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第四章 : 朽蝕の救済
夢中詰問
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放課後を迎えた教室。
あたし以外の生徒はおらず、電気も点いてなかったが、夕焼けのオレンジ色の光が中をはっきりと照らし出していた。
外からは練習する運動部や、だべったりしながら帰る他の生徒の声が聞こえてたが、夕陽があまりにも眩しすぎるので、どんな様子か窺うことはできなかった。
そんな日本の学校の教室で、あたしはそれに似つかわしくないファンタジー感満載の格好をしながら、前の机をこっち側に向けてある人を待っていた。
それは、あたしの彼氏だ。
だからといって、思春期特有の甘酸っぱい会話なんかするつもりなんか毛頭ない。
あたしはどうしても問いただしいのだ。
自分が・・・自分達が今置かれている、この状況について・・・。
やがて手前側の扉が「ガララ・・・。」と開いて、あたしの彼氏が入ってきた。
彼もまた、あたしと同じように、この場所とはまるであっていない服装をしている。
「待ってたよ。カリアード君。」
あたしが声をかけたが、カリアード君は全く返事しようとしなかった。
「ままま。遠慮せずにこっち来て座りなさいな。」
あたしが促すと、彼は教室の扉を閉めて、強張った表情をしながらあたしと向かい合う形で座った。
「さぁ~ってと。まずどこから話そうか?あたしの中にいるんなら知ってると思うけど、王国でまた朽鬼病が流行りだしたんだけど、そのことについて何か心当たりない?」
「・・・・・・・。」
「カリアード君が王都でバラ撒いた朽鬼病はあたしが確かに根絶させた。なのにまた朽鬼病が蔓延した・・・。それもタイプをまるで変えてね?これは一体どういうことなのかな?」
「・・・・・・・。」
「カリアード君の意思を継いで、別の誰かが朽鬼病を変異させて、王国中にバラ撒いてるだとしたら、それは一体誰になるんだろうね?ピンと来る誰かがいるとしたら、教えてくんない?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
ドン!!
「ッッッ!!!」
あたしが机を思いっきりグーで殴ったら、カリアード君は体をビクッとしてあからさまに驚いた。
そんな彼の目は、あたしが今まで見たことないくらい泳ぎまくっていた。
「どうなの?早く言えよ。」
「・・・・・・・。ミラ様・・・。」
動転して、舌が滑りそうな話し方で彼はポツポツと喋り始めた。
「今回の、王国における、新たな朽鬼病蔓延の件には、正直俺も驚いてて、少し状況を飲み込めないでいます・・・。」
「だろうね。あたしだって未だにビックリしてるよ。なんせこんなにも大規模に流行りだしたんだから。」
「まさかアイツがこんなにも早く次の行動を起こしていたなんて・・・。」
カリアード君がポツリと言ったことを、あたしは決して聞き逃さなかった。
「は!?そりゃ一体何の話!?それにアイツって・・・。カリアード君!やっぱり何か知ってるんでしょ!?教えてよ!!アイツって誰!?」
あたしはカリアード君に掴みかかって情報を聞き出そうとした。
だけど・・・。
「申し訳ありませんが、俺の口からは、とても申し上げることはできません。」
「彼女であるあたしにも?」
あたしの質問に、カリアード君はコクっと頷いた。
「・・・・・・・。分かったよ・・・。」
あたしは、これ以上聞いても無駄だと思って、ガクンと力無くイスに座り込んだ。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「ミラ様。」
「何よ?」
「あの時の俺のした行為は・・・間違っていました。」
「は?」
「俺は・・・吸血鬼達を救済すべく、長年に渡って彼等を不当に扱ってきた人間達に罰を与えるべく、王都に朽鬼を解き放ちました。ですがそれは、人間と吸血鬼・・・双方が寄り添い合い、ともに平和な世を築いていくというミラ様の理念を大きく踏みにじる行為に他なりませんでした。俺は・・・ミラ様の手によって、引導を渡されるのに相応しい行いをした極悪人です。」
「なっ、何言ってんの?」
急にらしくないことを言い出したカリアード君に、あたしはとても動揺した。
「ですがミラ様は、そんな俺を受け入れ、自らが実現しようとする理想を、見届けさせてくれる機会を与えて下さいました。これは俺にとって、勿体なさすぎるくらいの救いです。」
「カリアード君・・・。」
「俺には、今回の一連の朽鬼病の再来が、何故起きてしまったかは、全く見当がございません。だけどもし!もし仮に、これが人為的に引き起こされたことであったとするならば、その者はあの時の俺みたいに、進むべき道を大きく踏み違えております。わがままなお願いではありますが、どうか・・・どうか救ってあげて下さい。」
深々と頭を下げるカリアード君に目を奪われていると、周りの風景が徐々に霞んできていることに気付いた。
「まっ、待ってカリアード君!あたし・・・まだ・・・!」
カリアード君に手を伸ばそうとしたが、間に合わずあたしの周りはホワイトアウトしていき、そのままあたしの意識もそれに溶けるかのようにフッと消えていった。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「はっ・・・!」
意識を取り戻したあたしは、仮眠場所に選んでいた、空になった牢屋のベッドの上で起き上がった。
「カリアード君・・・。」
