上 下
344 / 514
第六章 : 女王の帰還

バラバラの始まり

しおりを挟む
後日、マースミレンに帰還し、暫しの療養期間を送ったソル・ヴェナは、ヒューゴとプリクトスに呼び出されていた。

「ではこの数日間の調査で得た、ロスドゥルガでの戦いにおける魔族側の損害を報告します。」

ヒューゴが書類を手にしイスから立ち上がる。

「まずリセについてですが、死体が確認できなかったため、ソル・ヴェナの放った最後の一撃から逃げ延び、生存している可能性が極めて高いです。」

ヒューゴからの報告を聞き、ソル・ヴェナは深々と頭を下げた。

「すまん!!本来であればリセを討ち取る任をもらったはずなのに、目先の敵に夢中になるあまり奴を取り逃してしまって・・・!!」

「そう落胆しないで下さいソル・ヴェナ。あなたが今回の戦いで得た戦果はかなり有益です。」

「なっ・・・?」

「ソル・ヴェナがロスドゥルガの地に眠っていた太古の怪物、鬼竜種バラドガムを倒したおかげでマースミレンは滅亡の危機から脱したのは勿論のこと、集結していた魔族1万の内の8割があなたの力によって葬られました。これにより、アドニサカは南方方面における戦力回復に大きな期間を要することでしょう。また、不浄の毒気の原因となっていた鬼竜種バラドガムが死んだことで、ロスドゥルガは、時間はかかりますが、確実に清浄に向かいつつある・・・と言ってもいいでしょう。」

「そう、か・・・。なら・・・良かった!!」

自分がした行いは決して無駄ではなく、今回の戦いばかりか後々の未来にも恩恵をもたらすと知り、ソル・ヴェナは心から安堵した。

「ありがとうございます、ソル・ヴェナ様。この国と民を厄災から守って頂き・・・。」

「我の手にかかればこの程度の厄介事を片付けることなど造作もないことよ!!」

「あまり調子に乗らないで下さいね。実際あなた、かなり危なかったみたいじゃないですか。」

「うっ・・・!!」

ヒューゴから指摘され、ソル・ヴェナはバツの悪そうな顔をした。

「とにかく、あなたにはもう少し静養してもらいます。今回の一件で受けた身体的、精神的負担を全快してもらうために。」

「そうやって、またソル・ヴェナに無茶させるんだ?」

「「「ッッッ!!!」」」

ハッと皆が一斉に声がした方を見ると、この会議に招いていない者が、窓枠に悠々と片膝を立てて座っていた。

「ミラ様・・・。」




◇◇◇




いきなりあたしがマースミレンこっちに来たことに、三人ともすごくビックリしたみたいだった。

まっ、そりゃそうだろう・・・。

「我が兄弟はらから・・・!どうしてここに・・・?」

「んん?なぁ~んか三人揃ってコソコソやってるからさ。あたしも混ぜてくんない?」

ジト目でソル・ヴェナを見た後、あたしはヒューゴ君の方へツカツカと歩いていった。

「ヒューゴ君。なんで今回のことあたしに知らせてくんなかったワケ?」

「ミラ様こそ、どのように今回の件を知ったのですか?」

ビビらず質問してくるヒューゴ君に、あたしはタネ明かしをすることにした。

「簡単なことだよ。大まかだけど、あたしはみんながどこに行ったか分かるようにマークしてある。ソル・ヴェナが一人でロスドゥルガに行ったから、何してんのか気になって詳しく調べてみたら・・・この通りってこと。」

タネ明かしをしたあたしに向かって、ヒューゴ君は露骨に不快そうな顔をした。

「我々のことを監視していたってことですか?」

「監視なんて人聞きの悪いこと言わないでよ。あたしはさ、ただみんなが危ないところに行ってないか心配で見張ってただけだよ。」

「ですがこれは・・・どうしても罷りなりません。はっきり申し上げて・・・背信行為にあたるのではないでしょうか?」

だって言うんだったらさ、やってることはそっちも同じじゃん。だってあたしに一切の相談もなく、ソル・ヴェナ一人に片付けさせたんだから。彼にもしものことがあったら、どう責任取るつもりだったの?え?」

問い詰めるあたしに対し、ヒューゴ君は毅然としながらも、どこか悲しむような声でこう返した。

「あなたに・・・これ以上、ご無理をさせることが・・・心苦しく・・・。」

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「まぁいいや。とりあえず、もしまたこういうことがないように、見張りのシステム強化しておくからそのつもりで。それこそもう二度と隠し事、できないくらいに。」

そう言うとあたしは、ゲートを開いて北方司令街の自分の部屋へと帰った。

“無理をさせることが心苦しい”?

何だよそれ?

あたしはただ、みんなのこと想ってやってるだけじゃんか。

なのにあんな、全否定するような目でそんなこと言われたらさぁ・・・。

「っざけんなよ・・・あたしのこと軽く見やがって・・・。」

ボソッと悪態をつくと、あたしはみんなに掛けたマーキング魔能の強化に取り掛かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...