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第二章 : 動乱の王国
吸血鬼救済会・昼
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コンコン・・・。
「はい~?」
ベッドの上で丸まって横になっていると、ドアをノックする音が聞こえて、あたしは首だけを持ち上げて入口の方を見た。
「失礼します。」
「かっ、カリアード君・・・!」
「お待たせしましたミラ様。それでは早速参りましょうか?」
「うっ、うん!オッケ~。ねぇ、あたしのカッコ、変じゃないかな?」
「いいえそんなこと!私が言うのも大変恐縮ですが、とてもお美しいですよ。」
「へゅ!?そっ、そんな大胆なことを・・・。」
「何がでしょうか?」
「あっ・・・!ごっ、ゴホン!なっ、何でもない!じゃ、じゃあ行こっかっ。」
あたしは顔の前で手をパタパタさせて、顔面の火照りをどうにか冷ますとカリアード君に連れられて部屋の外へと出た。
◇◇◇
「特売やってますよ~!!良かったら見てってね~!!」
「今月度の新商品の購入待ちの列はこちらになります。在庫数が残り僅かになりましたのでまだの方はお早めにどうぞ~。」
昼下がりの王都の通りは、ショッピングを楽しむ人達と、彼等を呼び込もうと声を張り上げる商店の店員さん達でごった返していた。
「人、いっぱいいるね・・・。」
「ここティリグ・ミナーレは、ヴェル・ハルド王国の首都であると同時に王国一の商業都市でもありますからね。今日は平日ですが、休日はこれよりも倍に賑わうんですよ。」
「そうなんだ。すごいね。」
「ミラ様は賑やかな都会は初めてですか?」
「あっ、あたし?どっちかっていうと、初めて、かな・・・?」
「そう、ですか・・・。」
あたしが言ったことのニュアンスが今一つ掴めなくて、カリアード君は言葉を若干詰まらせた。
まぁでも、言ったところで信じてもらえないと思うし、それにあたし自身進んで言いたくないから別にいっか・・・。
こうして賑やかな街を歩いてると、休みの日に学校の友達とよく都心のショッピング街巡りをしていたことを思い出して、懐かしくて、ついエモい気分にさせられる・・・。
みんな、元気に過ごしてるかな・・・?
「あっ、ちょっとちょっとそこのお兄さん!」
歩いてると、カリアード君が突然声を掛けられて、それに釣られてあたしも立ち止まった。
見ると、どうやらコスメショップの店員さんらしかった。
「はい?」
「彼女さんへのプレゼントにウチで今流行りの香水買ってかない?とってもいい香りがして、ゼッタイ喜んでもらえるよ~♪」
かっ、彼女!?
あっ、あたしが!?!?
「すいませんが遠慮しておきます。俺達別に恋人同士ってワケじゃないですから。」
「おや?そうかい?なんか失礼なこと言っちゃってゴメンなさい。」
勘違いをして謝る店員さんにあたし達は会釈すると、再び雑踏の中を歩き出した。
「ビックリしますよ。いきなりあんなこと言われたら!」
「そっ、そだね・・・。」
「私とミラ様が恋人同士だなんて、恐れ多いにもほどがありますよ。」
「でっ、でもさ、今のあたし達って、傍から見たら若いカップルに見えてるの、かも・・・?」
「そうなのでしょうか?だとしたら、少し、嬉しい、ですかね・・・。」
「えっ!?なっ、何で!?」
「だってミラ様みたいな素敵な女性と俺なんかが釣り合ってるって、周りから見られてるワケですから。そう思うと、勘違いされるのも、悪くないかなって、思います・・・。」
「かっ、カリアード君・・・!!なっ、何言って・・・。」
「ミラ様?どうしたのですか?お顔が赤いですよ?」
「えっ・・・!?はっ、早く行こ!!今はそんなこと言ってる場合じゃないし・・・!」
「そっ、そうですね。申し訳ございません。もうすぐで着きますから先を急ぎましょう!」
