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第四章 : 朽蝕の救済

西方吸血鬼軍決戦⑭

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ヒューゴと合流した私は、執将館に閉じ込めたトヴィリンを探すことにした。

「しかしリリーナ、全ての扉を封じたとはいえ、執将館ここも結構な広さですよ?どうやって見つけ出すおつもりなのですか?」

「その点は心配いらないわヒューゴ!この私を誰だと思ってるの?」

「変態従者。」

「違うでしょッッッ!!!“ミラお姉様に次ぐ吸血鬼屈指の魔能の使い手”でしょ!?」

「あれ?そうでしたっけ?」

辛辣な物言いがいちいち癪に障るわね全く!!

いつか本気でシメてやろうかしら・・・?

ううん!!

これからヒューゴとアイツを探すのだから、イライラは少しでも抑えなきゃ!

「まっ、まぁいいわ!見てなさい!!私の実力をッッッ!!!」

私を杖を廊下に「トン!」と突いて、意識を集中させた。

地級アース第三位・異種見つけし眼アイズ・インファー・ディセント。」

その瞬間、自分たちの周囲にいる吸血鬼以外の存在全ての位置情報が正確に伝わってきた。

館の外に複数・・・。

これは禍狼種ワガルフや馬ね。

防衛区画に一つ・・・。

これはミラお姉様が戦っているトヴィリンの影・・・。

館の中、館の中・・・。

・・・・・・・。

・・・・・・・。

ッッッ!!!

「見つけた!2階の会議室!!間違いない。奴よッッッ!!!」

「本当ですか!?分かりました!行きましょう!!」

「言われなくてもッッッ!!!」

私とヒューゴは、階段を上がって、トヴィリンが隠れている2階の会議室まで一気に走った。

「ここね・・・。」

ドアノブに手をかけると、ビクとも動かないことからどうやら内側から鍵をかけたらしい。

「こんなことをしても無駄なのにねぇ~。」

私は、中にいるであろうトヴィリンにわざと聞こえるようにそう言うと、解錠の魔能で鍵を開け、ヒューゴと顔を合わせると、中に踏み込んだ。

「ひっ!!」

居た。

会議室の壁にもたれ込んで座りながら、トヴィリンはブルブル震えていた。

「手間をかけさせてくれたわね!!でももうおしまいよ!!」

私は目の前で震えているトヴィリンに向かって拘束魔能をかけようとした。

「リリーナ待って!!」

「え!?」

ヒューゴが止めようとしたものの、時すでに遅しで杖の先から飛び出した鎖はトヴィリンによって華麗に避けられ、彼女はそのまま私達の間を縫って会議室から勢いよく出て行った。

「考えなしですかあなたは!?彼女は精神魔能以外は全てかわしてしまうのですよ!?」

「うっ・・・!ううっ・・・。」

トヴィリンを追いかけながら、私は目標を目の前にしてついことを急いでしまったことを猛省した。

「ごっ、ごめんなさい・・・。」

「反省したならそれで結構です!走りながらでは照準を合わせるのは実質不可能です!リリーナ!歯を食いしばって下さいねッッッ!!!」

ヒューゴが逃げるトヴィリンに向かって手をかざすと、私は彼の魔能に巻き込まれるのを覚悟した。

全意暗転オールセンス・ブラックアウト!!」

トヴィリンの動きが鈍ったのを一瞬だけ視認したのと同時に、私は自分の五感が無くなったのを感じた。

何も見えない・・・。

何も聞こえない・・・。

何も・・・感じない・・・。

「・・・ナ!!リリーナッッッ!!!」

「ッッッ!!!」

必死に呼びかけるヒューゴのおかげで、私はどうにか戻ってくることができた。

「ひゅ、ヒューゴ・・・!!」

「しっかり!!今ですッッッ!!!」

ぼやけた視界で向こうを見ると、先程とは打って変わったおぼつかない足取りでなんとか逃げようとするトヴィリンがいた。

地級アース・・・第三位・・・!必中の捕縄アブソリュート・バインディング・・・!!」

トヴィリンはふらつきながらも、私が出した必中の縄をどうにか回避した。

ところが完全には避けることができず、縄がトヴィリンの頬を掠って、擦り傷ができてしまった。

「くそ!あと一歩だったのに・・・!!」

「悔しがっている暇はありません!追いかけますよ!!」

まだ魔能の効果が完全に消えてないけれど、私達はフラフラした足取りで走って逃げるトヴィリンの後を追った。

そこから私達は、トヴィリンを追いかけながら精神魔能と物理魔能を交互にかけて彼女を捕らえようとした。

ところがヒューゴが魔能をかける度に、私の意識も吹っ飛び、そのせいで魔能の精度が落ちて彼女を捕まえ損ねてしまう。

そんなことを繰り返している内にあることに気付いた。

“ヒューゴの魔能の効果が徐々に薄れている”ことに・・・。

「ヒューゴどうなってるの!?アンタが魔能をかけても意識がはっきりしてきたんだけど・・・。」

「おそらくかけられすぎて免疫が付き始めたのでしょう。それは向こうも同じです。」

見ると逃げ回ってるトヴィリンの方も、魔能をかけられているのに、しっかりとした足取りで逃げていた。

「どうするの!?このままじゃ・・・。」

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「一つだけ方法があります。かなりの荒業ですが・・・。」

「何?」

「彼女には一度・・・。」

「それって・・・まさか・・・!!」

私が言おうとしたことを察して、ヒューゴは重く頷いた。

天級ヘヴン第五位魔能・死の幻バーチャリティ・デス

極限にまで高められた幻惑魔能によって、疑似的なを与える魔能。

制御は全意暗転オールセンス・ブラックアウトよりも困難であり、目覚めた後の精神的負荷も大きいため、ミラお姉様からも「絶対に使わないように。」と厳命されたヒューゴの禁じられた切り札だ。

「この屋敷の中に的を絞り、抑え込むイメージで発動すれば、居住区域の者や防衛区画のミラ様達が巻き込まれる心配はないでしょう。ですがリリーナ・・・あなたには確実に、トヴィリンと同等の効果が与えられてしまうでしょう。どうしますか?」

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「やってちょうだい。」

「いいの・・・ですか?」

「元々このいたちごっこは、初動で失敗した私の責任なのだから、、その罰として甘んじて受けるわ。それに・・・私は一度死んでるし、偽物の死くらいどうってことないわ。」

「分かりました。それでは・・・遠慮なく。」

「ええ!任せたわよ!!」

ヒューゴは立ち止まり、魔能の発動と周囲への余波を抑えるため、目を瞑って深呼吸した。

私もトヴィリンを追いかけるのを止めて、これから襲いかかってくるであろう偽物の死を覚悟した。

廊下の向こうでは、トヴィリンが相変わらず息を切らしながら私達から逃げている。

トヴィリン、あなたに私が感じた苦しみを与えることになってしまって、本当に申し訳なく思っているわ。

だからせめて・・・私も一緒に付き合ってあげるッッッ!!!

天級ヘヴン第五位・死の幻バーチャリティ・デス!!」

ヒューゴが詠唱した刹那、私は心臓が弾け飛ぶような、とても言葉では言い表せない感覚に襲われ、そのままゆっくりと、意識が暗闇に向かって沈んで行った。
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