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第四章 : 朽蝕の救済

ヴェル・ハルド王国滅亡①

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オリスギリアムを出発してからおよそ2時間後。

あたしは王都の入口前の、馬車のターミナルに到着した。

まだお昼過ぎだというのに、人気は全くなく、ターミナルは異様な静寂に包まれていた。

「いつもだったらここは結構賑わってるのに、一体どうしたんだろう・・・?」

不安に駆られたあたしは、街の方へと目をやった。

その瞬間ドキっとした。

王都から煙が上がっていた。

「まさか・・・そんな・・・!!」

祈るような気持ちであたしは王都の門へと急ぎ、そして中へと足を踏み入れた。

目の前に広がる光景に、あたしは、絶望した・・・。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアア・・・。」

「フゥー・・・!ハァァァァァァァァァァァァ・・・。」

すでに王都は、無数の朽鬼きゅうきによって埋め尽くされていた。

それは、この前起こったアウトブレイク騒動の比較にならない膨大な数だった。

間に合わなかった・・・。

フィアナちゃん・・・何てこと・・・!!

怒りと悔しさであたしは、拳を血が出そうなほどの力で強く握り締めた。

・・・・・・・。

・・・・・・・。

落ち着け。

怒りを堪えろ。

まだ生き残ってる人もいるかもしれないじゃんか。

そう自分に言い聞かせて、あたしは朽鬼によって支配された街を巡回することにした。

だけど行けども行けども、目にするのは朽鬼ばかり・・・。

生存者も、彼等を守ってる王都守衛隊の兵士の人達も、誰もいなかった・・・。

ドン!

「あっ、ごめんなさ・・・ッッッ!!」

上にばかり目線をやってるせいで、子どもの集団とぶつかってしまったけど、もれなく全員朽鬼になっていた。

「アア・・・。」

子どもの朽鬼は、あたしのことなんか一切気にすることなく、呻き声を上げながら首をユラユラさせて遠ざかっていった。

あたしは、改めて街を徘徊する朽鬼達に目を凝らした。

商人、主婦、よそ行きのキレイな服を着た買い物客・・・。

血に染まってるけど、大して汚れた格好をしていない。

おそらく、少なくともお昼頃まではみんな普通の生活を送ってたんだ。

それをあっという間に壊されて、みんなに無理やり変えられて、街を彷徨ってる・・・。

「ごめんなさい・・・。ごめんなさい・・・!」

あたしは街をうろつく朽鬼の集団の真ん中で正座して、謝り続けた。

自分のせいではないことはよく分かってる。

だけど謝らずにはいられなかったのだ。

そんなあたしの謝罪の言葉に耳を傾けることなく、朽鬼達は荒い息を吐きながら街を徘徊し続ける・・・。

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「ガギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア・・・!!」

「ッッッ!!!」

突然遠くから、朽鬼の甲高い叫び声が聞こえてきた。

立ち上がって耳を澄ましてみると、確かに聞こえる・・・。

複数の朽鬼達の、敵意剥き出しの叫び声が・・・!!

「この方角・・・王都守衛隊の本部だッッッ!!!」

王都守衛隊にまだ生存者がいて、その人が朽鬼と戦ってることを理解したあたしは急いで本部まで向かった。

「待ってて!!すぐ助けにいくからッッッ!!!」




◇◇◇




「よっと!!」

本部の壁を越えて、以前特別講習を行なった運動場に入ると、すでにそこは朽鬼化した兵士達で埋め尽くされていた。

「クソ!!こっちも壊滅状態かよ!!」

王都守衛隊の本部がこんな有様じゃ、とても街で救助活動なんかできっこないか・・・。

とはいえ、ここに生存者がいることは確かなんだ!

一体どこ・・・?

「アギャアアアアアアアアアアアアアアア・・・!!!」

「ッッッ!!!朽鬼の叫び声!東棟か・・・!!」

生存者の居所が分かったあたしは、浮遊魔能を使って守衛隊本部の東棟に直行した。

「あっ、あれは・・・!!」

東棟の真上に行くと、誰かが屋上で、襲ってくる朽鬼達と必死に応戦していた。

だけど下の階に続く扉が破られて、そこから朽鬼がぞろぞろと湧いてきていた。

「早く助けなきゃ!!」

最早一刻の猶予も残されてないと悟ったあたしは、屋上に豪快に降り立って、生存者に襲い掛かる朽鬼を一掃した。

そして周囲の朽鬼が片付くと、屋上がまた朽鬼でいっぱいになる前に球形防壁スフィア・プロテクトを、あたしと生存者の人に展開した。

「ふぅ~!!もう大丈夫です・・・あっ!」

助けた生存者の顔を見た途端、あたしはビックリした。

なんとその人は、あたしがこの前の特別講習で知り合った、王都守衛隊の本部長、レオルさんだったからだ。

「みっ、ミラ様・・・!!」

「いっや~お久しぶりです!!まさかこんなところで再会するなんて!」

「私も、まさかミラ様に助けて頂けるなんて・・・。あっ、そうだ!先の“たまばなの耳飾り”の件、感謝を申し上げるとともに、ご迷惑をおかけして誠に申し訳ございませんでした!!」

「そんなそんな~!ご迷惑だなんて!むしろレオルさんがあの時耳飾りを持ってこなかったら、あたしが旅に出ることはなくて、王国と友好関係を結ぶことにはならなかったワケですし、結果オーライですよ♪」

「そう言って頂けて・・・ありがとうございます!!」

王国と友好関係を築くキッカケを作ってくれた人との久しぶりの再会のおかげで、暗く沈んでたあたしの心が少しだけ和んだ。

「あたしが来たからにはもう大丈夫です!!絶対に朽鬼達ブッ倒して、レオルさんをこっから脱出させてみせます!!」

「・・・・・・・。」

「どうかしました?」

「申し訳ありませんが、ミラ様お一人でここからお逃げ下さい。」

「え?何で?」

あたしが聞くと、レオルさんは神妙な顔をしながら腕の鎧を外し、そしてインナーをめくり上げた。

「ウソ・・・。」

インナーをめくったレオルさんの肘の内側に、毒々しく変色した噛み跡があった。
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