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第四章 : 朽蝕の救済

滅亡後の日常

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ヴェル・ハルド王国が滅亡してからはや一ヵ月。

それからの日常は、あたしが言うのもなんだけど、はっきり言って淡々としていた。

まず、今回起こったことの原因が、吸血鬼救済会によるものだと分かった後、あたし達は彼等が所有している、収容所から助けた吸血鬼の保護施設に行ってみた。

そこで見た物は、まぁ・・・何となくイメージしてた通りだったというか・・・。

保護施設は、木の柵で囲われた広大な庭と、その中に建てられた50人くらいは住めるログハウスが複数ある・・・という環境だった。

その中で保護された吸血鬼は、決められた時間に朝、昼、晩ごはんを食べて、自由時間に庭で遊んだり読書したり、それぞれが好きなことをして過ごす。

ただし、絶対に柵の向こう側の外の世界に出てはならない・・・。

どうやらフィアナちゃんは、本気であたし達のことを、くらいにしか思ってなかったみたいだ。

フィアナちゃんが死んで、吸血鬼救済会は事実上壊滅したようなモンだから、あたしは、保護施設にいた全ての吸血鬼達を引き取ることにした。

オリスギリアムに行っていた王国軍の兵士達は、ファイセアさんが迅速に退避を指揮してくれたため、半数以上があたしの領地まで避難することができた。

また、北部に住んでた住民達は、王様から彼等のことを任されたアルーチェさんが頑張ってくれたおかげで、一人の死傷者も出すことなく、逃げ出すことができた。

あたしは彼等を、難民として受け入れることを決めた。

最後に一番心配していた朽鬼きゅうきの王国外への進出についてだけど、ウィルスに何らかの遺伝子操作がされてたからか分からないけど、王国の領土から出て来ることはなかった。

よって元々王国の領土外に作られたあたしの領土は安全だということが証明された。

そんなこんなで、色んなことがバタバタと起こったけど、意外とスムーズに完了したのだった。

だけど、肝心のあたしがダメになってしまった・・・。

諸々のことが済んで、後のことをみんなに任せたあたしは、今も城の自室に引きこもってる。

“情けない”とか“責任感が足りてない”と思うかもしれないだろうが、とにかくそっとしておいてほしい・・・。

色々なことがあって・・・。

大切な人、これからもっと仲良くしていきたい人達を失って、とにかく・・・疲れてしまったんだ・・・。




◇◇◇




「ねぇグレース、ミラお姉様は?」

「まだ自室に閉じこもってます。」

夕食の席で、集まったミラの仲間達は頭を悩ませた。

「無理もなかろう。これからともに歩んでいこうと決めた国が滅んだのだ。心が疲弊してしまっても仕方なかろう。」

「しかしよぉ~!!もうひと月もロクに食ってねぇんだぜ!?ここらで元気になってもらわねぇとマズいんじゃねぇか!?」

「あ~もう!!ミラ様ったら!いつまで凹んでるんですか!!皆さん付き合い長いんでしょ!?なんかないんですか?慰めの言葉。」

「無茶言わないでよ。あんなに落ち込んだミラ様久しぶりに見たんだから。どんな言葉をかけてやればいいか分かんないのよ。逆にアンタは大丈夫なの?ソレット。アンタだって、大切な人、たくさん亡くした身でしょ?」

「私は・・・もう踏ん切りが着きました。いつまでも引きずっていたら、お世話になった人達に、申し訳ないですから・・・。」

「アンタ・・・意外と強いのね・・・。」

「身近な誰かを失うのはこれが初めてじゃないのでね。残された自分が、何を大事にするべきなのは、分かってるつもりです。」

「そっか・・・。」

皆の間に、暫しの沈黙が流れた。

「あれ?そう言えばイーニッドはどうしたのですか?」

「イーニッドなら“今日は一人にしてほしい”って言ってたよヒューゴ。」

「そうですかアウレル?今までは難民の今後についての議論にも参加していたのに・・・。」

「あの娘も我々の前では気丈に振舞っていただけなのだろう。何せ先の混乱で父君を亡くした身だからな・・・。」

「う~む・・・。分かりました。ではお二人のことは今日のところはそっとしておいて、ひとまずいただきましょう。」

「分かったわ。ソレットまた食べ過ぎないでよね?」

「育ち盛りなんですからいい加減目を瞑って下さいよぅ~。」



◇◇◇




夕暮れ時のカフェ。

あたしは外の席に座って、いつも遅れて来る彼氏を待っている。

久しぶりのデートだというのに、あたしの気持ちは沈み込んでいた。

「ミラ様。」

どんよりとした気分でいると、後ろからあたしを呼ぶ声がした。

「カリアード君・・・。」

カリアード君は、神妙な顔をしながらペコっとお辞儀すると、あたしの向かいに座った。

「えっと、その・・・。謝って済む問題じゃありませんが、本当に・・・申し訳ございませんでした・・・!」

カリアード君は座ったままあたしに深々と頭を下げてきた。

「なんでカリアード君が謝んのさ?」

「俺が・・・もっと早くフィアナのことを伝えてたら、こんなことには・・・。」

「いいよもう・・・。カリアード君は信じたかったんでしょ?フィアナちゃんが、ホントは真っ当な信念を持った優しい子なんだってこと。そりゃ~あたしより付き合い長いもんね。」

「だがしかし・・・!!」

「だからホントにもういいんだって。今回のことは・・・あたしに落ち度があるんだから。」

「落ち度?」

「もしも新たな朽鬼病蔓延が起こった直後にフィアナちゃんの犯行だって気付いていたら、フィアナちゃんの狙いが、本当は王都だってことが分かってたら。いや・・・王都での最初の朽鬼騒ぎの直後にフィアナちゃんのことをマークしてたら・・・。言い出したらキリがないよ。気づくタイミングは十分にあって、止めれる力だってあった。まぁ、今となっては全部タラレバ・・・だけどね。」

「ミラ様・・・。」

「だから今回のことは、カリアード君は悪くない。百歩譲ってカリアード君が悪いっていうんだったら、ってことで。」

あたしが気持ちに応えるかのような表情を見せると、カリアード君はゆっくり立ち上がった。

「何もう行っちゃうの?」

「ええ。今のミラ様は、そっとしておいた方がいいみたいですし。だけど、俺待ってますから。」

「何を?」

「ミラ様が立ち直ることを。いつもの調子を取り戻して、またみんなを引っ張っていけることを・・・。」

・・・・・・・。

・・・・・・・。

目を覚ましたあたしは、ライトの点いた天井をボーっと見つけた。

「立ち直るたって・・・正直もう、何をどうしたらいいか、分かんないよ・・・。」

そう呟いた直後、部屋をノックする音が聞こえたので誰なのか聞いた。

「すいません。イーニッドです。少しお二人で話したいので、中に入れてもらえないでしょうか?」
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