を殺さなくちゃならないの!?おかしいよこんなの!!ご先祖様がずっとやってきたって理由で、どうして私までそれをやらなくちゃいけないの!?親を殺して跡を継ぐなんて、間違ってる・・・。絶対に間違ってるよッッッ!!!こんな伝統、私の代で終わらせてやる!!私は何があっても、お母様の血なんか飲まないからッッッ!!!」
「アリス・・・。」
「納得できないなら私から王位を取り上げて!!それでお母様を殺さずに済むんだったら、私は・・・!!」
「構いませんよ。」
「え・・・?」
あまりに拍子抜けな言葉を投げかける母に、アリスは戸惑った。
「アリス。どうして不死である私達がわざわざ娘に王位を継がせるか分かりますか?それはね、型にはめられない新しい王を求めているからよ。」
「型に、はめられない・・・?」
「老いない王がいつまでも国を統治していたら、凝り固まった主君の考えは国全体にまで波及してしまう。それを防ぐためには、次の王を据え、国に新たな風を息吹かせる必要がある。あなたはそれを、既に成し遂げた。」
「私が・・・?」
「1600年もの間続いた因習を終わらせるって宣言したじゃない?それは建国以来、どの王もできなかった偉業です。あなたに王位を継がせると決めた私の考えは、間違っていなかったのね。」
安心した笑みを浮かべて、母は壇上の最前列に立った。
「民の者達よ!!迎え入れましょう!!慈愛に満ちた、私達の新たな王をッッッ!!!」
群衆からの喝采とともに、こうしてアリスは、ラトヴァール第17代目国王に就任したのだった。
それからのアリスは、他種族との協和路線開拓に尽力した。
それは吸血鬼に対し敵対姿勢を貫いてきた森精人達に及び、結果として、彼女の考えに感銘を受け、差別意識を持つ森精人は減少していった。
現在の森精人が、吸血鬼に対し柔和な姿勢を取るのは彼女の偉業が大きいだろう。
やがて彼女は、私生活においても順風満帆で、添い遂げられる男性と出会い、彼との間に一人娘を授かった。
一日一日が幸福に満ちていた。
あの日がやって来るまでは・・・。
その日はアリスの娘の5歳の生誕祭が城で開かれ、身内は勿論、親交の深い臣下達も招待され、城内はお祭り騒ぎだった。
だが招かれざる客が、城に訪れていた。
「全部ブチ壊してやる・・・。全員、殺すッッッ!!!」
風を纏って宙に浮かぶアマリアは、城を見下ろして宣言した。
状況を受け入れ難いアマリアは、上ずった笑いをしながら席から立ち上がって母の許によろよろと寄る。
「お母様?これ、何かの間違いですよね?王位を継ぐのは私のはずでしょう?」
「同じことを二度言わせないで。王位を継ぐのはアリス・・・。その決定は覆りません。」
「なっ、なんでこんな弱虫に跡を継がせるの?コイツ城に閉じこもってばっかで、なんの役にも立ってないじゃん!それに比べたら私の方が・・・!!」
「あなたが?何ですか?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「私がどれだけこの国に尽くしてやったと思ってんだよッッッ!!!次の女王に相応しいのは私でしょ!?アンタ・・・頭わいてんじゃないの?」
女王・・・何より自らの母に侮蔑の言葉を浴びせるアマリアを見て、群衆はどよめいた。
しかし女王は毅然とした態度で、こう言い放った。
「それはあなたの方でしょう!!アマリア!!!」
「はっ、はぁ・・・!?」
「私はあなたが生来持って生まれた傲慢を叩き直すために、あなたを国防を任せました。ですが、それは間違った選択のようですね。あなたと戦場に赴いた者の多くが、こう証言しています。❝姫君は戦いを愉しんでいた。目の前の敵を嬲り殺しにしていた。❞と。」
そう。
アマリアの性格は矯正されるどころか、更に悪化していた。
戦の才覚に恵まれていた彼女はそれに溺れ、傲慢不遜な吸血鬼の姫は、残虐かつ好戦的な狂戦士へと変貌を遂げてしまっていた。
先の竜種討伐戦においてもアマリアは、味方に大規模な損害が出ているにも関わらず、竜との戦いを児戯のように興じていたという。
そして斃した竜の首筋に噛み付き、せせら笑いを浮かべてその血を啜る光景に、兵達は皆、戦慄した。
「あなたのような恐ろしい者をこの国の王に据えることは罷りかねます。あなたが自らの行ないを少し
