161 / 514
第三章 : 耳飾りの旅
マースミレン精冥戦争②
しおりを挟む
{何?前方の兵が足止めを?}
痩鬼種の軍勢の先行部隊が領土にした途端、マースミレンの森精人軍の弓兵部隊によって奇襲を受け、侵攻が食い止められていることが、後方で魔族軍を指揮するゲブルの許へと伝えらた。
彼は他の痩鬼種とは違い、鎧を身に纏っておらず、背中にローランドによって砕かれた大剣の代わりとして、リセによって創造された戦斧を背負っていた。
{このままでは、侵攻に大幅な遅れが生じてしまうかと・・・!}
森精人の矢とて無限にあるわけではない。
必ずいつかは、向こうの武装に損耗が生じる。
だがここでもたついてしまっては、市街地の守りを更に強固にされることも考えられ、敵の本丸である煌城樹への攻撃がより困難になる恐れがある。
それは何としても避けたいところ。
ならばここで、いいように足止めを食らっている暇などない。
何か手はないか?
リセからこの軍勢の将を仰せつかったゲブルは思考を巡らせた。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
そうだ。
{前方の痩鬼種どもを下がらせろ。代わりに、巨鬼種どもを放て。}
ゲブルの命令を聞いた痩鬼種は喜々として{承知!}と言うと、彼の許を離れていった。
{ほほう。数よりも力で圧倒するとはのう。}
ゲブルより更に後ろ、人間の骨と宝石によって作られた簡素な玉座に座したリセが、ゲブルが下した采配を見事と言わんばかりにうなった。
{はっ!しかし申し訳ございません。本来なら市街地で待ち構えている森精人の兵を蹴散らすために使うだったものを、ここで放つことになってしまって・・・。}
{よいよい。ここで奴らの手玉に取られるよりかは、よっぽどマシじゃ。妾が直々に加護を与えた猛き獣どもの恐ろしさ、存分に奴らに見せつけてやるとよい。}
{ははっ!仰せのままに。}
◇◇◇
「ノイエフ殿!!奴ら相当慌てふためいてますぞ!!これなら矢が尽きる前に引き返してくれるかもしれませんな!!」
弓兵部隊の指揮官を務める将軍の一人が、ノイエフに向けて自慢げに言った。
「ええ!そうですね!!奴らが引いたら、矢が少なくってきた人から順に下がらせて補充に向かわせて下さい!それを交互に繰り返して、一気に消耗戦に・・・」
ノイエフが弓兵部隊の指揮官に今後の方針を伝えようとした瞬間、右往左往する痩鬼種達の奥から、突然大きな咆哮が轟き、何か巨大なモノが幾つも向かってくる気配がした。
それとともに、自分達の乗っている樹々の枝が、徐々に近寄ってくる大きな足音とともに激しく揺れた。
何事かと思い、痩鬼種の軍勢の奥を目を凝らして見たノイエフは、その迫ってくるものの正体をみて驚愕した。
「とっ、巨鬼種・・・!!」
何とそれは、痩鬼種と同じく頑強な鎧に身を包み、巨大なハンマーを携えた何十体もの巨鬼種だった。
“巨鬼種”
全長約5mで、上下に丸みを帯びた牙が生えた、アルスワルドの中でも極めて狂暴な気性をした魔族の一種。
彼等は痩鬼種や児鬼種よりも知恵がなく、彼等から『~を破壊せよ』と命令されたら、その一切を壊し尽くすまで暴れるのを決して止めない。
