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第三章 : 耳飾りの旅

マースミレン精冥戦争⑧

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「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」

立ちはだかるゲブルに対し、二人同時に斬りかかったファイセアとティスムドル。

しかし二人の斬撃は、いとも容易くゲブルが手にする戦斧によって防がれてしまった。

「くぅ・・・!」

「ぎぃぃ・・・!」

{フン!この程度か?話にならんな!}

“片腹痛し”と言わんばかりにファイセアとティスムドルを弾き返すゲブル。

すると、彼の背後にすかさず回ったノイエフが矢をつがえてゲブルに向けて放った。

{虫が。浅知恵を!}

ノイエフが放った一矢を、ゲブルは何と振り向きもせずに、腕を後ろに回して掴み取ってみせた。

「なっ・・・!?」

冥炎の剣筋ヘルフレイム・ストライク!!}

振り向きざまにゲブルは、ノイエフに冥府の炎の斬撃を放った。

「くっ・・・!!」

ノイエフは何と回避することができたものの、後ろの樹々と痩鬼種オーク軍は、ゲブルが放った冥府の炎に焼かれて、一瞬で灰塵と化した。

「何と!?自軍の兵まで構うことなく巻き添えだと!?」

「そういう奴なんだよ、アイツは。一度火が付いたら、周りなんて一切見ずに暴れまくる・・・。」

自信に付き従う配下の者達まで、放った技によっていとも簡単に巻き添えに殺してしまうゲブルの狂気じみた戦い方に、ファイセアとノイエフは改めて戦慄を覚えた。

おまけに先程の、二人同時に挑んだにも関わらず、それをいとも簡単にいなし、その直後ノイエフが放った矢を見ずに掴み取ったその技量・・・。

「これは・・・中々に骨が折れる相手になりそうだな・・・。」

「今更気づいたのかよ・・・って言いたいところだが、俺も忘れかけてたよ。コイツがいかに化け物かって・・・。」

ファイセアとティスムドル、そしてノイエフに挟まれながら睨み合うゲブル達の傍らでは、ブラドゥが森精人エルフ児鬼種ゴブリン達を相手取っていた。

さすがは破悦はえつの将・ゲブルの騎獣たる禍狼種ワガルフといったところか。

森精人エルフ兵達は、その俊敏な動きに追いつくことができず次々噛み殺されていき、児鬼種ゴブリンは一度か二度斬りつけた後に地中に回避するので精一杯だった。

巻き添えを恐れて他の魔族兵は一切攻撃できず、辺り一帯は最早、ゲブルとブラドゥの独断場となっていた。

周囲の戦況を見て、ファイセアは焦りを募らせた。

「このままでは、辺り一帯はこの痩鬼種オークの将と、奴が乗り手とする魔獣に蹂躙されてしまうぞ・・・!」

「だったら・・早々に決着するしかねぇな!!」

ファイセアとティスムドルは体制を整え、今度は両側に周ってゲブルに向かっていった。

聖光一閃パラーネオ・スラッシュ!!」

爆炎の斬撃バーニング・スローター!!」

{何度やろうと同じこと!}

ティスムドルの聖なる斬撃はゲブルの戦斧によって再び防がれ、ファイセアの爆炎の剣筋に至っては、剣を振って爆発を発生させる前に、ゲブルの屈強な手によって受け止められてしまった。

