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第三章 : 耳飾りの旅

讐戦の狼煙

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黎明の開手ひらきてジョルドの行なった復活の儀式によって、およそ100年ぶりに肉体を取り戻した冥府の姫・リセ。

彼女はまだぼんやりとしながら、それでいて尋常ならざる気迫を感じさせる目つきで、自分を復活させたジョルドを睨みつけた。

その激しく燃え盛る紅蓮の如き瞳に圧倒され、ジョルドは冷や汗をかいたが、ここは英雄としての威厳を保ち、対等に話を進めるべく、跪きそうになった身体をグッと堪えた。

「めっ、冥府の姫リセよ。こっ、今回俺は、ある申し出を言うべく、お前にこうして顕現してもらった・・・!」

「ほう。下等な人間如きが妾と対等に話そうとするとは・・・。本来であれば刎頸に値する行いだが、貴様のその度胸と、内に秘めたる強者に相応しい実力に免じて許してやる。」

「かっ、感謝する。」

「して気高き人間よ。今は何年だ?」

「アルスワルド歴3023年・・・だ。」

「3023年・・・。そうか。100年もの間眠りこけていたワケか。この・・・父上から賜りし耳飾りの中に・・・。」

リセは右耳に付けられた耳飾りをさすり、何か物寂し気な表情をした。

だがその憂いの表情は、やがて憎悪に満ちた怒りの顔へと変わっていった。

「おのれ・・・!“饕欲てつよく女鬼めき”め!!愛する父を殺し、その血を、力を奪いおって・・・!!教えろ人間!!奴は・・・ミラは今、どうしておるのだ!?まさか、死んだとは言うまいな?」

紛うことなき悪鬼の如き形相で、リセから問いただされたジョルドは、一瞬口ごもったが、恐れを必死に抑え込み、彼女の仇敵たるミラの現状を伝えることにした。

「ミラは今・・・救血きゅうけつの乙女と呼ばれ、奪った力を使って、吸血鬼救済のために、戦っている・・・。」

「今まで奪ってきた力で同族の救済?あの頃の奴は、人間を根絶やしにするために力を蓄えてきたというのに。どういった心変わりがあったか知らんが、身の程知らずな傲慢さに反吐が出るわ。」

「俺は、ミラに対抗するために創設された騎士団に所属している。俺達は、多大な犠牲を払いながら、はミラを殺すことに成功した。」

「一度は?」

ジョルドのその文言を聞いた途端、リセの眉がピクっと動いた。

「殺した後・・・甦ったのだ。奴は今も、一族救済のためにのさばり、生き残った仲間も、一人殺された。」

これまでの経緯を話した後、ジョルドは恐怖からではなく、誠意を見せるべくリセに向かって跪いた。

「頼む!偉大なる冥府の姫・リセよ!どうか共通の怨敵たるミラを倒すべく、我らとともに同盟を結んでくれ!!」

「同盟・・・のう?」

リセは跪くジョルドの前に歩み寄り、下げた頭を思いきり蹴飛ばした。

「ぐはっ・・・!!なっ、何を・・・!?」

「誰がミラを殺すもみすみす甦られ、倒すこともできない下賤な奴らと手を組むか。怨みなら妾一人で晴らす。」

そう言ってリセはジョルドを殺そうとしたが、手に激痛が走ってできなかった。

「ざっ、残念だったな・・・。ここは貴様ら冥府の者が忌み嫌うパラーネオの光で溢れている。だからここでは、貴様は本調子を出すことができない。」

リセはふと、部屋の隅で腹を抱えて倒れているカロガンスルを見て、ハッとした表情を見せた。

「その顔、久しいな。まさか、マースミレンで妾を復活させるとは・・・。図ったな、人間。」

リセはカロガンスルの顔を掴んで、カロガンスルは苦悶に満ちた表情をしながらも、目の前のリセを睨みつけた。

「おっ、お前の・・・望み通りには・・・ならんぞ。儂も・・・ミラは気に食わんが・・・その力は・・・強大だ。必ずや・・・お前を・・・討ち滅ぼすだろう・・・。せいぜい・・・父親と・・・再会・・・した際の・・・台詞でも・・・考えて・・・おくんだな・・・。」

嘲笑うようなカロガンスルの言葉にリセは憤怒の表情になり、彼の首を漆黒の炎で作った短剣で刎ね飛ばした。

リセはその後踵を返して、ジョルドの胸倉を掴んで、翼脚を広げると天井をぶち抜いて空高く飛び立った。

「がっ!?ああっ・・・!!はっ、放せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

?カカッ!そうか!ならば、望み通りに!!」

リセはジョルドを下に向かって放り投げ、上空から小さな砂煙が見えた。

「さてと。気晴らしは済んだことだし、そろそろ上げるとするか。復讐の、戦の狼煙を・・・!!」

リセがバッと手を高く掲げると、彼女の手にバチバチと紫の閃光が生じた。

「我が眷属どもよ!!我が上げしこの狼煙を見、我が呼びかけが耳に届けば、我が弔いの戦に馳せ参じ、冥府の姫・リセの手足として戦え!!天級ヘヴン第四位・冥閃の王命ダークロード・オーダー!!」

リセの手に生まれた閃光は、巨大な紫色の稲妻となって、天高く、そして禍々しく打ち上がった。

この時を以って、冥姫めいきリセの、ミラへの復讐の戦の火蓋が切って落とされたのだった。
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