本来であれば、陽光やマースミレンの森を照らすパラーネオの聖なる光を浴びた瞬間、その身体は塵となって消えるはずだが、この戦いに参戦した個体はリセによって冥府の加護が与えられており、この環境下でも十分に暴れ回ることができる。
しかも加護と一緒に、聖なる物に対してより一層の憎悪を与えられた彼等の狂暴性は、たとえ味方であっても計り知れないだろう。
「はっ、放てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
指揮官が命じ、弓兵部隊は動揺しながらも、巨鬼種の急所を正確に狙って矢を放った。
彼等の急所は、首筋か脳天のいずれかだ。
しかし、いずれの急所も鎧に守られており、森精人の放った矢はまるで通らなかった。
「地級第二位・滾炎の剛矢!!」
ノイエフがダブルショットで放った矢が、巨鬼種の甲冑を溶かし、頭部を射貫き仕留めることができたが、それでも一体だけしか倒すことできず、樹々を薙ぎ倒しながら突っ込んでくる巨大な鬼の群れは、もはや誰にも止めることはできなかった。
「くっ、クソ!お前達!!急いで退避しろッッッ!!!」
「だっ、ダメです将軍!まっ、間に合わ・・・ぐあああああああああああああああああああ!!!!」
指揮官が撤退する前に、巨鬼種達はついに前衛の弓兵部隊のもとに到達し、乗っている彼等ごと樹々を手にしたハンマーで次々と砕き折っていった。
衝撃で地面に落下した森精人達は、暴走する巨鬼種によって踏み潰され、掴み投げられ、ハンマーで一撃の下、原型を留めず叩き潰された。
奥にいた弓兵達は、何とか巨鬼種の猛攻を止めようと、鎧の隙間に手当たり次第に矢を撃ち込んだが、急所以外なら数発の矢を受けたところで、頑丈な巨鬼種には大したダメージにはならなかった。
「くっ・・・!ここまで・・・か・・・。皆の者!直ちに歩兵部隊と合流すべく撤退するぞ!!誠に悔しいが、これ以上の損害を出す訳にはいかぬ・・・。兵力温存のためここは捨て置く!よいな!?」
反撃することも、虫の息の仲間を救うこともできないことを、心から悔しさを感じつつ、弓兵部隊は樹々を飛び移りながら、ノイエフは近くに待機させていた禍犬種のチーズ郎に乗り、国境付近の森から撤退していった。
巨鬼種の活躍によって、今まで慌てふためいていた痩鬼種の兵達も勢いを取り戻し、再び行軍を開始した。
こうして、暴れ狂う巨鬼種の群れによって、マースミレンの第一防衛ラインは突破されてしまったのだった。
痩鬼種の軍勢の先行部隊が領土にした途端、マースミレンの森精人軍の弓兵部隊によって奇襲を受け、侵攻が食い止められていることが、後方で魔族軍を指揮するゲブルの許へと伝えらた。
彼は他の痩鬼種とは違い、鎧を身に纏っておらず、背中にローランドによって砕かれた大剣の代わりとして、リセによって創造された戦斧を背負っていた。
{このままでは、侵攻に大幅な遅れが生じてしまうかと・・・!}
森精人の矢とて無限にあるわけではない。
必ずいつかは、向こうの武装に損耗が生じる。
だがここでもたついてしまっては、市街地の守りを更に強固にされることも考えられ、敵の本丸である煌城樹への攻撃がより困難になる恐れがある。
それは何としても避けたいところ。
ならばここで、いいように足止めを食らっている暇などない。
何か手はないか?