それっきり、あたしの夢の中にカリアード君が姿を現すことはなくなってしまった。
あたし以外の生徒はおらず、電気も点いてなかったが、夕焼けのオレンジ色の光が中をはっきりと照らし出していた。
外からは練習する運動部や、だべったりしながら帰る他の生徒の声が聞こえてたが、夕陽があまりにも眩しすぎるので、どんな様子か窺うことはできなかった。
そんな日本の学校の教室で、あたしはそれに似つかわしくないファンタジー感満載の格好をしながら、前の机をこっち側に向けてある人を待っていた。
それは、あたしの彼氏だ。
だからといって、思春期特有の甘酸っぱい会話なんかするつもりなんか毛頭ない。
あたしはどうしても問いただしいのだ。
自分が・・・自分達が今置かれている、この状況について・・・。
やがて手前側の扉が「ガララ・・・。」と開いて、あたしの彼氏が入ってきた。
彼もまた、あたしと同じように、この場所とはまるであっていない服装をしている。
「待ってたよ。カリアード君。」
あたしが声をかけたが、カリアード君は全く返事しようとしなかった。
「ままま。遠慮せずにこっち来て座りなさいな。」
あたしが促すと、彼は教室の扉を閉めて、強張った表情をしながらあたしと向かい合う形で座った。
「さぁ~ってと。まずどこから話そうか?あたしの中にいるんなら知ってると思うけど、王国でまた朽鬼病が流行りだしたんだけど、そのことについて何か心当たりない?」
「・・・・・・・。」
「カリアード君が王都でバラ撒いた朽鬼病はあたしが確かに根絶させた。なのにまた朽鬼病が蔓延した・・・。それもタイプをまるで変えてね?これは一体どういうことなのかな?」
「・・・・・・・。」
「カリアード君の意思を継いで、別の誰かが朽鬼病を変異させて、王国中にバラ撒いてるだとしたら、それは一体誰になるんだろうね?ピンと来る誰かがいるとしたら、教えてくんない?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
ドン!!
「ッッッ!!!」
あたしが机を思いっきりグーで殴ったら、カリアード君は体をビクッとしてあからさまに驚いた。
そんな彼の目は、あたしが今まで見たことないくらい泳ぎまくっていた。
「どうなの?早く言えよ。」
「・・・・・・・。ミラ様・・・。」
動転して、舌が滑りそうな話し方で彼はポツポツと喋り始めた。
「今回の、王国における、新たな朽鬼病蔓延の件には、正直俺も驚いてて、少し状況を飲み込めないでいます・・・。」
「だろうね。あたしだって未だにビックリしてるよ。なんせこんなにも大規模に流行りだしたんだから。」
「まさかアイツがこんなにも早く次の行動を起こしていたなんて・・・。」
カリアード君がポツリと言ったことを、あたしは決して聞き逃さなかった。
「は!?そりゃ一体何の話!?それにアイツって・・・。カリアード君!やっぱり何か知ってるんでしょ!?教えてよ!!アイツって誰!?」
あたしはカリアード君に掴みかかって情報を聞き出そうとした。
だけど・・・。
「申し訳ありませんが、俺の口からは、とても申し上げることはできません。」
「彼女であるあたしにも?」
あたしの質問に、カリアード君はコクっと頷いた。
「・・・・・・・。分かったよ・・・。」
あたしは、これ以上聞いても無駄だと思って、ガクンと力無くイスに座り込んだ。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「ミラ様。」
「何よ?」
「あの時の俺のした行為は・・・間違っていました。」
「は?」
「俺は・・・吸血鬼達を救済すべく、長年に渡って彼等を不当に扱ってきた人間達に罰を与えるべく、王都に朽鬼を解き放ちました。ですがそれは、人間と吸血鬼・・・双方が寄り添い合い、ともに平和な世を築いていくというミラ様の理念を大きく踏みにじる行為に他なりませんでした。俺は・・・ミラ様の手によって、引導を渡されるのに相応しい行いをした極悪人です。」
「なっ、何言ってんの?」
急にらしくないことを言い出したカリアード君に、あたしはとても動揺した。
「ですがミラ様は、そんな俺を受け入れ、自らが実現しようとする理想を、見届けさせてくれる機会を与えて下さいました。これは俺にとって、勿体なさすぎるくらいの救いです。」
「カリアード君・・・。」
「俺には、今回の一連の朽鬼病の再来が、何故起きてしまったかは、全く見当がございません。だけどもし!もし仮に、これが人為的に引き起こされたことであったとするならば、その者はあの時の俺みたいに、進むべき道を大きく踏み違えております。わがままなお願いではありますが、どうか・・・どうか救ってあげて下さい。」
深々と頭を下げるカリアード君に目を奪われていると、周りの風景が徐々に霞んできていることに気付いた。
「まっ、待ってカリアード君!あたし・・・まだ・・・!」
カリアード君に手を伸ばそうとしたが、間に合わずあたしの周りはホワイトアウトしていき、そのままあたしの意識もそれに溶けるかのようにフッと消えていった。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「はっ・・・!」
意識を取り戻したあたしは、仮眠場所に選んでいた、空になった牢屋のベッドの上で起き上がった。
「カリアード君・・・。」
それっきり、あたしの夢の中にカリアード君が姿を現すことはなくなってしまった。
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