頬を赤らめてることをこれ以上指摘されないために、あたしは右も左も分からないくせにカリアード君の先を早歩きで進んだ。
カリアード君は急いであたしの先に躍り出て、再びあたしの案内に専念するようになった。
「もうすぐ着く。」って言ってたけど、それってなんだか名残惜しいなぁ。
だって、もうちょっと彼の隣を、歩きたいと思ってたから・・・。
◇◇◇
「着きました。こちらです。」
あたし達が到着したのは、街の中心に位置している5階建ての健康食品売り場。
どうやら薬局と食品市場が合体したお店のようだった。
「あっ、もうみんな集まっているみたいだな。」
見るとお店の入口付近に、年がバラバラで性別もごっちゃになった10数人くらいの人が集まっていた。
「あっ、カリアードさん!こっちです、こっち!!」
その中の一人があたし達に気付いて、「こっちに来て!」と言わんばかりに激しく手招きした。
「悪いな待たせてっ。」
「あれ?その子は?」
「う~ん・・・。みんな、ちょっとそこの路地裏まで来てくれ。そこで説明するから。」
「はぁ・・・。」
いまいち状況が掴めないみたいだったが、取り敢えずカリアード君に言われて、あたし達は人目
につかないお店の近くの路地裏に一旦集まった。
「では、お願いします。」
「うん。」
カリアード君に促され、擬態の魔能を解くあたし。
みんなの反応は、「やっぱり。」と思えるようなものだった。
「そっ、その髪色に、瞳・・・。まっ、まさか・・・!?」
「はっ、初めまして!あたし、ミラって言います。みなさん、今日はよろしくお願いしまぁ・・・!?!?」
自己紹介を終える前に、カリアード君の仲間の人達が一斉に押し寄せてきて、あたしは思わず倒れそうになった。
「救血の乙女様、ですね!?お会いできてとても嬉しいですッッッ!!!」
「吸血鬼の救世主にこんなところでお目にかかれるなんて夢にも思いませんでしたッッッ!!!」
「あなた様が我々にお力沿いして下さるなんて、これ以上に心強いことはございません!!わたくしどもにできることがあったら遠慮なくお申し付けくださいッッッ!!!」
「こっ、こちらこそ、みなさんとお会いすることができて、とっても、嬉しい、です・・・。みなさんの活動を、これから一生懸命、お勉強させて、いただきます、ね・・・。」
吸血鬼救済会の人達のあたしに対する羨望の眼差しに圧倒されてしまい、思うように言葉を出すことができなかった。
「じゃあみんな、ミラ様に俺達の活動を知ってもらうために、今日は今まで以上に張り切ってやるぞ!!」
「「「分かりましたッッッ!!!!」」」
みっ、みんなすんごい気合だな・・・。
こうやって周りの反応を見る度に「ああ、ミラってすごいヤツだったんだな。」って改めて認識させられて、嬉しい反面、どうリアクション取ったらいいか分からない・・・。
やっぱどうにも慣れなぇな、こういうの・・・。
◇◇◇
みんなへのあたしの紹介も終わって、あたし達はもう一度お店の前に集まった。
「それじゃあいつもの流れで行くから、みんなは俺の呼びかけに合わせてビラを配ってくれ。」
カリアード君の指示に頷くと、みんなは箱から何やら紙の束を取り出して、それぞれ配置についた。
「ねぇ、カリアード君。」
「何でしょうか?」
「よかったらさ、あたしもそのビラ配り、手伝ってもいいかな?」
「えっ?」
「ここでただ立ってるのもあれだからさ。さっきも言ったけど、あたしにも手伝えることがあったら手伝いたいし。」
「ミラ様・・・。分かりました。ただし、ビラの内容はミラ様にとって少々酷かもしれないですから、どうかご無理をなさらないで下さい。」
「どういうこと?あたしなら大丈夫だから。」
「そうですか・・・。それではミラ様、お願いします。」
「分かった。ありがとね、カリアード君。」
カリアード君からOKをもらって、あたしは箱からビラの束を取り出した。
よし、じゃあやるとしますか!
それにしても、一体どんな内容なんだろ?
