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第三章 : 耳飾りの旅

生まれる疑心

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グレースちゃんと一緒に痩鬼種オークの群れを一掃し、あたしに豪快に抱きついてきたクールビューティな女吸血鬼さん。

ゴツい鎧に身を包んだ彼女の抱擁は、ギチギチと力を増していき、息が苦しくなってきたあたしは彼女の二の腕をポンポン叩いて、ギブであることを伝えて。

「ラリーザ様、ちょっと・・・!」

「ああすまねぇ!危うくマジでも一回殺すところだった!」

「ゴホッ!ゴホッ!ああ~苦しかったぁ~!!グレースちゃん。一体この人何なのさ!?」

「この方はラリーザ様。北方吸血鬼軍の執将を務めるお方で、ミラ様の・・・もう一人の親友です。」

あっ、あたしの・・・もう一人の、親友!?

「その様子だと、どうやらホントに俺のこと覚えてねぇようだなぁ・・・。ちょいと寂しいが、まぁいっか!また仲良くなりゃ。ラリーザだ!!お前とは、軍に入った時に同じ部隊だったんだ。まぁなんだ。改めて、仲良くしようや!ミラ!!」

あたしは自分の変装の解いて、手を差し伸べてきたラリーザさんと握手を交わした。

「みっ、ミラっす!よっ、よろしくお願いします!」

「そぉ~んなよそよそしくすんなよ!なんせ俺達、タメなんだからよ!」

マジで!?

見た目あたしより10は上に見えるけど・・・!

もしかして吸血鬼って、成長がストップする年齢はバラバラなんかも?

「じゃ、じゃあ・・・ラリー、ちゃん・・・?」

「ぷっ、くくっ・・・はははははははははははははははははははははははははははは!!!!お前ぇ~!今度は慣れ慣れしすぎだろぉ!?」

あたしの付けたニックネームに、ラリーザさんは腹を抱えて笑った。

「だっ、ダメ・・・?」

「いんや!気に入った!!そんじゃこれからはそう呼んでくれ!!」

「わっ、分かりま・・・いや、分かったよ。ラリーちゃん!」

「おう!ところでよぉミラぁ。なんでお前、人間と一緒にいるんだぁ?」

「そういえば・・・。ミラ様、王都の吸血鬼の保護団体のところに行っていたんじゃないんですか?」

「ああ、ちょっとね・・・。なんか、成り行きで・・・。」

あたしは首を傾げるグレースちゃんとラリーちゃんに、王都で起こった出来事と今の自分の立場、そして、例の耳飾りのことを話すことにした。

「たっ、魂喰い華の耳飾り・・・ですって!?」

「コイツはぁ~驚いた。まさか実在していたなんて・・・。」

「それであたし達は、耳飾りこれををマースミレンに運ぶことになっちゃって・・・。」

「あの森精人エルフの大国に、ですか?」

「お前ぇ、そりゃかなりややっこしいことに巻き込まれたなぁ~。」

「そうなんだよ~・・・まぁリリーも一緒だから、少しのピンチだったらどうにかなりそうなんだけど、少なくとも痩鬼種オークはあたしらを狙い続けるだろうから、それをどうにかしないとなぁ~・・・。」

「う~ん・・・。よし!ならベリグルズ平野の奴らにも話して、バレねぇようにテメェらの任務をフォローできっかどうか相談してみることにするわ!!」

「ホント!?」

「おうよ!ダチが困ってんなら助けるのは当たり前だ!ってなワケで、俺らは早速帰るとするわ。お前もボロが出ねぇウチに、早く帰れよ!!」

「ありがと!!みんなによろしく伝えといて!」

ラリーちゃんは大きく頷くと、白丸はくまるに跨ってみんなと一緒に来た道を引き返そうとした。

「おおっとそうだ!一つ言い忘れたことなんだが・・・。」

「何ラリーちゃん?」

「マースミレンの森精人エルフどもには、ぜってぇ吸血鬼ってバレんじゃねぇぞ!!アイツ等吸血鬼おれらのこと大っ嫌いだからな!」

ラリーちゃんはそう伝えると、グレースちゃんや仲間を率いてベリグルズ平野に帰って行った。

でもまさか思いもしなかったなぁ・・・。

北方吸血鬼軍のトップが、ミラと親友だったなんて。

でも、いい人そうだし、これからも仲良くやっていけるかも。

だけど最後の一言が気になんなぁ~・・・。

何でマースミレン向こう森精人エルフは吸血鬼のことが大嫌いなんだろ?

今度時間あった時に、リリーに聞いておくか。




◇◇◇




「あっ!帰って来ましたぁ~!!」

遠くの方で待っていたみんなのところにあたしが着くと、リリーが大きく手を振ってきた。

「アサヒ殿!よくぞご無事で!!」

「うん!ギリギリだったけど、とりあえず何とかなったわ。」

「もう~!!どれだけ心配したと思ってるんですかぁ~!!」

「ゴメンゴメン。次はなるべく無茶しないように心がけるから!」

あたしはポカポカ叩いてくるソレットの頭を撫でてなだめた。

「それで、痩鬼種オークと吸血鬼達は!?」

「ああ~んと・・・まとめてあたしが退治したった!」

「何と!?あれほどの数をたった一人で!?」

「どっ、どんだけ化け物なんですか・・・。」

「バケモンはないでしょ~ソレット!!」

ソレットにツッコみを入れた後、あたしはリリーに近づいて、そっと耳打ちした。

吸血鬼軍向こうと話ついた。だからもう襲ってこないと思う。」

あたしの耳打ちに、リリーは「ヒャッ・・・!!♡」と高い声を出し、その後周りに気付かれないように親指を立てた。

「アサヒ殿、ヒバナ殿。どうされたか?」

「えっ!?ううん、別に。ほら!危機も去ったことだしさ、早いトコ案内役のメンバーに会いに行こっ!」

「そうだな。ん?どうしたノイエフ?浮かない顔をして・・・。」

「いいえ。何でもございません、兄上。」




◇◇◇




どうもおかしい・・・。

アサヒ殿は「吸血鬼と痩鬼種オークをまとめて倒したと言っているが、それは果たして本当なのだろうか?

そうだとしたら、ある程度の激戦だったはず。

だがアサヒ殿は傷一つ負っていなかった。

仮に魔能で治癒したとしても、身に付けている衣服にはある程度の損傷が残るはず・・・。

だがそれすらなかった。

だとすれば・・・本当にアサヒ殿は吸血鬼軍の騎馬隊と痩鬼種オークの群れと戦いを繰り広げたのだろうか?

そうでないとすれば・・・アサヒ殿はどのようにして、あの窮地を乗り越えた?

・・・・・・・・。

・・・・・・・・。



いや、それはさすがに憶測が過ぎるか・・・。

しかし何故だ?

何故あっけらかんとした顔で戻ってきたアサヒ殿を見る度に、頭の中で・・・ミラのことがチラつく?
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