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第六章 : 女王の帰還
無間館の戦い⑧
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トヴィリンは儂の申し出を受け入れ、儂はノヴァクに許可を取り彼女を牢の外に連れ出した。
それから儂はトヴィリンとともに再び流浪の身となり、行く先々で儂は彼女に剣術の稽古をつけてやった。
「背筋を伸ばせと何度言ったら分かる!?握りもまだまだ全然なっとらんぞ!!」
「すっ、すいません!!もう一本・・・お願いしますッッッ!!!」
多くの若い者が根を上げた儂の打ち込みに、トヴィリンは必死に食らいついた。
それどころか、彼女の顔つきは、むしろ活気に溢れていた。
まるでこの苦行を、楽しんでいるかのように・・・。
「常々気になっていたのだが、お前・・・儂の稽古が辛くないのか?」
「そっ、そりゃ~もう大変ですよぅ~!!」
「ならば何故そんなにも楽しそうにしておる?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「誰かを殺さないで、強くなれますから・・・。」
暫しの沈黙の後、トヴィリンはそう答えた。
そうじゃった。
この子は己の才を磨くために、殺しを強要されたのだった。
それもあろうことか、実の親から・・・。
それに比べれば、儂の打ち込みなど、何と楽しんで当然の物なのだろう。
殺しをせず、厳しくはあるが指南してくれる者と面と向かって鍛練できるのだからな。
そうした日々が続き、トヴィリンは儂の動きについてこれるようになった。
元々楽しみながら鍛練を重ねてきたのだ。
何かの拍子に化けることができたのだろう。
あとはミラの手で封じられた魔能を再び呼び覚ますだけだ。
しかしこれが中々に難儀した。
さすがミラの施した“魔能封じの魔能”だ。
年端もいかぬ人間の少女に容易く解けるほどの代物ではなかった。
気付けば儂とトヴィリンが旅を始めて半年が経とうとしていた。
「先生・・・。私、どうしたらいいのでしょうか・・・?」
とある日の夕食の席でトヴィリンは落ち込みながら儂に聞いてきた。
「封じられた魔能の解放については儂も詳細を語ることはできんのじゃ。」
「そう、ですか・・・。」
「ただ、一つアドバイスをするならば・・・。」
「はい?」
「魔能は己の生への想いを最も高めた時に、真の力を発揮する。そしてそれを見出すのに不可欠なのが・・・勇気と臆病の狭間に対しての明確なイメージじゃ。」
「勇気と、臆病の、狭間・・・。」
「死への恐怖というのは絶大な力を有していてな。どのように勇猛果敢な戦士でもこれに精神を冒されれば、生に固執する卑しいケダモノになり得てしまう。じゃがそれを制御できれば、生への執着は、勝利に対する強固な意思を生み出す。要するに、勝利がもたらす恩恵と己の死、つまりは敗北が引き起こす悲劇に対して、渇望と恐怖を鮮明に思い浮かべれば、お前の魔能も再び花開く・・・かもしれんのぅ。」
トヴィリンは、自分で言うのもなんだが、的を得ぬ言葉に終始耳を傾けていた。
「先生。」
「何じゃ?」
「どうして先生は、私を弟子に取ってくれたの、ですか?前まで敵同士だったのに・・・。」
トヴィリンを弟子にした理由。
実は儂自信あまり分かっていなかった。
一つ思いつくとすれば・・・。
「近くに置いていける誰かが欲しかったのかもな。」
そんなあやふやな答えをした次の日のことだった。
トヴィリンは生まれ持っての魔能である“先読みの神感”を呼び覚ますことに成功したのだ。
あまりに急なことに儂は柄になく驚いてしまった。
「おっ、お前・・・!!どのようにして・・・!?」
トヴィリンも自分に起こったことに、激しく動揺しているようだった。
「わっ、私にも・・・!!何が何やら・・・!!!ただ、ちょっと想像したことがあって・・・。」
「想像?」
「もしこれが本当の戦いだったら・・・。これに負けたら先生がまた一人になるんじゃないか・・・。そう考えたら、怖くて怖くて・・・。」
「儂の身を案じて・・・。」
「だっ、だって・・・!!先生は、私のこと、すごく大切に育ててくれたから・・・!!生まれて初めて、私のこと、ちゃんと育ててくれたから・・・!!!」
この子の儂への想いが、この子に勇気と臆病の狭間を見出してくれたということか?
だとすれば、悪い思いはしないな。
「ここまでよく頑張ったの。まだ通過点ではあるが、お前にこれを贈ろう。」
儂は血操師で一つの短剣を作り、それをトヴィリンに贈った。
まだ子どもである彼女にも扱いやすいように刀身が短く、刃の付いていない斬れない短剣を。
「これからも、精進するのじゃぞ。」
「あっ、ありがとうございます。え・・・!?うっ、ウソ!?!?」
「どうした?」
「先生!!声が・・・声が聞こえたんですッッッ!!!もう一人の、私の・・・!!!」
「なっ、何じゃと!?!?」
まっ、まさかこやつ!!
一度に二つの魔能の再覚醒を成したというのか!?!?
