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第三章 : 耳飾りの旅

女同士の森精人国巡り

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「では我々はこれで。ルーチェ、アサヒ殿とめいっぱい楽しんでくるのだぞ。」

「分かったわ。ファイセアも、ノイエフ君達と楽しくね。」

煌城樹こうじょうじゅの門の前で、あたし達は男と女のグループに分かれてマースミレンの街を巡ることにした。

「さて!男連中もいなくなったことですし。皆様、どこから巡りましょうか?」

子どもながらといえ、ソレットは無邪気でいいな~。

その気楽さ、ほんのちょっとでもいいからあたしに分けてほしいよ・・・。

「そうね~。まずはお服屋さんに行ってみたいわ。ファイセアに、新しい服を買ってあげたいもの。」

「おっ!旦那さんに服のプレゼントとはいいですね~♪じゃあ早速・・・」

「それ、本当に今必要ですかぁ~?」

リリー?

「そっ、それはどういう・・・。」

「服なんてどこでも買えますし、こんなところでわざわざお買いになる必要があるかという意味です。」

「そっ、そんなことはありませんよ!森精人エルフの国でしか買えない風情に満ちた服がきっとあるでしょう?私はそれを贈ってあげたいのですっ。」

「人妻とは厄介なものですねぇ~。そうやって行く先々で夫への贈り物を買っては、あっという間に家が物で埋まってしまいますよぉ~。」

リリーに嫌味を言われて、アルーチェさんの顔がムッとなった。

「じゃ、じゃあ・・・ヒバナ様はどこを最初に巡りたいと思っておられるのですか?」

「それは~装飾品店ですよ~♪アサヒお姉様に、マースミレンで作られたキレイで神秘的な指輪をでもと・・・♡♡♡」

「クフフ・・・♡♡♡」と気味の悪~い含み笑いをしてこっちを見てくるリリーに、あたしは久しぶりにゾッとした。

そういやこの子・・・、だったっけ?

最近ちょっと忘れ気味になってたわ・・・。

「それって、アサヒ様とどこかへ赴く度になさるのですか?」

「ええ。当然ですっ!!」

イヤイヤイヤ!!

あたしリリーとアクセサリー店巡りなんてしたことないよ!?

そんなことしたらあたし、この子からのプレゼントでジャラジャラになっちゃうよ!?

「それこそ・・・控えた方がよろしいかと・・・。」

「はぁ?何でよ?」

「旅の先々でアサヒ様に装飾品をお贈りになったら、アサヒ様が金細工でいっぱいになってしまうかと・・・。」

アルーチェさん・・・ごもっともです!!

「夫に余計な服を贈るよりはよっぽどためになると思いますがね?」

「なんですって?」

「何?やんの?」

やっ、ヤバい・・・。

一気に2人が一触即発ムードに・・・!!

「ああもう!!2人ともいい加減にして!!子どもの前でいい大人がカッコ悪い!」

「アサヒ(お姉)様・・・。」

「そんなに揉めるんだったら、どこ回るかはあたしが決める!“マースミレンの美味しい物巡り”!!これで決定ね!分かったぁ!?」

「はっ、はぁ・・・。」

「わっ、分かりましたぁ・・・。」

あたしが叱ると、リリーとアルーチェさんはどうにかケンカを止めてくれた。

ホント、世話が焼けんなぁ~。

まぁ、無理もないんだけど・・・。

「でっ、では~行先も決まりましたんで、始めましょっか!マースミレン巡り!!」

ソレットが気まずそうにゴーを出すと、リリーとソレットはまるで張り合うように走り出した。

「なんか・・・ゴメンね!妙な気、遣わしちゃって・・・。」

「ホントにもう・・・一つ貸しですからね!」

「はいはい。後で倍にして返すから許してねっ。」

「お願いしますね!しっかし、どうしてヒバナ様とアルーチェ様はあんなに馬が合わないのでしょうか?」

「う~ん・・・どうしてだろ?あたしにも、!」




◇◇◇




こうしてあたし達は、女同士でマースミレンを巡ることになったのだが、実に神経を使うことになった!

だってあの2人、行く先々でケンカおっ始めんだもん・・・。

あたしが「このパン美味しそう~♪」って言ったら、2人して「いいや!こっちの方が美味しいに決まってます!!」って張り合ってくるし、リリーが「このお守りアサヒお姉様にご利益ありそう~!」って言うと、「それじゃあ魔を払いそうには見えませんね~」ってアルーチェさん難癖付けてくるし・・・。

せめてもうちょっと仲良くしてほしいよな~・・・。

とまぁ~そんなカンジであたし達のマースミレン巡りは、リリーとアルーチェさんによって、波乱を極めるものとなった。

「あっ!皆様!あそこに武具屋がございますよ!!ここは新しい装備でも買ったらいかがですか?」

「それはいいわねソレットちゃん。じゃあ行きま・・・」

「何言ってんのよちんちくりん。武具なんて王都に帰った時に買えばいいでしょ!マースミレンまで来てまで買う物なの?」

ま~た始まったよぉ・・・。

ホントいい加減にしてほしいな~。

「あれれ~?そんなこと言っちゃっていいんですかぁ~?」

「どっ、どういう意味さ?」

森精人エルフが鍛えた剣や鎧には、聖なる力が込められていて、所有者に大層なご加護をもたらすと言われてるんですよぉ~。買っておいて、損はないんじゃないですか?」

「ぐっ、ぐぬぬ・・・。」

「それからアルーチェ様。」

「なっ、何?」

「武具屋で言い争いをされては、よいお品を選ぶのに差し支えると思います。ファイセア様のご武運のためにも、ここは集中されるべきかと存じます!!」

「うっ、うん・・・。分かったわ。」

ソレットが諫めると、2人は言い争わずに、武具屋に入っていった。

「あっ、ありがとソレット!あなたのお陰でこの場を収めることができたっ!」

「礼には及びません。えっ~と・・・これで貸しは2つ目っと♪」

ってメモって数えてるやないか!

あたしへの貸し!

ホントまぁ~・・・抜け目のない子だわ・・・。




◇◇◇




こうして、一時はどうなるかと思ったマースミレン巡りは、リリーとアルーチェさんを完全に手玉に取ったリリーによって、どうにか有意義なモノへとなった。

その度に、あの子のあたしへの貸しがカウントされていったんだけど・・・。

こりゃ~王都に帰ったら、あの子のワガママ、少なくとも10個以上聞かなきゃいけないんだろうな~・・・。

とにもかくにも、あたしの異世界初の森精人エルフの国巡りは成功し、夕暮れにもなってきたので、あたし達は煌城樹に帰ろうとしていた。

そんな時だった・・・。

「アサヒ様。」

「何ですか?」

「実は折り入って2人きりでお話したいことがございます。ここは一つ、お付き合い願いないでしょうか?」

「はっ、はぁ~・・・?」

話したいことって何だろ!?

まさか!?

あたしの正体がバレた!?

一瞬そんな考えがよぎったが、アルーチェさんの顔はどこか穏やかで、それでいてどこか迷ってるように感じられた。

それはまるで・・・あの日、あたしに“どう生きる道を探していけばいいかどうか分からない”と打ち明けた、ファイセアさんのように・・・。
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