上 下
356 / 514
第六章 : 女王の帰還

無間館の戦い⑧

しおりを挟む
トヴィリンは儂の申し出を受け入れ、儂はノヴァクに許可を取り彼女を牢の外に連れ出した。

それから儂はトヴィリンとともに再び流浪の身となり、行く先々で儂は彼女に剣術の稽古をつけてやった。

「背筋を伸ばせと何度言ったら分かる!?握りもまだまだ全然なっとらんぞ!!」

「すっ、すいません!!もう一本・・・お願いしますッッッ!!!」

多くの若い者が根を上げた儂の打ち込みに、トヴィリンは必死に食らいついた。

それどころか、彼女の顔つきは、むしろ活気に溢れていた。

まるでこの苦行を、かのように・・・。

「常々気になっていたのだが、お前・・・儂の稽古が辛くないのか?」

「そっ、そりゃ~もう大変ですよぅ~!!」

「ならば何故そんなにも楽しそうにしておる?」

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「誰かを殺さないで、強くなれますから・・・。」

暫しの沈黙の後、トヴィリンはそう答えた。

そうじゃった。

この子は己の才を磨くために、殺しを強要されたのだった。

それもあろうことか、実の親から・・・。

それに比べれば、儂の打ち込みなど、何と楽しんで当然の物なのだろう。

殺しをせず、厳しくはあるが指南してくれる者と面と向かって鍛練できるのだからな。

そうした日々が続き、トヴィリンは儂の動きについてこれるようになった。

元々楽しみながら鍛練を重ねてきたのだ。

何かの拍子にのだろう。

あとはミラの手で封じられた魔能を再び呼び覚ますだけだ。

しかしこれが中々に難儀した。

さすがミラの施した“魔能封じの魔能”だ。

年端もいかぬ人間の少女に容易く解けるほどの代物ではなかった。

気付けば儂とトヴィリンが旅を始めて半年が経とうとしていた。

「先生・・・。私、どうしたらいいのでしょうか・・・?」

とある日の夕食の席でトヴィリンは落ち込みながら儂に聞いてきた。

「封じられた魔能の解放については儂も詳細を語ることはできんのじゃ。」

「そう、ですか・・・。」

「ただ、一つアドバイスをするならば・・・。」

「はい?」

「魔能は己の生への想いを最も高めた時に、真の力を発揮する。そしてそれを見出すのに不可欠なのが・・・に対しての明確なイメージじゃ。」

「勇気と、臆病の、狭間・・・。」

というのは絶大な力を有していてな。どのように勇猛果敢な戦士でもこれに精神を冒されれば、生に固執する卑しいケダモノになり得てしまう。じゃがそれを制御できれば、生への執着は、勝利に対する強固な意思を生み出す。要するに、勝利がもたらす恩恵と己の死、つまりは敗北が引き起こす悲劇に対して、渇望と恐怖を鮮明に思い浮かべれば、お前の魔能も再び花開く・・・かもしれんのぅ。」

トヴィリンは、自分で言うのもなんだが、的を得ぬ言葉に終始耳を傾けていた。

「先生。」

「何じゃ?」

「どうして先生は、私を弟子に取ってくれたの、ですか?前まで敵同士だったのに・・・。」



実は儂自信あまり分かっていなかった。

一つ思いつくとすれば・・・。

「近くに置いていける誰かが欲しかったのかもな。」

そんなあやふやな答えをした次の日のことだった。

トヴィリンは生まれ持っての魔能である“先読みの神感ゴッズ・フォーサイト”を呼び覚ますことに成功したのだ。

あまりに急なことに儂は柄になく驚いてしまった。

「おっ、お前・・・!!どのようにして・・・!?」

トヴィリンも自分に起こったことに、激しく動揺しているようだった。

「わっ、私にも・・・!!何が何やら・・・!!!ただ、ちょっと想像したことがあって・・・。」

「想像?」

・・・。・・・。そう考えたら、怖くて怖くて・・・。」

「儂の身を案じて・・・。」

「だっ、だって・・・!!先生は、私のこと、すごく大切に育ててくれたから・・・!!生まれて初めて、私のこと、ちゃんと育ててくれたから・・・!!!」

この子の儂への想いが、この子に勇気と臆病の狭間を見出してくれたということか?

だとすれば、悪い思いはしないな。

「ここまでよく頑張ったの。まだ通過点ではあるが、お前にこれを贈ろう。」

儂は血操師ブラッド・スターで一つの短剣を作り、それをトヴィリンに贈った。

まだ子どもである彼女にも扱いやすいように刀身が短く、刃の付いていない斬れない短剣を。

「これからも、精進するのじゃぞ。」

「あっ、ありがとうございます。え・・・!?うっ、ウソ!?!?」

「どうした?」

「先生!!声が・・・声が聞こえたんですッッッ!!!もう一人の、私の・・・!!!」

「なっ、何じゃと!?!?」

まっ、まさかこやつ!!

一度に二つの魔能の再覚醒を成したというのか!?!?

「ずっ、ずっと・・・!!ずっと会いたかったッッッ!!!“ジイさんからのプレゼント大切にしろ。”って?もう~!!分かってるよぉ・・・。」

嬉し涙を流すトヴィリンを見て、儂は震えた薄ら笑いを浮かべた。




◇◇◇




「じゃあ・・・行くよ・・・!!」

「カァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ・・・!!!!」

自分の目の前で再び影の自分を呼び出したトヴィリンに、ルイギはかつての疑惑を確信に変え、呟く。

「どうやら儂は、とんでもない逸材の師になってしまったようじゃのぉ・・・。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...