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第三章 : 耳飾りの旅

雪山か、迷宮か

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元の世界にいた頃、バラエティーでスイスかどっかの山の頂上を目指すスペシャルを見て、「あたしもいつかこんなところ行ってみたいなぁ~!!」ってガチで憧れた。

だって見渡す限りサラサラの雪でキラキラと光る銀世界、みんなでテントを張ってワイワイガヤガヤいいながらの夜。

もちろん過酷なこともいっぱいあるだろうけど、だけどそれは頂上からのご来光が、その苦労でいっぱいになった心を何とも言えぬ達成感で変えてくれる。

生きてる内は誰でもやってみたいと思うのが当たり前じゃん?

だけどイザその状況に置かれると、そんな憧れは所詮は幻想だったと思い知らされるのが世の常、なんだと思う。

そして、今まさにあたしは・・・その状況の真っ只中なんだもん・・・!!

「・・・・様!アサヒ様!!」

「へっ、何?」

「何ボーっとしてるんですか!?もしかして、今になってこの光景にウットリしたとか言うんじゃないでしょうね!?」

「そんなんじゃないよ。ただ・・・“夢って散る時は、えげつなくこう・・・バァン!!ってなるんだなぁって、思ってさ・・・。」

「あなた何言ってんですか?」

「ナチュラルにツッコみ入れないで。余計ヘコむから・・・。」

「ワケ分かんないこと言ってないで行きますよ!まだまだ先は長いんですから!!」

「分っかりましたぁ~・・・。」

ソレットに急かされて、あたしはチョコ之丞の首輪をグイッと引っ張って、再び果てしなく続く雪山を登り始めた。

ホログエンの山脈に入って、大体2週間が経った、かな?

実のところ、もう何日ここを歩き続けたか曖昧になり始めていた。

入山してすぐは、どこまでも続く雪景色とまるで小麦粉のようにサラサラした雪に、子どものソレットは勿論のこと、前の世界で生粋の都会っ子だったあたしも、いい年をして大はしゃぎした。

だけど楽しかったのは最初だけ。

行けども行けども変わり映えしない白銀の世界と、アップダウンの激しい登山ルート。

そして最もあたし達を苦しめたのは、ブリザードだった。

吹雪自体は、防壁と身体から放熱する魔能を重ねることで何とかなったのだが、視界が尋常じゃなく悪く、そのせいで何回足止めを食らったことか・・・。

ソレットの毒舌がいつにもまして切れ味が鋭く感じたのも、この何日も続く雪山登山にめっちゃくちゃウンザリしてるんだろう。

「アサヒ!あの雲を・・・!」

ティスムドルさんが指差す方を見ると、真っ黒で稲妻がゴロゴロ言ってる雪雲がこっちに近づいてきた。

「また猛吹雪なの!?もういい加減にしてほしいわ!!」

「自然に文句を言っても仕方なかろう!だがしかし、こう何日もこれで立ち往生は・・・。」

「う~ん・・・。ええい!つべこべ言っても何も始まんない!!ほらみんな!いつもみたいにあたしの近くに集まって!」

みんなを近くまで集めると、あたしはここに来てからもうほぼ毎日やってるように防壁魔能と放熱魔能を展開した。

その直後、辺りが真っ白で何も見えなくなるブリザードが、一気に襲ってきた。

「ふぅ~!間に合ったぁ・・・。」

「・・・・・・・。ああもう!!いい加減ウンザリです!!一体何日この流れを繰り返せばいいんですか!?」

突然大声を出したソレットに、あたし達全員はビクッとなった。

いつもならソレットに小言を言うリリーでさえも何も言わなかったから、みんなマジでウンザリしてたんだろう。

「あのさティスムドルさん、みんなメンタルかなり参ってるみたいだからさ、もっと早く行けるルートはないんですか?ワガママ言うようでなんですけど。」

「う~ん・・・。実は・・・あるのは、あるのだが・・・。」

「え?なんかその言い方、なんか・・・ヤバい?」

「地図通りに進んでいるならば、ここから少し入った先に、山脈を縦断できる迷宮に通じている洞窟があるのだが・・・。そこは灯りがほぼ効かないくらい薄暗く、一度迷ってしまえば二度と出ることができないと言えないんだ。」

迷宮かぁ~!!

確かにそこならブリザードはないだろうけど、真っ暗で迷うリスクがここより高いし、そして何より心配なのが・・・。

モンスターの出現!!

ファンタジー世界の迷宮は、豊富な種類の魔物が巣窟だって相場が決まってるもんだし。

小さいのだったら大したことないだろうけど、数が多かったりめっちゃデカいのに襲われたらフォローできる自身がないもん。

よし。ここはリーダーとして、ティスムドルさんの案を断るとするか。

ブリザード地獄にはあたしもウンザリしてるけど、みんなの安全には代えられん。

「ねぇみんな。下手に近道するとかえって危け・・・。」

「よし!そこを行きましょう!!。」

わ?

「ソレットの言う通りだ。こんな雪山でいつまでも立ち往生を繰り返すのは、時間を浪費するばかりだからな。」

わわ?

「俺も兄上達に賛成です。早くマースミレンに耳飾りを届けなければなりませんしね。」

わわわ?

「私もこの、どこまでも続く雪山には嫌気がさした頃なのよね。だから私はティスムドルの案に乗るわ。」

わわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ!?

ええなんでみんなそんな乗り気なの!?

そんなにホログエンの山脈ここにウンザリしてたの!?

ヤバいよこの空気・・・。

とても「イヤ!それは危険だから止めるべき!!」って言えない空気だ・・・。

「アサヒお姉様!どうしますか?」

ここであたしに振ってくんなよリリー・・・!!

ほらぁ~!!

みんな目をキラキラさせて「そうすべきですよね!」って言わんばかりの眼差し向けてんじゃん~!!

だっ、だけどあたしはこのパーティのリーダー。

ここはみんなからブーブー言われたとしても、みんなの身の安全を保証すべき!

そう。みんなからブーブー言われても。

ブーブー、言われても・・・。

ブーブー・・・。

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「そこ行こっか。いつまでも進んでは止まってを繰り返したって仕方ないしね。」

あたしの決定の聞いて、みんなはこの山に入ってから、今まで見せたことない笑顔を見せた。

こうして、満場一致。

というより、あたしがみんなのプッシュに負けて、この山脈を縦断する迷宮を行くことになった。

あたしって・・・意志弱ッッッ!!!
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