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第五章 : 救世主と英雄

吸血鬼、南に集う

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10日後の夜、ソウリンさんの拠点を出発したあたし達は、南方吸血鬼軍本部の入口の門の前に到着した。

「何だか感慨深いですね~!!ミラお姉様!!」

「そだね~!なんせ一年ぶりだからね~ここ来るの。そういえばさ、二人に会ったのってここだったよね?」

「そうですね。となると、やはり思うところがありますね。」

またこうして、同じメンツで南方吸血鬼軍本部ここに来ることになるなんて・・・。

不思議な巡り合わせを感じるなぁ~・・・。

という具合に、物思いに浸りながら門に近づいていくと、『ギギッ・・・。』と音を立てながら門が少し開いた。

ちょうど、あたし達が通れる広さにだ。

「あれ?どしたんだろ?」

おかしく思っていると、開いた隙間から見知った顔がひょこっと顔を覗かせた。

「ああっ・・・!!」

「あなたは・・・。」

「へへっ♪どうも~。お待ちしておりました皆様!!」

「セドヴィグさぁん!!!」

出迎えてくれたのは、ステラフォルト要塞戦でお世話になった、南方吸血鬼本部執将補佐官のセドヴィグさんだった。

「久しぶり~!!待っててくれたんですか!?」

「ええ!ミラ様が一年振りにこちらに戻ってくると伺って、是非出迎えたくて・・・ひゃう!?!?」

セドヴィグさんのお腹に、白丸はくまると茶々助が擦り寄って来て、しきりに匂いを嗅ぐ。

久々に嗅いだ匂いに興味津々な二頭と違って、直立で固まるセドヴィグさん。

「あり?セドヴィグさん?もしも~し!?」

呼びかけても反応がない・・・。

これは・・・完全に立ったまま気絶してる・・・。

相変わらず、ビビりな人である・・・。




◇◇◇




「いやいや・・・。先程は、面目ございませんでした・・・。」

セドヴィグさんのブッ飛んだ意識が戻って、ようやくあたし達は先に進むことができた。

「しっかりしなさいよねホント・・・。ところでさ、何で私達がここに来るってことが分かったの?」

「グレース様達から聞きました。」

「えっ!?グレースちゃん達もう来てんの?」

「はい。3日間ほど前に。」

「そうなんだ・・・。あれ?ってことは・・・!!あたし達が南方こっちに来た理由も・・・!?」

「ええ。すでに聞き及んでいます。」

「イヴラヒムさんは?」

「執将様は現在、北方執将のラリーザ様と協議を重ねています。今回の作戦には、北方吸血鬼軍と南方吸血鬼軍との高度な連携は欠かせませんので。ミラ様が到着したので、これからは永友の皆様も交えての具体的な作戦方法について、ご相談していただく予定です。」

話の土台はすでにラリーちゃんが立ててくれているのか・・・。

それだとこっちの手間も多少は省けるだろう・・・。

やはり軍団一個のトップ同士の会談はバカにならない・・・といったところか。

セドヴィグさんと会話をしている内に、あたし達の前に本部の執将館が見えてきた。

あれ?

建物から何人か出てきた。

「う~む・・・!歯がゆいのぅ~!!話し合いに参加できんというのは・・・。」

「作戦立案は僕達の専門外だからね。ミラ様やヒューゴが来るまでラリーザ達に任せるしかないよ。」

「同じ本部に執将が二人もいらっしゃるのですから、きっと大丈夫ですよ!!ささっ。早く今日の買い出しに出かけましょう♪」

「お買い物、お買い物。」

「グレースちゃん!アウレルさん!ローランドさん!ドッペルちゃんも!!」

「「「ミラ様!!!」」」

本体マスター。」

執将館の前で、あたし達は念願の再会を果たしたのだった。

「よく来てくれたねみんな!!」

「ミラ様のお頼みですもの!!我輩達が助太刀しない道理はございません!!」

「久しぶりの、乙女の永友総動員の作戦・・・ですね。」

「そうですね・・・。」

「あれ?ヒューゴもしかしてワクワクしてるぅ~?」

「そんなことはございません。」

「ヒューゴ、ワクワク。」

「ほら!ドーラだってそう思うでしょ!!さすがは愛しのミラお姉様の生き写し♡♡♡」

「リリーナ、頬っぺたスリスリ、するなし。キモい・・・。」

「ガーン・・・!!!」

ははっ。

ドッペルちゃんったら。

早速あたしが教えた言葉を正しく使えてる。

リリーは堪ったモンじゃないだろうけど・・・。

おおっとそうだ!!