束が裏返しだったので、あたしは手の上でそれを表にひっくり返して書かれている内容に目を凝らした。
その瞬間、あたしは絶句した。
書かれていたのは、捕獲された吸血鬼に対する非人道的な行為の数々で、文章の横には白黒の写真が添付されていた。
イスに括りつけられて、身体中に血を抜くためのチューブが刺さったひどく痩せこけた女性の吸血鬼。
手術台みたいなのに縛られて、周りに立っている白衣姿の人間達に、明らかに無理やり肥大化させられた男性の吸血鬼。
フリルのついた可愛らしいドレスを着せられて、殴られ過ぎて腫れあがった顔で檻の中で倒れている子どもの吸血鬼・・・。
そのどれもが直視し難いものばかりで、手が震えてビラを道に落としそうになった。
「皆さん聞いて下さいッッッ!!!」
呆然とする中で突然カリアード君の声が聞こえてきて、ドキッとしたあたしは顔を上げた。
「今このお店で販売されている新発売のポーションをはじめとする数々の健康食品は、全て国内外で捕獲された吸血鬼の血液から生成されています!!彼等はひどく劣悪な環境で人間達から血を抜かれ、吸い尽くされるとまるでゴミのように無惨に捨てられます!!ただ血液を摂取するだけでは飽き足らず、吸血鬼から更に効率よく血液を摂取するための実験も、採血所では行われています!しかも挙句の果てには、捕獲された吸血鬼の中にはスポンサーである貴族の慰め物として献上される者もおり、その誰もが醜い貴族の穢れた欲の犠牲になっています!!こんな・・・こんな狂ったことが到底許されるはずなんかありませんッッッ!!!この告発に少しでも共感してくれた方は、どうか我々、吸血鬼救済会に加わって下さいッッッ!!!私達と力を合わせて、吸血鬼を解放へと導きましょうッッッ!!!」
お店を訪れたカリアード君の呼びかけは、本当に悲痛そのものだったが、その中には確固たる信念と決意が感じられた。
あたしは目をぎゅっと閉じて、そして大きく見開くと、周りの人がやっているのと同じように黙々とビラを配り始めた。
「あの、大丈夫ですか?お顔が真っ青ですよ。」
横でビラ配りをしている初老の男性に声を掛けられて、ビラを配る手が止まった。
「大丈夫です。」
「あの、代表代行が言っていたように、ご無理をされない方がよろしいのでは・・・。」
「ご心配なら無用です。仲間が危機に陥ってるのに、じっとしてなんかいられないですから。」
初老の会員は、あたしの忽然とした態度に身を引いて、ビラ配りに戻っていった。
あたしも止めていた手を再び動かして、来店者に対してビラを配り始めた。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
あたし、捕まった吸血鬼が、あんな目に遭ってるなんて知らなかった。
今までは捕まって連れて行かれる前に助けていたから・・・。
あたしがここにいる間にも、多くの仲間達が写真にあったような酷い扱いを受けていると思ったら、居ても立っても居られない。
正直、今すぐにでも採血所を全部潰して、助けにいってやりたい。
でも、今ここでそんな派手なマネなんかとても出来っこない。
じゃあこの、どうしようもなくやるせなくて腹立たしい気持ちを、どうやって落ち着かせばいいっていうんだよ・・・。
「おい!貴様ら!!」
向こうを見ると、警察官のような恰好に身を包んだ数人の男達が、血相を抱えてビラ配りをやっているあたし達に向かってきた。
「マズい!!王都守衛隊の連中だ!!」
「カリアードさん・・・!」
「今日の活動は一旦ここまで!全員急いで撤収するように!!」
どうやら役人に目を付けられたらしく、みんな一斉にビラを箱の中に放り込んで引き上げようとした。
「邪魔すんじゃねぇよ、クソが・・・。」
あたしはビラをその場で投げ捨てると、走ってくる役人に向かって手をかざした。
「地級第四位・限りある苦痛。」
「ぐっ!?うう・・・!ああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!」
「うぐっ!?ぐがあああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!」
役人の男達は、ドサッと倒れると全身を掻きむしりながらのたうち回った。
「10分はこの状態が続くから、その間にこっから逃げよ。」
怖い位に落ち着いた声で言うあたしに、みんな何も言うことなく荷物をまとめてついて行った。
◇◇◇
役人から逃れたあたし達はお店から大きく離れた裏道沿いの広場に一旦集まった。
「ここまで来ればひとまず安心ですね。」
みんなで無事に危機を脱して、カリアード君はホッと胸を撫で下ろした。
「あっ、あの・・・。皆さん、ごめんなさいッッッ!!!」
いきなり頭を下げるものだから、みんなとってもビックリした感じで目を見開いた。
