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第四章 : 朽蝕の救済

平和への言葉

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翌日、ついに迎えた協和三条約調印式。

王宮の前には、王都中から集まった観衆でごった返しており、あたしと王様は調印式用の特設ステージに脇に置かれたイスに座っていた。

どうしよ・・・。

めっちゃ集まってんじゃん、人・・・。

二、四、六、八・・・アカン、数えんのもめんどくせぇ~やwww

えっ~と・・・!

スピーチの出だしなんだったっけ?

「本日は大変お日柄もよく・・・。」だっけ?

ああダメだ!!

緊張して内容全部ブッ飛んじまいそう!!

っていうか、なんか気持ち悪くなってきた・・・。

これ途中退席とかできんのかな?

「すいませ~ん!ミラさんが具合悪そうなんで保健室連れてっていいですか~?」って誰か行ってくんないかな~?

つ~かそもそも保健室って王宮内にあんのかな?

っていうか保健室の“ほけん”ってどっちだったっけ?

“保険”だったっけ?“保健”だったっけ?

「ではこれでわたくしからのご挨拶は以上といたしまして、条約調印の方に移らせていただきます。陛下、ならびに救血の乙女様。中央の条約書まで。」

「ぅはいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

司会進行役のアルーチェさんの声に、ワケ分からん状態から一気に現実に引き戻されたあたしは、イスからガタンと立ち上がって、条約書が置かれている中央のテーブルまで歩いていった。

両手両足、一緒になりながら・・・。

観衆より少し離れたところで見守ってたみんなは、緊張するあたしにハラハラした様子だった。

ソレットだけは、笑い堪えんのに必死だったけど・・・。

「では、お二人とも。条約書に調印を、お願いいたします。」

落ち着いた様子の王様と違い、あたしは手をこれでもかとガタガタ震わせながら、条約書にサインとハンコをした。

調印を終えたあたしと王様は、互いに条約書を持って、式典を見に来た観衆に見せた。

観衆からは、少しばかり困惑の雰囲気が漂っていたけれど、盛大な拍手が贈られた。

「協和三条約ご調印、おめでとうございます。それでは最後に、吸血鬼の救世主にして指導者、救血の乙女・ミラ様にお言葉の方をご頂戴したいと思います。」

きっ、キタァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!

緊張が最高潮に達したあたしは、さっきと同じように両手両足一緒になりながら、テーブルの前に躍り出た。

・・・・・・・。

・・・・・・・。

だっ、ダメだ・・・。

全然内容が思い出せない・・・。

ステージの上で立ちっぱなしのあたしに、集まった観衆は少しずつざわつきだした。

もう・・・無理・・・。

諦めかけていたその時、観衆の中に見知った顔がいることに気付いた。

あれは、吸血鬼救済会の受付をしてたイーニッドさんだ。

そういえば、あの人が背中を押してくれたおかげで、あたしは自暴自棄にならずに、朽鬼きゅうきから王都の人を頑張って守ろうって決めることができたんだっけ・・・。

イーニッドさんの顔はあたしのスピーチをまだかまだかとワクワクしながら待ちわびてるみたいだった。

それからあたしは、ファイセアさん、アルーチェさん、ソレットと今まで出会った王国の人達の顔を順に見ていった。

みんな、あたしが異世界に転生してからできた、大切な人間達だ。

そうだ。

ここでビビってどうする。

あの人達がいたから、あたしは“人間と吸血鬼がお互い仲良く平和に暮らせる世界を作っていきたい”って思ったんじゃないか。

あたしが今この場に立って伝えたいことを、精一杯、全力でみんなに伝えるんだ・・・!!

「お集まりの皆様、おはようございます。あたしが救血の乙女・ミラです。皆様すでに、ご存じの通り、あたしは大切な吸血鬼の仲間を危機から救うために、今まで多くの戦いに身を投じてきました。正直なところ、あたしはそれを“戦争だから仕方がない。みんなを救うために、人間は敵として倒さなければならない”のだと、思っていました。ですが気付いたのです。“人間も、我々吸血鬼と同じく、心を持った存在。愛すべき家族や友人がいて、その誰かのためなら命を賭けられる優しくて、強いを持った者達なのだ!”と。あたしは、自分達と同じ心を持った者達を、もうこれ以上殺したくないと、心の底から思いました。あたしは・・・人間と仲良く、平和に暮らせる世界を作っていきたい!戦争なんかもうウンザリだ!!甘っちょろい考えかもしれませんが、同じ心を持った者どうしなら、平和な世界を作ることがきっとできます!!この国とこのような平和的な関係を築くことができたのは、様々な成り行きが重なった偶然の産物ですが、あたしは、このチャンスに賭けてみたい!もうあたしは・・・吸血鬼あたし達は、この国の人達を同じ世界を生きる大切な友人として接していきます!!もちろん過去の偏見や憎しみが簡単に取り払えるだなんて思ってません。ですが、どうかあたし達を寛大な心で受け入れて下さることを、吸血鬼を代表して、お願い申し上げます。」

あたしが頭を下げると、観衆の何処からか拍手が起こって、その勢いが徐々に増してきた。

すると、テーブルに座っていた王様が立ち上がり、あたしの横についた。

「余もこの者と同意見だ!我が愛すべき国民達よ。彼等はもう家畜でも敵でもない!我らとともにこの世界を生きる、大切な友人達だ!!」

王様のその一言で、拍手は一気に大きくなり、そしていつまでも続いた。

王様はあたしの方を見て、誇らしげな笑みを浮かべて頷いた。

その瞬間、あたしは感動して思わず泣きそうになってしまった。

見てる?カリアード君。

あたし、何とか上手くできたみたい・・・。

ようやくあたし、あの時夢見てた理想に大きく近づくことができたよ。

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「ふざけるな。この人殺しが・・・!」

次の瞬間、ステージの方に矢が飛んできて、あたしは咄嗟に王様を庇った。

観衆からは悲鳴が上がり、その直後あたし達に向けて矢を射ってきた人が明らかになった。

「ノイエフ・・・さん・・・。」

「何が“平和な世界”だ!!俺の大切な仲間を殺したお前だけは・・・絶対に許さないからなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

ノイエフさんがあたしに向かってそう叫ぶと、観衆の中の人達の何人かが弓を取り出してあたし達に矢を向けてきた。

「何・・・コレ?どうなってんの!?」




◇◇◇




「殿下、そろそろ・・・。」

「ああ、そうだな。」

王都の門の前でやりとりを交わす二人の後ろには、およそ2000もの兵が出陣の時を待っていた。

「者どもいよいよだ!我らが仇敵たる救血の乙女と、かの者に尻込みし和睦など結び、愚王に成り下がったかつての主君に天誅を下すのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

主君から檄を飛ばされ、彼に付き従う兵士達は剣と槍を掲げ、雄叫びを上げた。
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