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第四章 : 朽蝕の救済

邪悪なる面影

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「あっ、あのぉ・・・。」

吸血鬼救済会の本部がある裏路地に入ったところで、イーニッドさんが話しかけてきた。

「どした?」

「あの、もし代表がいらっしゃった場合、私のことは何と?」

ああ、そっか。

いきなりあたしがイーニッドさんと一緒に訪ねてきたら「どうして?」って聞くのが自然な流れか。

あたしなぁ~結構ウソつくの苦手・・・なんだよね~。

う~ん・・・。

おっ!そうだ。

「大丈夫!ウソはつかないけど、秘密は守るようにするから♪」

「そっ、それどういう意味・・・でしょうか?」

「まぁそんな不安にならず、あたしに任せといて下さい♪」

そうこうしてる内にあたし達は本部に着いて、ドアを開けて受付に入った。

「こっ、これは!救血の乙女様!!」

あたしの顔を見るなり、イーニッドさんとは別の受付のスタッフさんがえらく畏まりながらお辞儀してきた。

「こんにちは。あの、代表フィアナちゃん、います?」

「えっ!?あの・・・その・・・。」

「お久しぶりです、ミラ様。」

受付の人があたふたしていると、奥の方からフィアナちゃんが顔を出して、ペコリと頭を下げた。

「やぁやぁフィアナちゃん!久しぶりって、先週会ったばっかじゃん。」

「それもそうでしたね。」

あたしとフィアナちゃんは、お互いノリノリになってクスクス笑い合った。

良かった。

あれから全然変わらず元気そう。

「ところでミラ様、どうしてイーニッドとご一緒に?」

「ああ実はさ、さっき偶然そこでばったり会って。何でもで急に帰んなきゃいけなくなったらしくて。フィアナちゃん達に何も言えず帰って気まずそうにしてたから、一緒についてきて上げてたの。」

「そうでしたか。昨日はこちらに帰って来なかったのが気がかりだったのですが、それを聞いて安心しました。」

「代表!ご心配おかけして、申し訳ございません!」

「そんなに謝らなくていいわ。あなたに何もなくて良かった。」

「それでさ、ご挨拶ついでにちょっと話したいことがあんだけど、時間大丈夫?」

「ええ。今お茶をお入れしますので、奥でお待ちになって下さい。」

こうして、あたしとイーニッドさんは特に怪しまれることなく、奥の応接室に通された。

「ねっ。言った通り大丈夫だったっしょ?」

「あっ、ありがとうございます。ミラ様。」

「へへっ。どういたしまして♪」




◇◇◇




応接室であたしは、フィアナちゃんにあたしの所有する領地に、勉強のためご厄介になることを話した。

もちろん、王女としててではなく、あくまで吸血鬼救済会の一員としてである。

「そうですか・・・。」

「いきなりのお願いで大変恐縮なのですが、後学のために是非ミラ様の領地で吸血鬼の皆様と生活をともにしたいのです!!どうか、ご了承いただけないでしょうか!?」

「そうね・・・。分かったわ。あなたがそこまで熱心になるからには、私も引き留めるつもりはないわ。ミラ様の下で、たくさんのことを学んでらっしゃい。」

「あっ、ありがとうございます!!」

フィアナちゃんが、快く受け入れてくれたことで、イーニッドさんはすごく嬉しそうだった。

「じゃあ私、今から自室で荷造りしてきます!!」

イーニッドさんが部屋を飛び出すと、あたし達は紅茶を飲み交わしながら、またクスクス笑い合った。

「気が早いんだから。」

「よっぽど嬉しかったんだよな~。」

「そうですね。それはそうと・・・。」

「何?」

「昨日起きた反乱、ミラ様が見事鎮圧なさったそうですね。」

「え?ああうん!まぁでも、あたしはそんな大したことしてないよ。みんなが頑張ってくれたおかげで、どうにかなったんだから。」

「そんなご謙遜を。しかし恐ろしいですね。吸血鬼の方々に牙を剥こうとする輩が、まだこの国にいようとは・・・。ミラ様も、ゆめゆめお気をつけ下さい。」

「何に?」

「王宮の者達にです。彼等はミラ様との和睦を結びましたが、いつ裏切られるか分かりませんから。」

「まっ、まさか~!王様に限って、そんなことは絶対にしないよぉ~。何たって、すんごくいい人なんだから!」

「ミラ様、人間というのはこの世で最も醜い種族です。特に権力に味を占め、多くの罪を背負いながらも“その罪を償いたい”とのたまいている連中にこそ、用心しなければなりません。」

あたしは、自分の信じた人達を悪く言ってるようなフィアナちゃんに一瞬ムカッとしたが、彼女があまりに本気のトーンで言ってくるモンだから、それが何だか怖かった。

「まっ、まぁ~フィアナちゃんがあたしのことを心配してくれてるってことはよく分かったから!でも、あたしは大丈夫!イザとなったらビシっと解決してみせるからさ。」

「どうかくれぐれも、お気を付けなさって下さいね。」

「うっ、うん!分かったから!!」

あたしとフィアナちゃんとの間に、何とも言えない気まずい空気が流れていると、階段をドタドタと駆け下りて、カバンを持ったイーニッドさんが部屋に戻ってきた。

「必要な物はすべて持って来ました!!お待たせしてすいません!」

「あっ!いいよいいよ。そんなに待ってないから。じゃあこれでおいとましよっかな?」

「もうお帰りに?」

「うん。まだ王宮の方で、お偉いさん達とあれこれしなくちゃしなくちゃいけないし。イーニッドさんのことは、あたしが向こうで仲間達に紹介するからこれから連れて行くわ。」

「分かりました。ではミラ様、またお会いする機会を楽しみにしております。イーニッド、くれぐれも吸血鬼の皆様に粗相のないようにお願いしますね。」

「はい!!では、行って参ります!!」

「じゃあねフィアナちゃん。また今度。」

こうしてあたし達は、吸血鬼救済会の本部を後にして、王宮に戻ることにした。

「いや~代表が無事に快諾してくれて良かったですね~。!」

「うっ、うん。そうだね・・・。」

「どうかしたのですかミラ様?何だかお顔が優れませんよ。」

「べっ、別にそんなことないよ!それより早く帰ろ!みんな待ってるだろうしさ。」

あたしは自然と早歩きになって、さっきのフィアナちゃんの顔を頭に思い浮かべていた。

どうしてだろ?

フィアナちゃんのあの表情。

なんか怖かったけど・・・・・・。

どこでだろ?

・・・・・・・。

・・・・・・・。

“俺とともに、俺が作ったあの素晴らしい生き物を使って、吸血鬼を救いましょうッッッ!!!”

「ッッッ!!!」

それを思い出した瞬間、あたしは自分が歩いて来た方をガバっと振り返った。

「どっ、どうしたんですかミラ様!?急に立ち止まって・・・。」

「え?あっ、ううん。何でもない。」

あたしはイーニッドさんに平静を装うと、再び王都に向かって歩き出した。

・・・・・・・。

・・・・・・・。

カリアード君・・・。

間違いない。

フィアナちゃんのあの表情は、あの夜、王都で朽鬼きゅうき病をばら撒いたカリアード君と同じだった。

でも、どうして?

どうしさっきのフィアナちゃんの顔が、あの時のカリアード君と重なって仕方ないの?




◇◇◇




「やはり、あなた様の決意は変わらない、ですか・・・。」

そう言って、私は残った紅茶を最後まで飲み干し、カップを置くと一息ついた。

ミラ様、あなた様の決意は大変立派です。

ですがそれは、あなた様の目を曇らせ、いずれ破滅をもたらすでしょう。

その前に、私が真の救済を、あなた様・・・いいえ。全ての吸血鬼にもたらすことをお約束いたします。

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「吸血鬼は弱い存在。だから私が、この手で救わないと・・・。」
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