「どっ、どうしたのですか?」
「目立つマネはするべきじゃないのにあんなことしちゃって・・・。ただ、あのビラを見た後で、あたし達の邪魔しようとする役人の顔見たら、どうしても抑えることができなくて・・・。」
「ミラ様・・・。ミラ様が謝ることなんてありませんよ。」
「えっ?でも・・・。」
「あんな酷いものを見せられて、取り乱さない方が逆におかしいですよ。ミラ様がお怒りになるのは当然です。むしろ、あの直後で、あの役人達を殺さずにただ苦痛を与えるだけに留まったミラ様は、立派だと思います。」
「カリアード君・・・。ホントごめん!!次からはなるべく自重するようにするから。」
「何言ってるんですか!先ほどのミラ様、とってもカッコよかったですよ!!」
「カッコ、よかった・・・?」
「カリアードさんの言う通りですよ!私達の邪魔ばかりする王国守衛隊の奴らを簡単にねじ伏せてしまうなんて・・・!!」
「魔能を使ってる時の救血の乙女様、本当に素敵でした!!あれこそまさに“吸血鬼の英雄”に相応しかったです!」
「でも、あたしのせいで更に締め付けがひどくなったら・・・。」
「何言ってるんですか~!連中多分今ごろ、“恐ろしいほど腕の立つ魔能使いが吸血鬼救済会に入った。”ってガタガタ震えてますよ。そうなればアイツ等だってそう易々と手なんか出せないですよ!やはり救血の乙女様は、とっても頼りになるお方ですね♪」
「みんな・・・。本当に、ありがと!」
懲りずに怒りに任せて、あんな行動に走ってしまったけど、この人達にとってはあたしのしたことは間違ったことじゃなかったと、思ってくれたみたいだった。
正直結果オーライだったけど、いい方向に話が進んでるみたいで嬉しかった。
「カリアードさぁん、くれぐれも救血の乙女様に惚れないで下さいね~?」
「なっ、何言ってんだよ!?」
年の近い男性の会員に冷やかされ、カリアード君の顔が一気に赤くなった。
「だってこの間“いい加減彼女出来てほしい”ってぼやいてましたから。」
「だからって俺とミラ様じゃ釣り合わないだろ!?考えただけでヒヤッとするわ!!」
「でもですね、仮にもミラ様とお付き合いできるってなったらどうします?」
「じょ、冗談でもそんなこと言うのやめろよぉ~!」
「いや真面目な話、どうなんです?」
「うっ・・・。まっ、まぁ・・・。そうなったら、嬉しい、かな・・・。」
「かっ、かかっ・・・。カリアード、君・・・!!!」
ボォンッッッ!!!
「みっ、ミラ様!?」
「おい今、救血の乙女様の頭、爆発しなかったか!?」
「そんなのあるワケないだろ!!ああ!お気をしっかりして下さいミラ様ッッッ!!!」
薄れた意識の中でカリアード君の声を、彼があたしの肩をゆする感触が微かにした。
カリアード君、だからあたしにそんな殺し文句言うんは反則やねんよ・・・。
「はい~?」
ベッドの上で丸まって横になっていると、ドアをノックする音が聞こえて、あたしは首だけを持ち上げて入口の方を見た。
「失礼します。」
「かっ、カリアード君・・・!」
「お待たせしましたミラ様。それでは早速参りましょうか?」
「うっ、うん!オッケ~。ねぇ、あたしのカッコ、変じゃないかな?」
「いいえそんなこと!私が言うのも大変恐縮ですが、とてもお美しいですよ。」
「へゅ!?そっ、そんな大胆なことを・・・。」
「何がでしょうか?」
「あっ・・・!ごっ、ゴホン!なっ、何でもない!じゃ、じゃあ行こっかっ。」
あたしは顔の前で手をパタパタさせて、顔面の火照りをどうにか冷ますとカリアード君に連れられて部屋の外へと出た。
◇◇◇
「特売やってますよ~!!良かったら見てってね~!!」
「今月度の新商品の購入待ちの列はこちらになります。在庫数が残り僅かになりましたのでまだの方はお早めにどうぞ~。」
昼下がりの王都の通りは、ショッピングを楽しむ人達と、彼等を呼び込もうと声を張り上げる商店の店員さん達でごった返していた。
「人、いっぱいいるね・・・。」
「ここティリグ・ミナーレは、ヴェル・ハルド王国の首都であると同時に王国一の商業都市でもありますからね。今日は平日ですが、休日はこれよりも倍に賑わうんですよ。」
「そうなんだ。すごいね。」
「ミラ様は賑やかな都会は初めてですか?」
「あっ、あたし?どっちかっていうと、初めて、かな・・・?」
「そう、ですか・・・。」
あたしが言ったことのニュアンスが今一つ掴めなくて、カリアード君は言葉を若干詰まらせた。
まぁでも、言ったところで信じてもらえないと思うし、それにあたし自身進んで言いたくないから別にいっか・・・。
こうして賑やかな街を歩いてると、休みの日に学校の友達とよく都心のショッピング街巡りをしていたことを思い出して、懐かしくて、ついエモい気分にさせられる・・・。
みんな、元気に過ごしてるかな・・・?
