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第三章 : 耳飾りの旅
王国の外へ
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翌朝、あたし達はティスムドルさんの家があった森を西に向かって進んでいた。
当のティスムドルさんは、チーズ郎の後ろの方に乗っているソレットと、森精人の文化について楽しく会話していた。
昨夜会った時は「ほっ、本物の森精人だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」って、まるでお気に入りのアニメキャラに実際に会った子どものように大はしゃぎしてたのに、今や緊張することなく話をしてるから、あの子のコミュ力の高さに感心させられる。
っていうかあの子、ティスムドルさんにいつもの毒舌、一回も吐いてないってどゆこと?
あたしやリリーにはヘーキな顔して何でも言うクセに・・・。
そういえば、ファイセアさんとノイエフさんにもしてないな、毒舌トーク。
あれか?
同性か異性かの違いが、あの子にとってのボーダーラインなのか?
う~ん・・・。
分からん!!
「実はな、俺達森精人にも、喫煙の文化があるんだ。」
「そうなんですか!?」
「ああ。メルティスコというパイプ草があってな。これが吸うと果実のような甘い風味がするんだ。森精人達はこのパイプ草を好んで吸っているんだ。」
「へぇ~!わたくしも吸ってみたいです!!その甘いパイプ。」
「ははっ。ソレットにはまだまだ早いな。」
「やっぱり、そうですよね~・・・。」
自分が好きになりかけていた物がお預けになったせいで、ソレットは分かりやすく肩をガックリさせた。
「アサヒお姉様。」
「どした?」
「あの森精人、すっかりちんちくりんと馴染みましたね。」
横についたリリーが、何やら感慨深そうに言った。
この子もやっぱり、ソレットのことを何かと気にかけてるんだろう。
何せ、似たような境遇だからな・・・。
「そういえばさ、ヒバナ。なんかマースミレンの森精人は吸血鬼のこと嫌いって話聞いたんだけど、それってなんで?」
「う~ん・・・私も端的にしか聞いたことないんですけど・・・どうやら吸血鬼の起源は森精人に由来するみたいで、この世界に最初に生まれた吸血鬼はマースミレンと縁の深い者・・・だったとか。」
あっ、そうなんだ!
吸血鬼って、元は森精人から生まれた種族なんだ。
でも確かに色白の肌、尖った耳、それから信じられないほど長生きってファンタジー世界でよく知られるエルフと特徴が同じだからな。
「そうなんだ。でも何で向こうが吸血鬼を嫌ってるかって知ってる?」
「さぁ~?それは私にも・・・。」
「う~ん・・・。ひょっとしてそれ関係で大昔になんか揉めたのかも?どっちにしろ、この話はティスムドルさんの前で話さない方がいいかもね。当然、あたし達の正体は・・・。」
あたしが口元に人差し指を当てると、リリーは大きく、そして真剣な眼差しで頷いた。
「アサヒ殿!ヒバナ殿!」
前を進んでいたファイセアさんが突然話しかけてきたモンだから、あたし達はついドキっとした。
「なっ、何ですか?」
「着いたぞ。ここだ。」
見ると森と森との間に川が流れていた。
深さは大体くるぶしくらいで、禍犬種に乗りながらでも難なく渡れそうそうだった。
「この川が、どうかしたんですか?」
「ここを渡れば、ヴェル・ハルド王国の領土から出る。」
つまりこの川の先は、ファイセアさんとノイエフさん、そしてソレットは自分達が育った国の外になるワケだ。
ティスムドルさんは故郷に帰る途中だけど、やっぱりそれでも、何千年も住んでた場所を離れるんだから、3人と同じ気持ちか・・・。
あたしの予想通り、4人の顔は何やら不安げな様子だった。
「よし!そんじゃここは、旅のリーダーとして、あたしが先陣を切る!」
「アサヒお姉様!私もご一緒します!」
川を渡り始めたあたしとリリーを見て、他のみんなも意を決して後に続き、あたし達はみんな向こう岸へと渡った。
「ひとまずこれで、チェックポイント一つ通過・・・かな?」
「アサヒ殿・・・。」
川を何ともない顔をして渡ったあたしとリリーに、ファイセアさん達はポカンとしていた。
「ああさっきの?あたし達はさ・・・ほら旅慣れしてるから。だったら初めてのトコに行くのにドキドキしてるみんなの背中をちょっとでも押してあげようと思ってさ。余計なマネだった、かな?」
「いっ、いえ!おかげで緊張がほぐれた。恥ずかしい姿を見せて悪かった!」
「はっ、恥ずかしいだなんてそんな!現にあたしも、そうだったし・・・。」
そう。
あたしも死んでから異世界に来てすぐは、初めての物や土地ばっかでめちゃくちゃドキドキしたもん・・・。
だけど信頼できる仲間に会って、色んな場所を巡って、やっと慣れることができたんだから。
だからあたしは、みんなの気持ちがとっても分かるし、同じことをしてやりたいって心から思う。
「アサヒ殿、どうかしたか?黙りこくって。」
「いいや!何でもない。さて、こっから先は王国の人が誰も行ったことのない未開の地。ティスムドルさん、案内役、よろしくお願いします!」
「ああ分かった。道中に潜む危機を避けたいから、なるべく早く着けるルートを通りたい。地図を見せてくれるか?」
ノイエフさんは持っていた地図をティスムドルさんに見せて、彼はそれをまじまじと眺めた。
「ここが今、我々がいるところだ。ここから最短で辿り着くとなると・・・やはり、“ホログエンの山脈”を突っ切るしかないか・・・。」
「ホログエンの山脈?」
そのワードを聞いた瞬間、みんなの顔が一気に青ざめ、あたしの頭の中にも超恐ろしい考えがよぎった。
「もしかしてさ・・・あそこにある、上の方に雪がめっちゃ積もってて、真っ黒な雲がかかってゴロゴロいってる、あの山の、こと・・・?」
あたしが指差した山を一瞥した後、ティスムドルさんは重苦し~表情で頷いた。
あたしは、おそらく明日か明後日に待ち受けている超ハードな雪山登山に、一気にブルーな気持ちになった。
この辺にアウトドア用品の専門店、ないかな・・・?
・・・・・・・。
・・・・・・・。
あるワケねぇか!!ははっ・・・!!
当のティスムドルさんは、チーズ郎の後ろの方に乗っているソレットと、森精人の文化について楽しく会話していた。
昨夜会った時は「ほっ、本物の森精人だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」って、まるでお気に入りのアニメキャラに実際に会った子どものように大はしゃぎしてたのに、今や緊張することなく話をしてるから、あの子のコミュ力の高さに感心させられる。
っていうかあの子、ティスムドルさんにいつもの毒舌、一回も吐いてないってどゆこと?
あたしやリリーにはヘーキな顔して何でも言うクセに・・・。
そういえば、ファイセアさんとノイエフさんにもしてないな、毒舌トーク。
あれか?
同性か異性かの違いが、あの子にとってのボーダーラインなのか?
う~ん・・・。
分からん!!
「実はな、俺達森精人にも、喫煙の文化があるんだ。」
「そうなんですか!?」
「ああ。メルティスコというパイプ草があってな。これが吸うと果実のような甘い風味がするんだ。森精人達はこのパイプ草を好んで吸っているんだ。」
「へぇ~!わたくしも吸ってみたいです!!その甘いパイプ。」
「ははっ。ソレットにはまだまだ早いな。」
「やっぱり、そうですよね~・・・。」
自分が好きになりかけていた物がお預けになったせいで、ソレットは分かりやすく肩をガックリさせた。
「アサヒお姉様。」
「どした?」
「あの森精人、すっかりちんちくりんと馴染みましたね。」
横についたリリーが、何やら感慨深そうに言った。
この子もやっぱり、ソレットのことを何かと気にかけてるんだろう。
何せ、似たような境遇だからな・・・。
「そういえばさ、ヒバナ。なんかマースミレンの森精人は吸血鬼のこと嫌いって話聞いたんだけど、それってなんで?」
「う~ん・・・私も端的にしか聞いたことないんですけど・・・どうやら吸血鬼の起源は森精人に由来するみたいで、この世界に最初に生まれた吸血鬼はマースミレンと縁の深い者・・・だったとか。」
あっ、そうなんだ!
吸血鬼って、元は森精人から生まれた種族なんだ。
でも確かに色白の肌、尖った耳、それから信じられないほど長生きってファンタジー世界でよく知られるエルフと特徴が同じだからな。
「そうなんだ。でも何で向こうが吸血鬼を嫌ってるかって知ってる?」
「さぁ~?それは私にも・・・。」
「う~ん・・・。ひょっとしてそれ関係で大昔になんか揉めたのかも?どっちにしろ、この話はティスムドルさんの前で話さない方がいいかもね。当然、あたし達の正体は・・・。」
あたしが口元に人差し指を当てると、リリーは大きく、そして真剣な眼差しで頷いた。
「アサヒ殿!ヒバナ殿!」
前を進んでいたファイセアさんが突然話しかけてきたモンだから、あたし達はついドキっとした。
「なっ、何ですか?」
「着いたぞ。ここだ。」
見ると森と森との間に川が流れていた。
深さは大体くるぶしくらいで、禍犬種に乗りながらでも難なく渡れそうそうだった。
「この川が、どうかしたんですか?」
「ここを渡れば、ヴェル・ハルド王国の領土から出る。」
つまりこの川の先は、ファイセアさんとノイエフさん、そしてソレットは自分達が育った国の外になるワケだ。
ティスムドルさんは故郷に帰る途中だけど、やっぱりそれでも、何千年も住んでた場所を離れるんだから、3人と同じ気持ちか・・・。
あたしの予想通り、4人の顔は何やら不安げな様子だった。
「よし!そんじゃここは、旅のリーダーとして、あたしが先陣を切る!」
「アサヒお姉様!私もご一緒します!」
川を渡り始めたあたしとリリーを見て、他のみんなも意を決して後に続き、あたし達はみんな向こう岸へと渡った。
「ひとまずこれで、チェックポイント一つ通過・・・かな?」
「アサヒ殿・・・。」
川を何ともない顔をして渡ったあたしとリリーに、ファイセアさん達はポカンとしていた。
「ああさっきの?あたし達はさ・・・ほら旅慣れしてるから。だったら初めてのトコに行くのにドキドキしてるみんなの背中をちょっとでも押してあげようと思ってさ。余計なマネだった、かな?」
「いっ、いえ!おかげで緊張がほぐれた。恥ずかしい姿を見せて悪かった!」
「はっ、恥ずかしいだなんてそんな!現にあたしも、そうだったし・・・。」
そう。
あたしも死んでから異世界に来てすぐは、初めての物や土地ばっかでめちゃくちゃドキドキしたもん・・・。
だけど信頼できる仲間に会って、色んな場所を巡って、やっと慣れることができたんだから。
だからあたしは、みんなの気持ちがとっても分かるし、同じことをしてやりたいって心から思う。
「アサヒ殿、どうかしたか?黙りこくって。」
「いいや!何でもない。さて、こっから先は王国の人が誰も行ったことのない未開の地。ティスムドルさん、案内役、よろしくお願いします!」
「ああ分かった。道中に潜む危機を避けたいから、なるべく早く着けるルートを通りたい。地図を見せてくれるか?」
ノイエフさんは持っていた地図をティスムドルさんに見せて、彼はそれをまじまじと眺めた。
「ここが今、我々がいるところだ。ここから最短で辿り着くとなると・・・やはり、“ホログエンの山脈”を突っ切るしかないか・・・。」
「ホログエンの山脈?」
そのワードを聞いた瞬間、みんなの顔が一気に青ざめ、あたしの頭の中にも超恐ろしい考えがよぎった。
「もしかしてさ・・・あそこにある、上の方に雪がめっちゃ積もってて、真っ黒な雲がかかってゴロゴロいってる、あの山の、こと・・・?」
あたしが指差した山を一瞥した後、ティスムドルさんは重苦し~表情で頷いた。
あたしは、おそらく明日か明後日に待ち受けている超ハードな雪山登山に、一気にブルーな気持ちになった。
この辺にアウトドア用品の専門店、ないかな・・・?
・・・・・・・。
・・・・・・・。
あるワケねぇか!!ははっ・・・!!
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