「ずっ、ずっと・・・!!ずっと会いたかったッッッ!!!“ジイさんからのプレゼント大切にしろ。”って?もう~!!分かってるよぉ・・・。」
嬉し涙を流すトヴィリンを見て、儂は震えた薄ら笑いを浮かべた。
◇◇◇
「じゃあ・・・行くよ・・・!!」
「カァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ・・・!!!!」
自分の目の前で再び影の自分を呼び出したトヴィリンに、ルイギはかつての疑惑を確信に変え、呟く。
「どうやら儂は、とんでもない逸材の師になってしまったようじゃのぉ・・・。」
それから儂はトヴィリンとともに再び流浪の身となり、行く先々で儂は彼女に剣術の稽古をつけてやった。
「背筋を伸ばせと何度言ったら分かる!?握りもまだまだ全然なっとらんぞ!!」
「すっ、すいません!!もう一本・・・お願いしますッッッ!!!」
多くの若い者が根を上げた儂の打ち込みに、トヴィリンは必死に食らいついた。
それどころか、彼女の顔つきは、むしろ活気に溢れていた。
まるでこの苦行を、楽しんでいるかのように・・・。
「常々気になっていたのだが、お前・・・儂の稽古が辛くないのか?」
「そっ、そりゃ~もう大変ですよぅ~!!」
「ならば何故そんなにも楽しそうにしておる?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「誰かを殺さないで、強くなれますから・・・。」
暫しの沈黙の後、トヴィリンはそう答えた。
そうじゃった。
この子は己の才を磨くために、殺しを強要されたのだった。
それもあろうことか、実の親から・・・。
それに比べれば、儂の打ち込みなど、何と楽しんで当然の物なのだろう。
殺しをせず、厳しくはあるが指南してくれる者と面と向かって鍛練できるのだからな。
そうした日々が続き、トヴィリンは儂の動きについてこれるようになった。
元々楽しみながら鍛練を重ねてきたのだ。
何かの拍子に化けることができたのだろう。
あとはミラの手で封じられた魔能を再び呼び覚ますだけだ。
しかしこれが中々に難儀した。
さすがミラの施した“魔能封じの魔能”だ。
年端もいかぬ人間の少女に容易く解けるほどの代物ではなかった。
気付けば儂とトヴィリンが旅を始めて半年が経とうとしていた。
「先生・・・。私、どうしたらいいのでしょうか・・・?」
とある日の夕食の席でトヴィリンは落ち込みながら儂に聞いてきた。
「封じられた魔能の解放については儂も詳細を語ることはできんのじゃ。」
「そう、ですか・・・。」
「ただ、一つアドバイスをするならば・・・。」
「はい?」
「魔能は己の生への想いを最も高めた時に、真の力を発揮する。そしてそれを見出すのに不可欠なのが・・・勇気と臆病の狭間に対しての明確なイメージじゃ。」
「勇気と、臆病の、狭間・・・。」
「死への恐怖というのは絶大な力を有していてな。どのように勇猛果敢な戦士でもこれに精神を冒されれば、生に固執する卑しいケダモノになり得てしまう。じゃがそれを制御できれば、生への執着は、勝利に対する強固な意思を生み出す。要するに、勝利がもたらす恩恵と己の死、つまりは敗北が引き起こす悲劇に対して、渇望と恐怖を鮮明に思い浮かべれば、お前の魔能も再び花開く・・・かもしれんのぅ。」
トヴィリンは、自分で言うのもなんだが、的を得ぬ言葉に終始耳を傾けていた。
「先生。」
「何じゃ?」
「どうして先生は、私を弟子に取ってくれたの、ですか?前まで敵同士だったのに・・・。」
トヴィリンを弟子にした理由。
実は儂自信あまり分かっていなかった。
一つ思いつくとすれば・・・。
「近くに置いていける誰かが欲しかったのかもな。」
そんなあやふやな答えをした次の日のことだった。
トヴィリンは生まれ持っての魔能である“先読みの神感”を呼び覚ますことに成功したのだ。
あまりに急なことに儂は柄になく驚いてしまった。
「おっ、お前・・・!!どのようにして・・・!?」
トヴィリンも自分に起こったことに、激しく動揺しているようだった。
「わっ、私にも・・・!!何が何やら・・・!!!ただ、ちょっと想像したことがあって・・・。」
「想像?」
「もしこれが本当の戦いだったら・・・。これに負けたら先生がまた一人になるんじゃないか・・・。そう考えたら、怖くて怖くて・・・。」
「儂の身を案じて・・・。」
「だっ、だって・・・!!先生は、私のこと、すごく大切に育ててくれたから・・・!!生まれて初めて、私のこと、ちゃんと育ててくれたから・・・!!!」
この子の儂への想いが、この子に勇気と臆病の狭間を見出してくれたということか?
だとすれば、悪い思いはしないな。
「ここまでよく頑張ったの。まだ通過点ではあるが、お前にこれを贈ろう。」
儂は血操師で一つの短剣を作り、それをトヴィリンに贈った。
まだ子どもである彼女にも扱いやすいように刀身が短く、刃の付いていない斬れない短剣を。
「これからも、精進するのじゃぞ。」
「あっ、ありがとうございます。え・・・!?うっ、ウソ!?!?」
「どうした?」
「先生!!声が・・・声が聞こえたんですッッッ!!!もう一人の、私の・・・!!!」
「なっ、何じゃと!?!?」
まっ、まさかこやつ!!
一度に二つの魔能の再覚醒を成したというのか!?!?
「ずっ、ずっと・・・!!ずっと会いたかったッッッ!!!“ジイさんからのプレゼント大切にしろ。”って?もう~!!分かってるよぉ・・・。」
嬉し涙を流すトヴィリンを見て、儂は震えた薄ら笑いを浮かべた。
◇◇◇
「じゃあ・・・行くよ・・・!!」
「カァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ・・・!!!!」
自分の目の前で再び影の自分を呼び出したトヴィリンに、ルイギはかつての疑惑を確信に変え、呟く。
「どうやら儂は、とんでもない逸材の師になってしまったようじゃのぉ・・・。」
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