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第三章 : 耳飾りの旅

マースミレン精冥戦争③

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「本当ですか!?くっ・・・!分かりました。では引き続き、歩兵部隊の支援に当たって下さい・・・。」

おそらく誰かと遠距離対話ハイ・コミュニケートで話してるであろうプリクトスさんが、とても苦々しい顔をした。

「あの、何かあったんですか?」

「国境付近の弓兵部隊が守る第一防衛戦が突破されたみたいです・・・。」

「そんな!?何で・・・?」

「侵攻当初は優勢だったのですが、どうやら敵は巨鬼種トロルを放って、強引に防衛戦を突破したみたいで・・・。」

巨鬼種トロルかぁ~!!

魔族軍むこうは数よりも力に物を言わせてきたってことか~!

「幸いにも、指揮官やノイエフ殿を始め、兵の半数は無事のようです。なので、市街地に待機させている歩兵部隊と合流させます。」

「分かりました。」

クソォ~!!

めっちゃ悔しいけど、過ぎたことをくよくよ悩んでは仕方ない。

あたしは気を落ち着かせて、市街地に待機させているファイセアさんとティスムドルさんに連絡を取ることにした。

「あっ!ファイセアさん、ティスムドルさん。ちょっと話したいことがあって・・・」




◇◇◇




「分かった!ではこちらも、を開始することにしよう。」

アサヒ殿から連絡を受け取った私は、ティスムドルと歩兵部隊の指揮官に作戦を開始することを伝えた。

「第一防衛戦が・・・!!むぅ・・・予想より早いな。」

「だが敵は確実に市街地ここを探り当て、向かってくる。ファイセア、俺達も動かないと。」

「そうだ!今は我々が果たすべき務めを最優先に考えなくては。では、指揮官殿・・・。」

「ああ、承知した。歩兵部隊!前進!!」

指揮官の号令とともに、木の葉を模した幅の広い盾を持ち、腰に剣を携えたマースミレンの森精人エルフの歩兵部隊は、市街地を抜け、森の北側に向けて行進を開始した。

「ファイセア・・・。」

クリーム丸に乗り込む前に、ルーチェが名残惜しそうに、私の手を優しく握ってきた。

「絶対・・・絶対生きて帰ってきて、下さいね・・・。」

私はすがるルーチェの肩に手をポンと置いた。

「安心しろ。必ず無事にお前の許まで帰ってみせる。お前も、ここのことはくれぐれも頼んだぞ。時は、お前だけが唯一の頼りなのだからな。」

「任せて!私が召喚できる全ての天使達を使ってでも、ここだけは必ず守ってみせるわ。」

「フッ。恐ろしくも頼もしいな。我が妻は。」

ルーチェは私の言葉に対して、頬を赤らめたが、ついに感極まったのか私を思いきり抱き締めてきた。

さほど時間は経っていないが、私にはそれが、永遠にも等しく感じられた。

やがて私達夫婦は抱きしめ合うのを止め、私はクリーム丸に堂々と乗り込んだ。

「では・・・行ってくる!」

ルーチェが何も言わず微笑みながら頷くと、私は行進を続ける歩兵部隊の先頭へと向かった。

「よぉ。全部見てたぜ。ホントにおしどり夫婦なんだなお前ら。」

先程の一連のひと時を見ていたティスムドルが、呆れたような口調で茶化してきた。

「で、嫁さんとの最後の別れはどうだった?」

「そのような下らん行いはしておらん。私は必ず愛する妻のために生き残ってみせる。それは彼女とて同じだろう。」

「死ぬつもりなんてこれっぽっちもないってことか・・・。」

「はぁ・・・。」とため息を吐いたティスムドルだったが、直後に鋭い眼光で私を見てきた。

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「俺だって同じだよバカが・・・!」

「ティスムドル・・・。ならばお互い、猛々しく抗って、楽しく暴れるとするか!!」

「フッ・・・。望むところだよ、戦友!」

私とティスムドルはグッと握った拳をゴツンとぶつけて、互いの健闘を大いに期待し合った。
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