「ちぃぃ!またかよ!?」

再び攻撃が通らなかったことに、ティスムドルは苦々しい顔をした。

しかしファイセアは・・・。

「いや!まだだ!!このまま奴の片手を両断する!!」

{ほう?どうやってだ?}

刀身をがっちり掴まれて、一振りもできない状況に追い込まれているのにそのようなことを言ってのけるファイセアを、ゲブルは嘲笑った。

紅蓮のフレイム・・・剣筋ストライク・・・!!!」

ファイセアは歯を食いしばり、刀身を掴んでいるゲブルの手を、炎を帯びたその剣で力に任せて真っ二つにしようと試みた。

{ガッ!?}

その瞬間、ゲブルは恐怖に満ちた顔を見せ、ティスムドルを斧で弾くと、急いでファイセアを後ろで再び弓を構えているノイエフに向けて投げた。

「ぐはっ・・・!」

「大丈夫ですか!?兄上!」

「ああ。ノイエフ見たか?先程の奴の反応・・・。」

「はい。まるで、でした。」

「奴のあの風貌と先程の反応を照らし合わせると・・・。ッッッ!!!そうか!もしかすれば、なら奴に一矢報いることができるやも知れん!!」

ファイセアはノイエフに対し、耳打ちで何やら案を伝えると、ティスムドルに向けて指示を出した。

「ティスムドル!私が合図したら、ゲブルに斬りかかれ!!私が奴の注意を引く!」

「はぁ!?お前どうしよってんだよ!?」

「説明している暇はない!!とにかく・・・私を信じろッッッ!!!」

ファイセアの確固たる自信に満ちた表情を見て、ティスムドルは何も言わず大きく頷いた。

{おのれ・・・!地を這う虫のクセに姑息な技ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・!!!}

ファイセアに憎悪に満ちた表情を見せたゲブルは、戦斧を持つ手の筋肉に「ギチギチ・・・!」と切れそうなほどに力を込めた。

{貴様のような矮小な存在、塵一つ残さず燃やしてくれるッッッ!!!}

戦斧を構えたゲブルを前にし、ファイセアも全神経を研ぎ澄ませて、攻撃に備えた。

天級ヘヴン第五位・冥炎円月薙ぎヘルムーン・スウィープ連撃エンドレス!!}

ゲブルが高速で戦斧を振り続ける度に、満月状の冥炎の斬撃がファイセアに襲い掛かってきた。

弾丸走破バレット・フィート!!」

ファイセアはそれらを、超高速で走りながら次々と避けつつ、ゲブルの間合いへと近づいてゆく。

{ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!}

己の斬撃を、まさに紙一重の速度で回避していくファイセアに、ゲブルは激しい怒りの咆哮を上げた。

そして、とうとうファイセアがゲブルの間合いに入った瞬間、彼はゲブルが振るう戦斧を剣で受け止め制止させた。

地級アース第三位・業炎の裁矢エグゼキュート・バーニングアロー!!」

ファイセアを殺すことに集中していたゲブルは、ノイエフの矢を今度は止めることができず、放たれた矢はゲブルの脇腹に命中した。

その瞬間、ゲブルの全身が炎に包まれた。

{ガギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?}

己を包む炎の痛みと、かつて全身をミラによって焼かれた恐怖が襲い掛かり、ゲブルは絶叫した。

「今だ!!やれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

ゲブルを包む炎を間近で浴び、顔に火傷を負いながらも、ファイセアはティスムドルに言い放った。

それに呼応して、ティスムドルはゲブルに剣を振り上げながら向かっていった。

「これが仲間の仇だ!しかと受け取りやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

ティスムドルは戦斧を持つ腕を一撃の下に斬り落としてみせた。

「グゴガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!}

ゲブルは火だるまになりながらも、斬り落とされた腕を押さえて後ろにたじろいだ。

やがてその炎は徐々に消えていき、斬り落とされた腕からはボトボトと血が流れ出ていた。

{にっ、人間と・・・森精人エルフごときが・・・この俺様を、追い詰めるだと・・・!?}

今まで見くびっていた相手から思わぬ痛手を負わせられたことに、ゲブルは激しく動揺していた。

「してどうするか?もうお前には武器は残っておらんぞ。」

片腕と武器を失い、一気に追い詰められたゲブルだったが、突然彼の許にブラドゥが現れて、痛々しく斬り飛ばされた主人の片腕をペロペロと舐めた。

{ああ・・・。大丈夫だ。それより、のだな!?}

ゲブルはブラドゥに乗り込むと、直ち己が率いる軍に命じた。

{本当の市街地を発見したぞ!!ここは捨て置き、全軍俺様について来いッッッ!!!}

ゲブルは振り向きざまにファイセア達に苦痛に歪んだ笑みを見せると、魔族軍を引き連れマースミレンの市街地に向けて進軍した。

「兄上、何故痩鬼種オークどもが一斉に・・・!?」

「どうやらゲブルの奴、己の騎獣を戦わせつつ、市街地の場所を探らせていたようだ。」

「なっ!?クソッ!あと一歩のところで倒せたというのに・・・!!」

もう少しのところでゲブルを仕留めることが叶わなかったことに、ノイエフは痛恨の極みだった。

「案ずるなノイエフ。すでに手は打ってある。」

「え?それは、一体どういう・・・。」

「ともかく、今はケガ人の手当を最優先させる。それが済み次第、我々も市街地に向かうぞ。」

「りょ、了解しました!」

まだ状況が今一つ掴めていないノイエフだったが、兄の言う通り、急いで負傷者の手当に向かった。

ふとファイセアが視線を移すと、斬り落とされたゲブルの腕と奴が持っていた戦斧を、ティスムドルが無言で見下ろしていた。

「ティスムドル・・・。」

「ファイセア。俺、取れたよ。アイツ等の仇・・・。あのゲブルに、こんな深手を負わせられた・・・。この、俺が・・・。」

目にうっすら涙を浮かべるティスムドルは、積年の恨みを晴らすことができて、まさに感無量といった様子だった。

「ああ。此度の戦いで、お前は確かに奴に勝った。これで、死んでいった仲間も、浮かばれよう・・・。」

「ありがとうな。ともに、戦ってくれて・・・。」

ファイセアはティスムドルの肩に手を置くと、笑みを浮かべながら大きく頷いた。

「だが、我々には果たすべき務めが残っておる!今一度、気を引き締め直すぞ!!」

「おう!言われるまでもねぇってば!!」

足並みを揃えて歩み出す二人の顔は、ともに戦い、強敵に一矢報いたことでとても輝いていた。




◇◇◇




「魔族軍がこっちに向かったって?ありがとうファイセア。ここは私に任せて、ケガ人の手当に専念してね。」

ファイセアからメッセージを受け取った私は、いよいよ自分の出番が来たことに緊張したが、ゆっくり呼吸を整えて、心の準備をした。

「さぁおいで。私の自慢の天使達・・・。聖なる軍勢パニッシャー・レギオン!!」

私は自分の後ろに、およそ3000もの天使の軍勢を召喚して、来たるべき戦いに向けて備えた。

「覚悟しなさい、魔族ども。私がいる限り、ここから先は、絶対に通さないから。」
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