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第三章 : 耳飾りの旅

親友談義

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「う~ん・・・。いねぇなぁ、痩鬼種オーク。」

ラリーザ様が率いる隊とベリグルズ平野のセタ・ヴィキトリエを出発して、私達は周辺の森で問題となっている痩鬼種オークの群れを探しているが、一向に発見することはできなかった。

出発した頃は朝だったが、森の中を探し回っている内に樹々の間から差し込む光も徐々に東に傾いていた。

長時間の探索の末、隊の乗っている馬と、私とラリーザ様が乗っている白丸はくまると茶々助にも、疲れが見えていた。

「う~しお前ら~!ここらで一旦休むぞ~。だが念のため、何人か周囲の警戒頼ま~!」

ラリーザ様が号令を下し、私達は森の中の少し開けた場所で休憩を取ることにした。




◇◇◇




「どうぞ、グレース殿。」

「ありがとうございます。」

隊の人が作ってくれたシチューを受け取って、私は木の真下の、地面から飛び出た根っこにちょこんと座った。

ラリーザ様の方を見ると、自分の隊の人と何やら相談しながら、後ろからじゃれつく白丸の相手をしていた。

やはりあの人の人徳の良さには関心するばかりである。

指示が的確だから兵士は皆、あの人のことを頼りにしているし、ここ短時間であの白丸も見事に手懐けた。

これが、北方の吸血鬼軍の執将を務め、かつてミラ様の親友だった方の器量・・・とでもいうのだろうか・・・?

ラリーザ様のあっけらかんとした笑顔を見る度に、あの方に対する罪悪感が増す一方だった。

・・・・・・・。

・・・・・・・。

私は・・・あの方から大事な親友を取り上げてしまったんじゃないか?

そんな私が、ラリーザ様からかつてのミラ様の話を聞こうとするなど、とても愚かで、恥ずべき行為などではないか・・・。

そう思うと私は、とてもラリーザ様と会話をすることなど、できなかった・・・。

「クゥン・・・。」

落ち込み私のことを察してか、茶々助が私の背中に、顔をスリスリしてきた。

私は何も言わず、そんな茶々助の顔を優しく撫でた。

「よっ!隣いいか?」

「らっ、ラリーザ様!?」

私が悶々としていると、突然ラリーザ様が話しかけてきて、有無を言わず隣に座り込んだ。

「どうよ?ウチのモンが作ったシチューは?味はちょい~と薄いが、中々腹にたまるだろぉ?」

笑顔で話しかけてくるラリーザ様に、私は何も言わず、コクっと頷くしかできなかった。

「あのさぁグレース・・・。お前、何か悩んでんだろ?」

「えっ・・・?」

「とぼけんじゃねぇよ!そんな辛気クセェ顔してったら、誰でも分かるぜ!」

ラリーザ様は私の顔を軽く小突きながら言った。

「何なら、何で悩んでんかも当ててやろうかぁ?お前・・・俺からミラを取ったとでも思ってんだろ?」

「ッッッ!!あっ・・・いや・・・。」

「図星だな。」

私の心中を見事言い当てられたことで、私は何も言い返すことができなかった。

やっぱりこの人・・・すごい・・・。

「聞いたぜ。お前、ミラアイツから親友呼ばわりされてんだろ?」

「・・・・・・・。はい。」

「どうよ?今のアイツは?」

「えっ?」

「だぁかぁらぁ~!今の記憶がブッ飛んだミラはどうかって聞いてんだよ?」

「とっ、とっても優しくて、明るくて、強くて・・・あっ、あと、料理が得意ですね。」

「ほぉ~。あの筋金入りに料理ベタだったアイツがねぇ・・・。俺も食ってみてぇわ。」

「えっ、ええ!是非!」

「でもまぁ~・・・それ以外はあんま変わんねぇんだな。じゃあ何か?ブチ切れると手に負えねぇトコも変わんねぇのか?」

「え?」

私の脳裏に、ステラフォルトの戦いで、暴走状態になったミラ様が浮かんだ。

「ええ・・・まぁ・・・。」

「だろうな?まぁステラフォルトで冥王の降臨アレを使っちまったらなぁ~。因みに知ってる?アイツ、前にも使ったことあんだよ。あの魔能。」

「はい。前に聞いたことがあります。それによって、人間の国の中で最も強大だった国をたったの二時間で滅ぼしてしまったと。」

「理由なんだか分かる?コ・レ!」

そう言ってラリーザ様は、自分の顔の傷を差して笑った。

「どっ、どういうことですか?」

「あれは~・・・100年くらい前か?俺達の部隊はその国に奇襲をかけたんだ。ところがよぉ、昔のアイツはどうにも尖っててなぁ~。一人で突っ走って、作戦はもうめちゃくちゃ。そん時に、俺は敵にこのドエラい傷を負って死にかけた。その瞬間、アイツの中で何かが切れて・・・結果その国は、アレの二度目の爆発で木端微塵!ってワケよ。」

まさかミラ様の一度目の暴走が、ラリーザ様の負傷が起因だったなんて・・・。

「情けねぇかな・・・。俺は、怒り狂って全てを焼き尽くすアイツを止めることができなかった。だけどグレース、テメェだけは違う。」

ラリーザ様は先程とは打って変わり、真剣な眼差しで私を見つめた。

「テメェは暴走しちまったアイツを、止めやがった。俺にはとてもできなかった芸当を。」

そう言った後、ラリーザ様は私の胸倉を掴んで、自分に向けてグッと寄せてきた。

「俺に負い目なんか感じんな。テメェは堂々として、ミラアイツが困ったり、苦しんでる時に傍にいてやれ。分かったな?」

ラリーザ様の、地の底から響きそうな低く恐ろしげながらも、だけどとても暖かい言葉に圧倒されて私は何も言わずコクッと頷いた。

「お~し!それでいい。そうと決まれば、今後も仲良くやろうぜ。ミラの親友同士・・・よ!!」

ラリーザ様が差し伸べた手を、私はグッと力強く両手で掴んだ。

「はっ、はい!!よっ、よろしくお願いします!!」

「執将様!申し上げます!!」

握手を交わす私達のところに、見張りに付いていた兵士の人が駆けつけてきた。

「森の外で、痩鬼種オークの群れを確認したのですが、どうやら北方本部の方に向かっているみたいで・・・。」

「何匹いんだ!?」

「およそ、20匹ほど・・・。」

「こっちとほぼ互角だなぁ~・・・まぁ、退治するしかあるめぇよ!お~しお前らぁ!待ちに待った仕事だぁ!さっさとその重い腰上げろぉッッッ!!!」

ラリーザ様が檄を飛ばすと、兵士の人達は急いで出発の準備を始めた。

「おいグレース!テメェにもバリバリ働いてもらうからなぁ~!何たって、救血の乙女の親友だからな!期待してるぜぇ~!?」

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「はい!任せて下さいッッッ!!!」
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