上 下
199 / 514
第四章 : 朽蝕の救済

誰も死なない戦い方

しおりを挟む
ノヴァク君とベアエスさんから、西方吸血鬼軍本部の鉄壁の防御力をしっかりと見せられたあたし達は、執将専用の館に戻って、そこの会議室で開かれている各部隊長を集めての作戦会議に参加していた。

といっても、あたし達はノヴァク君や部隊長さん達があーだこーだと作戦を練っているのを聞いて、後からそれが果たして有効かどうか総評するだけなんだけど。

「まずは我々大砲部隊が、地上を侵攻してくる魔導士団、ならびに陸戦型の魔物をこことここ。防衛区画の入口付近において、多方面からの連続砲撃によっての殲滅を図ります。残存兵力は、地上部隊にお任せしてもよろしいでしょうか?」

テーブルの上に、兵器が配備されてる防衛区画の地図を広げながら、あたし達以外のみんなが作戦を話し合っている。

「それについての異論はない。我々はルイギ様直々に、今回の戦に備えての鍛練をしっかりと叩き込まれておる!散り散りになった烏合の衆を片付けることなど造作もない!」

天獣種ワイバーンをはじめとする飛行型の魔物は、俺達大弓部隊にお任せを。弱点を必ず射貫いて、反撃の隙を与えることなく撃墜してみせます!」

「ありがとうございます!心強いご支援を、期待しております。」

「よし!じゃ、とりあえずはこの方向で防衛戦を進めていきたいと思うっス!!ミラ隊長!ルイギ様!それに永友の皆様方!何か意見はありますでしょうかっス!?」

ノヴァク君は、会議室の一番手前側で話を聞いていたあたし達に意見を求めてきた。

「では、私から。」

「はい!ヒューゴ殿!!」

「乙女の永友参謀役として、意見を述べさせて頂きますと、戦略の方は大体申し分ないと思います。しかし、なるべく慎重かつ確実に進めた方が良いと考えます。」

「と、言うと・・・。」

「大砲部隊の面々は大丈夫でしょう。しかし、残存戦力掃討を担当する地上部隊は、戦力が高い者ほど後方につけた方がいいでしょう。もし反撃に転じられた場合に、前の者を救援できるようにです。その中には、乙女の永友我々の中でも肉弾戦に長けているローランドとアウレルを手配します。また、空中での敵を撃ち落とす大弓部隊には、より確実に撃墜できるようにリリーナに命中率を向上させる補助魔能を付与させて頂きます。そして私も、防衛区画の規模をより大きくみせるために、敵全てに幻影魔能をかけます。敵勢力を削ぐことはできませんが、かく乱の効果は大きく期待できるでしょう。そして最後に・・・。」

「最後に?」

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「今回の戦いで最も警戒すべき、黎明の開手ひらきての構成員が出現した場合は、地上部隊は直ちに撤退。それ以外の部隊は後方支援として残留。それでも命の危機を感じたら速やかに撤退して下さい。後は、ミラ様の指揮下で我々が総力を以ってこれを迎撃します。」

黎明の開手のメンバーは、たった一人でも戦況を大きくひっくり返せるくらいの桁外れの力を持っている。

それを迎え撃つとなれば、かなり厳しい戦いになることが考えられるし、多くの人が巻き添えを食う危険がある・・・。

このヒューゴ君の意見は、あたしの気持ちを汲んでくれたものだったんだと思う。

「あたしからもお願い!開手のことはあたし達に任せて、ノヴァク君達は自分や居住区の人達のこと一番に考えて!!」

「ミラ、隊長・・・。分かったっス!黎明の開手の奴のことは、ミラ隊長達に任せるっス!!」

ありがたいことに、ノヴァク君はあたしの言うことを聞いてくれた。

良かった~。

これでひとまず、みんなの身の安全は大丈夫、か・・・。

「では作戦会議は以上っス!みんな!敵がいつ攻め込んでもいいようにこれから各配置に・・・。」

「ちょっ、ちょっと待って!」

あたしには、まだがあったので、会議室を出ようとするみんなを引き留めた。

「どうしたんスか?ミラ隊長。」

「あの、さ・・・!今回の防衛戦についてなんだけど・・・できたらあたしは・・・でいきたいと、思うんだけど・・・。」

あたしが言いたかったことを言うと、ノヴァク君や西方吸血鬼軍のみんなは目をパチクリさせた。

「なっ、何言ってんスかミラ隊長!?敵側から死者を一人も出さないなんて・・・!!」

「確かに、言ってることめちゃくちゃだよね。でも、今回相手にするのは、人間の国なんでしょ?あたしは、吸血鬼と人間が平和に、お互いに分かり合える世界を作っていきたいと心の底から思ってる。だから、今回の戦いであたしは誰も殺したくない。もちろん、みんなにも死んでほしくないし、誰も殺してほしくない・・・。ワガママ言ってるってのは分かるけど、どうかお願い!!みんな!向こうの人達のことは、誰一人殺さないでッッッ!!!」

深々と頭を下げるあたしに、みんなは何一つ、言葉を返すことはなかった。

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「ならば方法を述べよ。」

「ッッッ!!」

パッと見ると、ルイギさんが座ったまま、何だかちょっと厳しそうな口調で、目を合わせずにあたしに言ってきた。

「ルイギ・・・さん。」

「要するにミラ、お前は今回の戦において、敵側から犠牲者を出さず、あくまで追い返す程度に済ませたい・・・と、申すのだな?」

「そっ、そうです・・・!」

「ならば、皆にそれを可能にする具体的な案を述べてみよ。綺麗ごとだけのお題目だけでは、兵は動かぬぞ。」

ルイギさんの鋭い眼光が、あたしを捉えて逸らさない。

確かに、ルイギさんの言う通りだ。

抽象的な目標だけじゃ、みんなを納得させることなんてとてもじゃないけどできない・・・。

何か。

何か方法を考えないと・・・!

敵から死人を出さずに、追い返す程度に済ませる具体的な方法を!!

ううっ・・・!

どうしたら・・・。

どうしたらいいんだ!?

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「ねぇみらちゃん!ター〇ネーター2でさ、シ〇ワちゃんがミニガンとかグレランとかブッパしてんのに、どうして取り囲んでる警官隊に死者が出なかったか知ってる?」

「いや、分かんない。そういえばどうしてなんだろうね?」

「あれってさ、ミニガンをパトカーとか警官スレスレの場所に撃って、グレランも、よく見たら警官が逃げ出した後に撃ってんだよね!」

「そうなんだ~。」

「いや~あのシーンはシビれたねぇ~♪何たって“破壊不可能な完璧な殺人マシンでも、その気になったら誰一人殺さずに敵を追っ払うことができる”ってのを見事に見せつけてくれたんだから!!」

「ってか飛花ひばなちゃん、結構昔の映画見るんだね?てっきり最近のアニメしか見ないと思ってた。」

「面白かったらどんなに古い作品でも網羅する!!これが真のヲタってなもんよ~♪それに則って、ヱヴァン〇リヲンの旧作版もねぇ、ネ〇フリで全部見たんだから!」

「はいはい。それより早くス〇バ行こ。新商品のフラペチーノ飲みたいし・・・。」

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「ッッッ!!!」

「ん?」

「思いつきましたよ。敵から死者を誰一人出さない戦い方が・・・!」

「ほう。それはどういうものじゃ?」

「それはですね~・・・。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...