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第三章 : 耳飾りの旅

マースミレン精冥戦争②

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{何?前方の兵が足止めを?}

痩鬼種オークの軍勢の先行部隊が領土にした途端、マースミレンの森精人エルフ軍の弓兵部隊によって奇襲を受け、侵攻が食い止められていることが、後方で魔族軍を指揮するゲブルの許へと伝えらた。

彼は他の痩鬼種オークとは違い、鎧を身に纏っておらず、背中にローランドによって砕かれた大剣の代わりとして、リセによって創造された戦斧を背負っていた。

{このままでは、侵攻に大幅な遅れが生じてしまうかと・・・!}

森精人エルフの矢とて無限にあるわけではない。

必ずいつかは、向こうの武装に損耗が生じる。

だがここでもたついてしまっては、市街地の守りを更に強固にされることも考えられ、敵の本丸である煌城樹こうじょうじゅへの攻撃がより困難になる恐れがある。

それは何としても避けたいところ。

ならばここで、いいように足止めを食らっている暇などない。

何か手はないか?

リセからこの軍勢の将を仰せつかったゲブルは思考を巡らせた。

・・・・・・・。

・・・・・・・。

そうだ。

{前方の痩鬼種オークどもを下がらせろ。代わりに、巨鬼種トロルどもを放て。}

ゲブルの命令を聞いた痩鬼種オークは喜々として{承知!}と言うと、彼の許を離れていった。

{ほほう。数よりも力で圧倒するとはのう。}

ゲブルより更に後ろ、人間の骨と宝石によって作られた簡素な玉座に座したリセが、ゲブルが下した采配を見事と言わんばかりにうなった。

{はっ!しかし申し訳ございません。本来なら市街地で待ち構えている森精人エルフの兵を蹴散らすために使うだったものを、ここで放つことになってしまって・・・。}

{よいよい。ここで奴らの手玉に取られるよりかは、よっぽどマシじゃ。妾が直々に加護を与えた猛き獣どもの恐ろしさ、存分に奴らに見せつけてやるとよい。}

{ははっ!仰せのままに。}




◇◇◇




「ノイエフ殿!!奴ら相当慌てふためいてますぞ!!これなら矢が尽きる前に引き返してくれるかもしれませんな!!」

弓兵部隊の指揮官を務める将軍の一人が、ノイエフに向けて自慢げに言った。

「ええ!そうですね!!奴らが引いたら、矢が少なくってきた人から順に下がらせて補充に向かわせて下さい!それを交互に繰り返して、一気に消耗戦に・・・」

ノイエフが弓兵部隊の指揮官に今後の方針を伝えようとした瞬間、右往左往する痩鬼種オーク達の奥から、突然大きな咆哮が轟き、何か巨大なモノが幾つも向かってくる気配がした。

それとともに、自分達の乗っている樹々の枝が、徐々に近寄ってくる大きな足音とともに激しく揺れた。

何事かと思い、痩鬼種オークの軍勢の奥を目を凝らして見たノイエフは、その迫ってくるものの正体をみて驚愕した。

「とっ、巨鬼種トロル・・・!!」

何とそれは、痩鬼種オークと同じく頑強な鎧に身を包み、巨大なハンマーを携えた何十体もの巨鬼種トロルだった。

巨鬼種トロル

全長約5mで、上下に丸みを帯びた牙が生えた、アルスワルドの中でも極めて狂暴な気性をした魔族の一種。

彼等は痩鬼種オーク児鬼種ゴブリンよりも知恵がなく、彼等から『~を破壊せよ』と命令されたら、その一切を壊し尽くすまで暴れるのを決して止めない。

本来であれば、陽光やマースミレンの森を照らすパラーネオの聖なる光を浴びた瞬間、その身体は塵となって消えるはずだが、この戦いに参戦した個体はリセによって冥府の加護が与えられており、この環境下でも十分に暴れ回ることができる。

しかも加護と一緒に、聖なる物に対してより一層の憎悪を与えられた彼等の狂暴性は、たとえ味方であっても計り知れないだろう。

「はっ、放てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

指揮官が命じ、弓兵部隊は動揺しながらも、巨鬼種トロルの急所を正確に狙って矢を放った。

彼等の急所は、首筋か脳天のいずれかだ。

しかし、いずれの急所も鎧に守られており、森精人エルフの放った矢はまるで通らなかった。

地級アース第二位・滾炎の剛矢ヒーティング・ストロングアロー!!」

ノイエフがダブルショットで放った矢が、巨鬼種トロルの甲冑を溶かし、頭部を射貫き仕留めることができたが、それでも一体だけしか倒すことできず、樹々を薙ぎ倒しながら突っ込んでくる巨大な鬼の群れは、もはや誰にも止めることはできなかった。

「くっ、クソ!お前達!!急いで退避しろッッッ!!!」

「だっ、ダメです将軍!まっ、間に合わ・・・ぐあああああああああああああああああああ!!!!」

指揮官が撤退する前に、巨鬼種トロル達はついに前衛の弓兵部隊のもとに到達し、乗っている彼等ごと樹々を手にしたハンマーで次々と砕き折っていった。

衝撃で地面に落下した森精人エルフ達は、暴走する巨鬼種トロルによって踏み潰され、掴み投げられ、ハンマーで一撃の下、原型を留めず叩き潰された。

奥にいた弓兵達は、何とか巨鬼種トロルの猛攻を止めようと、鎧の隙間に手当たり次第に矢を撃ち込んだが、急所以外なら数発の矢を受けたところで、頑丈な巨鬼種トロルには大したダメージにはならなかった。

「くっ・・・!ここまで・・・か・・・。皆の者!直ちに歩兵部隊と合流すべく撤退するぞ!!誠に悔しいが、これ以上の損害を出す訳にはいかぬ・・・。兵力温存のためここは捨て置く!よいな!?」

反撃することも、虫の息の仲間を救うこともできないことを、心から悔しさを感じつつ、弓兵部隊は樹々を飛び移りながら、ノイエフは近くに待機させていた禍犬種ワガドグのチーズ郎に乗り、国境付近の森から撤退していった。

巨鬼種トロルの活躍によって、今まで慌てふためいていた痩鬼種オークの兵達も勢いを取り戻し、再び行軍を開始した。

こうして、暴れ狂う巨鬼種トロルの群れによって、マースミレンの第一防衛ラインは突破されてしまったのだった。
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