リセからこの軍勢の将を仰せつかったゲブルは思考を巡らせた。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
そうだ。
{前方の痩鬼種どもを下がらせろ。代わりに、巨鬼種どもを放て。}
ゲブルの命令を聞いた痩鬼種は喜々として{承知!}と言うと、彼の許を離れていった。
{ほほう。数よりも力で圧倒するとはのう。}
ゲブルより更に後ろ、人間の骨と宝石によって作られた簡素な玉座に座したリセが、ゲブルが下した采配を見事と言わんばかりにうなった。
{はっ!しかし申し訳ございません。本来なら市街地で待ち構えている森精人の兵を蹴散らすために使うだったものを、ここで放つことになってしまって・・・。}
{よいよい。ここで奴らの手玉に取られるよりかは、よっぽどマシじゃ。妾が直々に加護を与えた猛き獣どもの恐ろしさ、存分に奴らに見せつけてやるとよい。}
{ははっ!仰せのままに。}
◇◇◇
「ノイエフ殿!!奴ら相当慌てふためいてますぞ!!これなら矢が尽きる前に引き返してくれるかもしれませんな!!」
弓兵部隊の指揮官を務める将軍の一人が、ノイエフに向けて自慢げに言った。
「ええ!そうですね!!奴らが引いたら、矢が少なくってきた人から順に下がらせて補充に向かわせて下さい!それを交互に繰り返して、一気に消耗戦に・・・」
ノイエフが弓兵部隊の指揮官に今後の方針を伝えようとした瞬間、右往左往する痩鬼種達の奥から、突然大きな咆哮が轟き、何か巨大なモノが幾つも向かってくる気配がした。
それとともに、自分達の乗っている樹々の枝が、徐々に近寄ってくる大きな足音とともに激しく揺れた。
何事かと思い、痩鬼種の軍勢の奥を目を凝らして見たノイエフは、その迫ってくるものの正体をみて驚愕した。
「とっ、巨鬼種・・・!!」
何とそれは、痩鬼種と同じく頑強な鎧に身を包み、巨大なハンマーを携えた何十体もの巨鬼種だった。
“巨鬼種”
全長約5mで、上下に丸みを帯びた牙が生えた、アルスワルドの中でも極めて狂暴な気性をした魔族の一種。
彼等は痩鬼種や児鬼種よりも知恵がなく、彼等から『~を破壊せよ』と命令されたら、その一切を壊し尽くすまで暴れるのを決して止めない。
本来であれば、陽光やマースミレンの森を照らすパラーネオの聖なる光を浴びた瞬間、その身体は塵となって消えるはずだが、この戦いに参戦した個体はリセによって冥府の加護が与えられており、この環境下でも十分に暴れ回ることができる。
しかも加護と一緒に、聖なる物に対してより一層の憎悪を与えられた彼等の狂暴性は、たとえ味方であっても計り知れないだろう。
「はっ、放てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
指揮官が命じ、弓兵部隊は動揺しながらも、巨鬼種の急所を正確に狙って矢を放った。
彼等の急所は、首筋か脳天のいずれかだ。
しかし、いずれの急所も鎧に守られており、森精人の放った矢はまるで通らなかった。
「地級第二位・滾炎の剛矢!!」
ノイエフがダブルショットで放った矢が、巨鬼種の甲冑を溶かし、頭部を射貫き仕留めることができたが、それでも一体だけしか倒すことできず、樹々を薙ぎ倒しながら突っ込んでくる巨大な鬼の群れは、もはや誰にも止めることはできなかった。
「くっ、クソ!お前達!!急いで退避しろッッッ!!!」
「だっ、ダメです将軍!まっ、間に合わ・・・ぐあああああああああああああああああああ!!!!」
指揮官が撤退する前に、巨鬼種達はついに前衛の弓兵部隊のもとに到達し、乗っている彼等ごと樹々を手にしたハンマーで次々と砕き折っていった。
衝撃で地面に落下した森精人達は、暴走する巨鬼種によって踏み潰され、掴み投げられ、ハンマーで一撃の下、原型を留めず叩き潰された。
奥にいた弓兵達は、何とか巨鬼種の猛攻を止めようと、鎧の隙間に手当たり次第に矢を撃ち込んだが、急所以外なら数発の矢を受けたところで、頑丈な巨鬼種には大したダメージにはならなかった。
「くっ・・・!ここまで・・・か・・・。皆の者!直ちに歩兵部隊と合流すべく撤退するぞ!!誠に悔しいが、これ以上の損害を出す訳にはいかぬ・・・。兵力温存のためここは捨て置く!よいな!?」
反撃することも、虫の息の仲間を救うこともできないことを、心から悔しさを感じつつ、弓兵部隊は樹々を飛び移りながら、ノイエフは近くに待機させていた禍犬種のチーズ郎に乗り、国境付近の森から撤退していった。
巨鬼種の活躍によって、今まで慌てふためいていた痩鬼種の兵達も勢いを取り戻し、再び行軍を開始した。
こうして、暴れ狂う巨鬼種の群れによって、マースミレンの第一防衛ラインは突破されてしまったのだった。
0
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる