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第四章 : 朽蝕の救済

救済の始まり

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吸血鬼救済会の、がたいがいい男二人に両肩を掴まれて無理やり床に座らされている国王は、笑顔で話しかけてきたフィアナを睨みつけた。

「貴様ら!!一体どうやってここに入ってきた!?」

声を荒げて質問する国王に対して、フィアナは「フフッ。」と再び笑みを見せる。

「王宮へと通じてる街の水路からね。でもただ侵入口を見つけただけじゃ入れなかった。だからをずっと窺ってきたんだよ。」

「何ぃ・・・!?」

「王様。あなたが王宮付き最高位魔能士であるアルーチェ=オーネスをに行かせて本当に助かったよ。彼女の魔能なら、たとえ王国軍がオリスギリアムで手一杯になっても代わりは任せられるしね。」

「その情報・・・一体どこから!?」

「簡単よ。吸血鬼救済会私達の目は、王宮内にもあるのよ。」

だった。

その事実を聞かされて、国王は奥歯をギリっと噛み締めた。

「我が国における新たな朽鬼病の蔓延も全て貴様ら・・・吸血鬼救済会によるものだったのか!?」

「分かりきった質問をするのね。そうよ。」

「貴様ら・・・何てことをしてくれたのだッッッ!!!これはれっきとした、重大な反逆罪だ!!こんなことをして、ただで済むとは思うまいな?」

「反逆罪?それは物でしょ?今日であなたの国は終わるの。そして生まれ変わるの!吸血鬼救済会私達の手によって、吸血鬼が安全に暮らせる保護区・・・理想郷にね!!」

立ち上がり、満面の笑みで、声高らかに宣言するフィアナを見て国王は思い知った。

“この者は常軌を逸している”と。

「衛兵~!!衛兵~!!」

取り押さえられた身で、国王は声を張り上げて助けを求めた。

しかしその直後、フィアナから耳を疑うことを聞かされた。

「ああ。言い忘れていたけど、王宮ここの人達・・・あなたを押さえている間に、朽鬼御使いに生まれ変わらせたから。」

その瞬間、国王は愕然とした。



それは即ち、王宮内の人間を朽鬼病に感染させたということだ。

貴族から、年端もいかない侍女に至るまで、全て・・・。

「何と惨いことを・・・!!」

フィアナの非道な行いに涙を浮かべて怒る国王の顔を、フィアナは優しく撫でた。

「そう悲観しないで。ここの人達はね、生まれ変わったのだから。下賤で生き恥を晒す人間から、吸血鬼達を守護する救済の使徒に。」

「救済の使徒・・・?あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

その言葉を聞いた途端、国王はフィアナに憎悪を露わにし、殺さんとする勢いで暴れ出した。

「何が使だ!!だったら貴様らも同じになれば良いではないか!!彼等の受けた苦しみが、少しでも理解できようぞッッッ!!!」

「残念だけど・・・それはできないわ。だから事前にを投与してきたの。」

そう言ってフィアナは懐からフラスコを取り出し、怒りで息が上がった国王に見せた。

「何だ?それはぁ・・・!!」

「これはね、惑水わくすいっていうの。これを打っておけば、吸血鬼と同じように彼等から認識されることはないの。」

「自分達だけ、安全地帯にいるつもりか・・・!?」

「違うわ。」

はっきりと真顔で否定するフィアナに、国王は少し呆気に取られた。

朽鬼御使いになることは素晴らしいわ。だけどそれじゃ、ミラ様と肩を並べることができないじゃありませんか。」

「何が言いたい?」

「私は、ミラ様とともに作っていきたいのですよ。吸血鬼が平和に暮らせる理想郷を・・・。」

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「くっ・・・。くくっ。くはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」

しんみりとした口調で語るフィアナを、国王は心から嘲笑った。

「何がおかしいのですか?」

「貴様ぁ!!という立場にありながら、彼女のことを一切理解しておらんな!!彼女は・・・ミラは人間と吸血鬼が、双方分かち合い、ともに安寧を築いてゆける世を目指しておるのだ!!こんな・・・哀れな亡者どもに囲まれた狂気の世など求めておらんわ!!断言しよう!!貴様は必ずミラに・・・救血の乙女に断罪される!!その時になって思い知るだろう!!貴様の抱く理想など、ただの歪んだ独善欲だったことをなぁ!!!」

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「人間の国の頂に立つ者は傲慢だからいけませんね。ミラ様なら絶対、分かってくれますよ。」

ミラと志を分かち合った国王の心からの叫びを、フィアナは澄ました顔で否定した。

「馬鹿との話はこれで終わりです。アーヴェン、みんなに伝えて。“行動開始だ”って。」

「了解しました。各員・・・爆破!!」

アーヴェンが指示を出した瞬間、王都の複数個所で爆発が起こった。

中央通り、市場、王都守衛隊本部・・・。

煙玉が爆ぜたかのように見えたが、立ち込めた煙は何故か赤黒かった。

「あの赤い煙・・・まさか貴様らッッッ!!!」

「ええ。人間を朽鬼御使いに生まれ変わらせる聖なる煙です。」

アーヴェンの部下達は、彼女の指示によって朽鬼病ウィルスが混入された煙玉を、王都中で爆破させたのだ。

王都中に朽鬼病ウィルスがバラ撒かれた事実に、国王はグッタリとした。

そんな王様に、フィアナが注射器を持って近づいた。

「はっ・・・!!やっ、止めろ!!止せッッッ!!!」

自分がされることを察した国王は逃げようと必死に抵抗した。

しかし振りほどくことができず、ついに・・・。

「生まれ変わった姿を、ミラ様に見せてあげましょうね。」

国王に首筋に注射針が刺さり、中の赤黒い液体が注入された。

「はぁ・・・!!はぁ・・・!!」

拘束を解かれた国王は、急いで窓から飛び降りようとしたが、すぐに全身の力が抜けていき、鼻、耳、口、毛穴から出血し始めた。

そして、口から勢いよく吐血し、床にドサリと倒れた。

頭に思い浮かんだのは、いつか誓い合った思い出・・・。

“吸血鬼と人間・・・双方に安寧をもたらす世を作るべく、余は身命を賭すと約束しようッッッ!!!”

“こちらこそ、喜んでご協力します!ただし、あんま無理しないで下さいね♪”

「ミ・・・ラ・・・。」

果たせなかった約束を想起しながら、ヴェル・ハルド王国第4代目国王、ヘドウィッチ=リアエース4世は、その生涯に幕を閉じたのだった。
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