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第六章 : 女王の帰還

無間館の戦い③

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「くっ・・・!!」

エルモロクによって蹴り飛ばされたヒューゴは、どうにか受け身を取って部屋の壁に衝突することを防いだ。

「引き離されてしまいましたか。グレース・・・。」

「仲間の心配よりも、まずは自分の心配をしたらどうだ?」

片膝を付くヒューゴを、エルモロクが余裕に満ちた眼で見下ろす。

「グレースをキイルに譲りましたか。賢明な判断とは言えませんね。」

「そう思うか?」

「ええ。あなた、私についてはおおよその調べは着いているのでしょう?」

「“乙女の永友”が一角、“聖賢の眼・ヒューゴ”。吸血鬼軍屈指の戦略家にして精神系魔能随一の使い手・・・。この世界の住民ならばその程度把握するくらい造作もない。」

「それが分かっていて、何故私の相手をすることにしたのですか?」

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「お前・・・私との相性、最悪だから。」

自信たっぷりの笑みを浮かべて、エルモロクはヒューゴに言い放った。

「それはどういうことですか?」

「疑うのならこの私に幻術の一つくらいかけたらどうだ。知恵者だろう?ならば実際に立証してみればどうだ?」

どう見ても試されたような言い方をされ、ヒューゴは珍しく不快感を覚えた。

「いいでしょう。こちらとしても、あなたの相手を長々とするつもりはありませんから。この空間があなたでも制御不能なら、せめて付き纏う脅威は除外しておかないと。」

そう言った直後、ヒューゴは眼に魔力を込めて、魔能を発動する動作に入った。

天級ヘヴン第五位・死の幻バーチャリティ・デス!!」

エルモロクの挑発的な態度に怒りを覚えていたヒューゴは、彼に痛い目を見てもらうという意味で、西方吸血鬼本部でトヴィリンに使った、疑似的な死を与える魔能を行使した。

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「何かしたか?」

「え・・・?」

魔能を使ったはずなのに、エルモロクはピンピンしている。

目の前で起こっている予期せぬ事態に、ヒューゴは柄にもなく狼狽した。

「手品な終わりか?なら次は、私の番だ。」

混乱するヒューゴに、エルモロクは剣を抜いて向かってきた。

ヒューゴは寸でのところで回避したが、剣の切っ先が腕を掠めてしまった。

地級アース第一位・全意喪失オールセンス・ブラックアウト!!」

気を取り直しヒューゴは、エルモロクに再び精神干渉の魔能をかける。

だがやはり、エルモロクにはこれといった効果がまるで見られない。

「はっ!ふん!はあっ!!」

エルモロクはヒューゴに剣を振り続け、ヒューゴはそれを避けるのに精一杯だ。

「くっ・・・!!ああっ・・・!!!」

膠着状態に我慢できなくなったヒューゴは、エルモロクから大きく距離を取り、全神経と魔力を集中させた。

天級ヘヴン第五位・完全なる幻影クワイエット・ファントム!!!」

そしてついに、幻影魔能の中でも最高峰の術をエルモロクに使用した。

生み出した幻は、本物と寸分違わぬ複数の自分。

冥王の降臨ロングリヴ・ダークロード”で暴走状態になったミラでも翻弄した魔能だ。

これなら奴に通用する。

そうヒューゴは確信した。

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「かはっ・・・!?」

しかしエルモロクは惑わされることなく、本物のヒューゴを一発で見抜き、その肩を貫いた。

「だから言っただろう。“お前と私では相性が悪い。”と。」

剣をヒュンヒュンと遊ばせて、エルモロクは勝ち誇った態度で言った。

「私の魔能をこれほどまで無効化するなんて・・・。あなた、どんな反則をしたのですか?」

と言われるのは、些か納得できないが、教えてあげよう。・・・・・・・。“天級ヘヴン第四位魔能・見えざる物への盾シールド・オブ・アブノーマライズ。”」

その魔能を聞いた瞬間、ヒューゴの眉がピクっと動いた。

その魔能は、物理攻撃系魔能以外の全てを無効化する空間を自分の周囲に展開する、空間魔能の一種だ。

だがヒューゴは腑に落ちなかった。

「確かにそれなら私の魔能も防ぐことができるでしょう。ですがその魔能を使うには、並大抵の集中力が必要となり、などできないはずでは?」

「鍛練さえ積めば、ことも可能だ。私は森精人エルフだ。鍛練の時間など腐るほどある。」

認識が甘かった。

まさかエルモロクが、これほどまで空間系魔能に精通したなんて・・・。

自分の私見の浅さを、ヒューゴは心から悔やんだ。

だがそれも、もう遅い。

「さてどうやって切り抜ける?さぞかし面白い知恵を見せてくれるのだろうな。“聖賢の眼・ヒューゴ?」

長きに渡る生涯の中で、ヒューゴが初めて、魔能戦において圧倒的不利な環境に立たされた瞬間であった。
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