でも省みれば私にも慈悲が芽生えたでしょう。ですがあなたの先程の振る舞い・・・。あなたは本当に、子どもの頃から何一つ変わっていないのですね。即刻この場を去りなさいッッッ!!!」
群衆の冷ややかな視線がアマリアを突き刺す。
「私・・・ずっと頑張ってきたのに、何だよコレ・・・?」
憔悴しきった表情でアマリアはその場を離れた。
「覚えてろ・・・。必ず、後悔させてやる・・・。」
アマリアは俯きながら、呪詛の言葉を呟いた。
「我が愚娘が見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ございません。気を取り直して、これより継承の義を執り行います。アリス、前へ。」
「はっ、はい!」
気持ちを落ち着かせて、アリスは席から立ち上がり、壇上で母と向かい合った。
「アリス、これを。」
母は自分の指にはめられていた、王の証かる指輪をアリスの指にはめた。
これで王の権利は、アリスに譲渡された。
群衆から拍手が上がり、新たな女王の誕生を喜ぶ。
「アリス。」
王位を譲渡した母が、アリスの前に跪く。
これから行うことは、分かりきっていた。
母の血・・・即ち魂を自らの中に取り入れる。
「はい。」
アリスは母と同じ目線にしゃがみ込み、両肩を掴んでその首筋に牙を突き立てようとする。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「どうしました?」
口を開けたまま固まる娘を、母は訝しむ。
「私、には・・・。」
「辛いのは重々承知しています。ですが王位を継ぐ身として、これは避けては通れぬ道なのです。」
「でっ、ですが・・・!!」
「躊躇うことは許されません。さぁやるのです!!」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「イヤだ・・・。」
「アリス?キャッ・・・!?」
突然アリスは母を突き飛ばした。
「何で私がお母様を殺さなくちゃならないの!?おかしいよこんなの!!ご先祖様がずっとやってきたって理由で、どうして私までそれをやらなくちゃいけないの!?親を殺して跡を継ぐなんて、間違ってる・・・。絶対に間違ってるよッッッ!!!こんな伝統、私の代で終わらせてやる!!私は何があっても、お母様の血なんか飲まないからッッッ!!!」
「アリス・・・。」
「納得できないなら私から王位を取り上げて!!それでお母様を殺さずに済むんだったら、私は・・・!!」
「構いませんよ。」
「え・・・?」
あまりに拍子抜けな言葉を投げかける母に、アリスは戸惑った。
「アリス。どうして不死である私達がわざわざ娘に王位を継がせるか分かりますか?それはね、型にはめられない新しい王を求めているからよ。」
「型に、はめられない・・・?」
「老いない王がいつまでも国を統治していたら、凝り固まった主君の考えは国全体にまで波及してしまう。それを防ぐためには、次の王を据え、国に新たな風を息吹かせる必要がある。あなたはそれを、既に成し遂げた。」
「私が・・・?」
「1600年もの間続いた因習を終わらせるって宣言したじゃない?それは建国以来、どの王もできなかった偉業です。あなたに王位を継がせると決めた私の考えは、間違っていなかったのね。」
安心した笑みを浮かべて、母は壇上の最前列に立った。
「民の者達よ!!迎え入れましょう!!慈愛に満ちた、私達の新たな王をッッッ!!!」
群衆からの喝采とともに、こうしてアリスは、ラトヴァール第17代目国王に就任したのだった。
それからのアリスは、他種族との協和路線開拓に尽力した。
それは吸血鬼に対し敵対姿勢を貫いてきた森精人達に及び、結果として、彼女の考えに感銘を受け、差別意識を持つ森精人は減少していった。
現在の森精人が、吸血鬼に対し柔和な姿勢を取るのは彼女の偉業が大きいだろう。
やがて彼女は、私生活においても順風満帆で、添い遂げられる男性と出会い、彼との間に一人娘を授かった。
一日一日が幸福に満ちていた。
あの日がやって来るまでは・・・。
その日はアリスの娘の5歳の生誕祭が城で開かれ、身内は勿論、親交の深い臣下達も招待され、城内はお祭り騒ぎだった。
だが招かれざる客が、城に訪れていた。
「全部ブチ壊してやる・・・。全員、殺すッッッ!!!」
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