上 下
88 / 514
第三章 : 耳飾りの旅

憎まれ侍女の過去

しおりを挟む
「あの耳飾りを西方の森精人エルフの国まで運べ・・・ですか!?」

自室に戻ったあたしは、さっき王様から頼まれたことをみんなに伝えた。

「そうなんだよ~・・・やっぱかなり危険な代物だから、王国ここに置いとくよりこっちに寄越してほしいって、向こうが言ってるらしくて・・・。」

森精人エルフの物に対抗する力はこの世界でも随一ですからね。私でも、彼等の手にアレを委ねる方が最善かと思います。」

そうなんだ?

流石はエルフ族!!

闇の力に強いのは、ファンタジー世界の鉄板だからね!

「それでアサヒ様、どちらの森精人エルフの国まで運ぶのですか?」

「何でも、マースミレン・・・って国なんだけど・・・。」

「「マースミレンですって!?!?」」

2人で一斉に驚いたから、こっちまでビックリしちゃったよ・・・。

「なっ、何・・・?そんなに有名な国なの?そこ・・・」

「アサヒお姉様、マースミレンは別名“金剛樹の森”と言いましてですね、アルスワルドでは最大勢力を誇る森精人エルフの一大国家なんですよ!!」

「まっ、マジでか・・・!?」

「そうですよアサヒ様!森の真ん中に空にも届きそうな大木がありまして、その木の葉が放つ光で、森全体が黄金色に輝いているって言われてるんですよ♡」

「何それ!?めっちゃ幻想的じゃん!!」

金色に光る森かぁ・・・。

それは間違いなく一見の余地アリ、だね!!

「アサヒお姉様、これはとてつもなく重大な任務ですよ!!」

「うん!!ああそれで、ちょっと2人に話したいことがあって・・・。」

「何ですか?」

「実は王様の方で、あたしの護衛をやる人を何人か見繕うっていうんだけど、あたしの方でも希望を出せばその人も連れて行っていいって。」

「本当ですか!?」

「ヒバナはまぁ、あたしの弟子だから一緒に行くのは確定なんだけど・・・。」

「ですよね!!私、一生懸命アサヒお姉様の護衛を務めさせていただきますッッッ!!!ついでに、も・・・♡♡♡」

「ごっ、護衛だけ頑張ってくれたらそれでいいんだけどネ・・・。それで問題は・・・。」

「アサヒ様!わたくしも一緒に連れて行って下さい!!」

やっぱ、そう言ってくる、よね~・・・。

「何言ってんの?あんたは留守番だよ。」

「何故ですか!?わたくしはアサヒ様のお世話係ですよ!!同行するのは当たり前じゃないですか!?」

「あのねぇ、アサヒお姉様がこれから向かう所には痩鬼種オーク児鬼種ゴブリンは勿論のこと、幻想大厄災ファンタズマ・カタストロフィの生き残りの強大な魔物がウヨウヨいるかもしれないんだよ。命が幾つあっても足りないとは思わない?」

そっ、そうなの!?

なんかこっちまで不安になってきたんですけど・・・。

「危険が数多く潜んでいるのは分かっています。それでもわたくしは、アサヒ様の旅路に同行したいのです!!」

「あんたみたいな子どもが付いて来たって足手まといなだけだよ。」

「そんなの分からないじゃですか!?わたくしだって、お役に立ってみせます!!」

今回はリリーが正しかった。

道は険しくて、更には危険なモンスターがたくさんいる。

そんな旅に子どもであるソレットを連れていくことなんか、できない・・・。

「アサヒ様!アサヒ様はどうなんですか!?わたくしのこと、連れて行ってくれますよね!?」

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「ソレットは王宮で待ってて。心配しなくても、必ず戻ってくるから。」

「ッッッ!!!分かりました・・・。だったらもう勝手になさって下さいッッッ!!!」

ソレットはそう怒鳴ると、部屋を飛び出した。

「なっ、何なの?あの態度・・・。」

「そう怒らないでよ。あの子だって、よっぽど悔しいんだよ。」

「だからってあんな言い方はないでしょう。」

確かにさっきのソレットの態度は、今までの彼女と比べると様子がおかしかった。

そんなにあたしの役に立ちたかったのか?

ん~・・・普段のあの子からはとてもそうは思えないんだけど・・・。

「失礼いたします、アサヒ様。あの・・・さっきソレットが泣きながら廊下を走っていたのですが、何かあったのですか?」

「ちょっとあんた聞いてよ。それがさぁ・・・。」




◇◇◇




「なるほど。そのようなことが・・・。」

「あんた王様の小姓なんでしょ?王様に言って、お世話係の担当変えるようにしてくれないかな~?」

「ちょ、ちょっとヒバナ!いくらなんでもそれはやりすぎだって!!」

「だってそうでしょ!?アサヒお姉様に付いて行って森精人エルフの国に行きたいって駄々こねるあまりに仕事を放棄したのですよ?それくらいやらないと・・・。」

「いや、多分本当はそうではないと思いますよ。ヒバナ様。」

「どういうこと?」

「あの子、王宮ここに来た最初の頃は、仕事の話以外はしなくて、決して笑わなかったのです。それで、ある時侍女長に聞いてみたんです。」

「それでなんて?」

「実はあの子、王宮に引き取られる前は姉と二人っきりで暮らしてたのです。明るく優しくて、よく冗談を言うソレットに付き合ってくれてとても楽しく過ごしていたみたいです。ところが、事故でお亡くなりになられて・・・。孤児になったあの子を、侍女長が不憫に思われて引き取られたのです。」

「じゃああのちんちくりんが、アサヒお姉様にあんなに小生意気になるのって・・・。」

「きっと重ねられているのでしょう。アサヒ様と、亡くなった姉のことを・・・。」

知らなかった。

まさかあのソレットに、そんな暗い過去があったなんて・・・。

そうか。きっとあの子は怖がってるんだ。

あたしが、自分の姉のように死んでしまうのが。

だからあんなにも、付いて行きたがってんだ・・・。

「・・・・・・・。アサヒお姉様。アイツのこと、私に任せてくれませんか?」

「え?」

「さっきの話を聞いて、私、とても他人事のように思えなくなってしまって。」

「どういうこと?」

リリーは口をつぐんだ後、言葉を搾り出すように打ち明けた。

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「私も・・・姉を・・・失ってるんです・・・。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...