「グレースちゃん、実はさ・・・ここに来る前にソウリンさんの拠点に寄ったんだ。」

「本当ですか!?父は・・・元気でしたか?」

「うん!相変わらず。それでさ、お父さんから預かってるモノがあるんだよね。」

あたしは懐から指輪ケースを取り出して、パカっと開けた。

「これは・・・!お母さんの・・・。」

「ちょっと遅れたけど、97歳の誕生日おめでとう。成人祝いにって、お父さんから。」

「あっ、あの・・・。」

「何?」

「よろしければ・・・指に、はめてくれませんか?」

「えっ・・・ええっ!?何で!?」

「お父さんだけじゃなく、ミラ様からの贈り物としても預かりたいのです・・・。」

「でっ、でも・・・!!人の指に指輪はめるのって、まるで・・・。」

?何です?」

顔を真っ赤にするあたしとは反対に、グレースちゃんはキョトンとした顔を見せた。

まさか、こっちにはそういう文化はない、のか・・・?

「わっ、分かったよ・・・。」

ケースから指輪を取り出したあたしは、それをグレースちゃんの薬指にゆっくりとはめた。

「あの、どうして薬指なんですか?」

「あっ・・・!!」

しまったぁ~!!

緊張のあまり手順を同じにしてしまったぁ~!!

「ごっ、ごめん!!すぐ他の指にはめ直すからッッッ!!!」

「いえ。」

「え・・・?」

「恥ずかしながら、私は指が太うございますから、これで十分です。ありがとうございます。大切にいたしますね。」

グレースちゃんは、とっても満足そうに、指輪をさすりながら両手を胸にやった。

そんな親友の様子を見て、あたしはこっ恥ずかしくなって頭をポリポリ掻きながらそっぽを向いた。

すると、さっきまで駄弁っていた他のみんながジ~っとこっちを見ていることに気が付いた。

「なっ、何!?」

「なぁんかミラお姉様とリリー、イイ感じぃ~・・・。」

「そっ、そんなことないよ~!!これはあくまでも誕生日プレゼントを渡してるだけであって・・・!!」

本体マスターとグレース、イチャイチャ?」

「だぁかぁらぁ~!!違うって言ってんでしょ~が!!」

何でこの子達は揃いも揃って変な勘違いするのかな~!?

そう思ってたら、突然セドヴィグさんがグレースちゃんの傍まで近寄ってきた。

「なっ、何ですか?」

「すいませんが、さっきの指輪、もう少しじっくり見せてくれませんか?」

「えっ、ええ。」

グレースちゃんがはめた指輪を、セドヴィグさんはこれでもかっていうくらいジロジロ見てきた。

「どったの一体?」

「どこかで見たことある気がするんだよな、コレ・・・。」

「ええっ!?どこかってどこよ?」

「何かの古い書物・・・だった気が・・・。グレース様、この指輪は?」

「えっと・・・母の家に代々伝わる物です。子どもが成人になったら渡すしきたりになっていて・・・。」

「そうですか・・・。だとしたら、私の勘違いでした。」

「なっ、なんだビックリしたぁ~!!もう~セドヴィグさん!てっきりこの指輪がまたエラくご大層な代物なんじゃないかって思うところだったよ~!!そういうのはこの間のでお腹いっぱいなんだからさ~!」

「驚かせてしまって、本当にすみません!!」

「いえいえ!そんなに謝らないで下さい!」

頭を下げるセドヴィグさんにオロオロするグレースちゃんを見ると、指輪が一瞬光ったように見えたけど、多分、気のせいだと思う。
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