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第三章 : 耳飾りの旅

名乗らぬ者への感謝

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真っ暗な空間が、どこまでも広がっている。

先が見えず、上も下も分からない暗闇の中で、私は途方に暮れ、次第に孤独で泣き出しそうになってきた。

その時、誰かの後ろ姿が見えた。

あれは・・・お姉ちゃんだ!!

「お姉ちゃん!!」

お姉ちゃんの傍まで走って、背中に手が触れた瞬間・・・お姉ちゃんは鬼のような形相で振り返り、私の首を絞めながら押し倒してきた。

「おっ、お姉ちゃ・・・!止め・・・!」

お姉ちゃんの私の首を絞め上げる力が段々強くなり、私は息をすることができなくなってきた。

「お願い!お願いだから、死んでよ!!何で、何でアンタだけ楽しく生きてんのよ!?」

首を絞め上げながら、お姉ちゃんは私が生きていることへの怨みを、大きな怒声で口にした。

ああ、やっぱり・・・。

お姉ちゃん、一人遺った私が、アサヒ様達と楽しく過ごしてるのが、許せなかったんだ。

分かったよ。

私もお姉ちゃんと、一緒のところに行くから、それで、どうか許して・・・?

意識が朦朧としてきた時、暗闇いっぱいに「止めてッッッ!!!」と大きな声が響き渡り、私の首を絞めていたお姉ちゃんは、風で吹き飛ばされるように消え去り、周りも暗闇から広大な真っ白な空間へと一気に変わった。

どういうことかと思ったその瞬間、仰向けに倒れる私に誰かが覆いかぶさり、力一杯抱きしめてきた。

その人は・・・私の、だった。

「お姉、ちゃん・・・?」

「もう大丈夫だからねソレット!!はここにいる!だから・・・もう安心して!!」

「お姉ちゃん・・・私のこと、恨んでないの?一人だけ楽しく過ごしてる私を、妬んだり、してないの?」

「ソレットがみんなと楽しく、笑いながら過ごしてるのを見て、お姉ちゃんが何であなたを恨んだりなんかするのよ!?さっきの私は悪い幻・・・。お姉ちゃんね、一人遺したソレットが、心配で心配でたまらなかったの。私こそ・・・“一緒に帰ろう”なんて言っておきながら、それができなくて・・・本当に、ごめんなさいッッッ!!!」

すがりつきながら泣いて謝るお姉ちゃんの頭を、私は優しく撫でた。

「いいよ。もう謝らなくて。お姉ちゃんが、本当は私を嫌ってなんかいなかったって分かっただけで、私は、もう十分嬉しいよ。」

私は泣きじゃくるお姉ちゃんを抱きしめ、私達はごろんと横になりながら互いに抱擁し合った。

「ソレット。」

「なぁに?お姉ちゃん。」

「忘れないで。あなたと私が想い合ってる限り、私達はずっと一緒だよ。だから・・・もう寂しい思いなんかしないで。」

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「寂しくなんかないよ。だって私には、お姉ちゃんと同じくらい、大切な人達ができたんだから。」

私がそう言うと、お姉ちゃんは安心しきった微笑みを見せ、それを見た私はそっと目を閉じたのだった。




◇◇◇




「ソレット!起きて!!ねぇソレットってば!!」

あたしが呼びかけると、ソレットはゆっくりと目を開けた。

「アサヒ・・・様・・・?」

「良かったぁ~!!目を覚ましてくれてぇ~。」

「誠に無事でよかった。」

「ファイセア様。それに、皆様も・・・はっ!そうだ!!ヒバナ様!ヒバナ様はどこに・・・!?」

「私がどうしたって?」

他のみんなよりも少し奥の方で立っていたヒバナリリーを見つけると、ソレットは起き上がり、リリーに思いきり抱きついてきた。

「おおっ!?どっ、どうしたのよ?」

「分かりません。ただ何故か、こうしたくて・・・。」

「傷もまだ少し残ってるっていうのに私に飛びつくなんて、アンタ、よっぽど私が好きになったの?」

「べっ、別にそういうんじゃ・・・あっ!そうだ!!吸血鬼・・・。あの吸血鬼の方は!?」

「吸血鬼?吸血鬼がいたのかソレット?」

「はい!私を助け、重症だった私を癒してくれました!!ヒバナ様!あの吸血鬼の方はどうなりましたか!?」

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「分からないわ。ただ、この森を覆っていた霧が晴れたってことは、おそらくこの騒ぎの元凶に勝ったんでしょうね。」

「そう、ですか・・・。」

ソレットは、自分を助けた吸血鬼・・・といっても本人の前にいるのがその人なんだけど、彼女が姿を消したことに、しょんぼりとした。

「せめて、お礼が言いたかったです。お姉ちゃんの偽物から、私を助けてくれたこと。私に・・・とても優しい言葉を、かけてくれたことを・・・。」

ソレットのその言葉を聞くと、リリーはしゃがみ込み、しょんぼりする彼女の頭をそっと撫でた。

「その感謝の気持ちだけで、その吸血鬼は十分報われたと思うわ。だからいつまでも、そうしょげた顔をしないの!あなたらしくないわよ?」

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「ヒバナ様に言われなくても分かってます!!“誰よりも元気いっぱい”がわたくしのモットーですからっ!」

「フフッ!何よそのなんの捻りもないモットーは!?ほら!もう大丈夫になったんなら、みんなに心配かけたこと謝って!」

「はっ、はい・・・。皆様!わたくしの軽率な行動で、大変ご迷惑をおかけして、本当にすいませんでした!!」

ソレットが90度でお辞儀してみんなに謝ると、リリー以外の私を含めた全員が「気にするな。」と彼女に言った。

「しかしアサヒ殿、此度のこの許し難い所業を行なった者の処遇はいかにしようか?まだ見つかっておらんのだろう?」

「いや、それはできないと思うわ。」

「何故かな?ヒバナ殿。」

「吸血鬼と戦って負けたとなったら、血を全部吸い尽くされて、今頃どっかで死んでると思うから。」

「そっ、その可能性もあり得るな・・・。」

結局、今まで死会の楽獄を牛耳っていた奴は、“吸血鬼との戦いで死亡”ということで結論付けられ、あたし達は。マースミレンへの道を急ぐことにした。

「ねぇリリー・・・。」

「何ですか?」

「今回の元凶のことなんだけどさ・・・。」

「ご安心を。杖へし折って、殺さずに力を全部奪って、そこらへんに捨ててきました・・・。」

コッソリ教えられて、あたしは、今回の騒動を引き起こした、“黎明の開手ひらきてに入りたがっていた魔能士の女”の命が、とりあえず無事であると知ってホッとした。

本当だったら、この手でシバき倒してやりたかったけど・・・。

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「ありがとね、リリー・・・。」

「なっ、何がですか・・・!?」

「ソレットのために、戦ってくれたんでしょ?あたし、嬉しいな・・・。リリーがあの子のことを、そんなに大切に想ってくれて・・・。」

「わっ、私はただ、ミラお姉様のお手を煩わせた下賤な魔能士を、叩きのめしただけで・・・!!」

「よっく言うよ・・・!“ソレットのために、アイツをブチのめして来ます”って言ってたクセに・・・。」

「あっ、あれは・・・!ああ!もう~・・・。」

あたしがからかうと、リリーはゴマ風を急かせて、一番先頭へと向かった。

素直じゃないんだから!

でも・・・本当にありがとね。

人間だけど、自分と同じ傷を抱える女の子のために、頑張って戦ってくれて。

やっぱり、あなたは・・・あたしの自慢の、最高の妹分だよ!

リリー。
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