「あっ、ちょっとちょっとそこのお兄さん!」
歩いてると、カリアード君が突然声を掛けられて、それに釣られてあたしも立ち止まった。
見ると、どうやらコスメショップの店員さんらしかった。
「はい?」
「彼女さんへのプレゼントにウチで今流行りの香水買ってかない?とってもいい香りがして、ゼッタイ喜んでもらえるよ~♪」
かっ、彼女!?
あっ、あたしが!?!?
「すいませんが遠慮しておきます。俺達別に恋人同士ってワケじゃないですから。」
「おや?そうかい?なんか失礼なこと言っちゃってゴメンなさい。」
勘違いをして謝る店員さんにあたし達は会釈すると、再び雑踏の中を歩き出した。
「ビックリしますよ。いきなりあんなこと言われたら!」
「そっ、そだね・・・。」
「私とミラ様が恋人同士だなんて、恐れ多いにもほどがありますよ。」
「でっ、でもさ、今のあたし達って、傍から見たら若いカップルに見えてるの、かも・・・?」
「そうなのでしょうか?だとしたら、少し、嬉しい、ですかね・・・。」
「えっ!?なっ、何で!?」
「だってミラ様みたいな素敵な女性と俺なんかが釣り合ってるって、周りから見られてるワケですから。そう思うと、勘違いされるのも、悪くないかなって、思います・・・。」
「かっ、カリアード君・・・!!なっ、何言って・・・。」
「ミラ様?どうしたのですか?お顔が赤いですよ?」
「えっ・・・!?はっ、早く行こ!!今はそんなこと言ってる場合じゃないし・・・!」
「そっ、そうですね。申し訳ございません。もうすぐで着きますから先を急ぎましょう!」
頬を赤らめてることをこれ以上指摘されないために、あたしは右も左も分からないくせにカリアード君の先を早歩きで進んだ。
カリアード君は急いであたしの先に躍り出て、再びあたしの案内に専念するようになった。
「もうすぐ着く。」って言ってたけど、それってなんだか名残惜しいなぁ。
だって、もうちょっと彼の隣を、歩きたいと思ってたから・・・。
◇◇◇
「着きました。こちらです。」
あたし達が到着したのは、街の中心に位置している5階建ての健康食品売り場。
どうやら薬局と食品市場が合体したお店のようだった。
「あっ、もうみんな集まっているみたいだな。」
見るとお店の入口付近に、年がバラバラで性別もごっちゃになった10数人くらいの人が集まっていた。
「あっ、カリアードさん!こっちです、こっち!!」
その中の一人があたし達に気付いて、「こっちに来て!」と言わんばかりに激しく手招きした。
「悪いな待たせてっ。」
「あれ?その子は?」
「う~ん・・・。みんな、ちょっとそこの路地裏まで来てくれ。そこで説明するから。」
「はぁ・・・。」
いまいち状況が掴めないみたいだったが、取り敢えずカリアード君に言われて、あたし達は人目
につかないお店の近くの路地裏に一旦集まった。
「では、お願いします。」
「うん。」
カリアード君に促され、擬態の魔能を解くあたし。
みんなの反応は、「やっぱり。」と思えるようなものだった。
「そっ、その髪色に、瞳・・・。まっ、まさか・・・!?」
「はっ、初めまして!あたし、ミラって言います。みなさん、今日はよろしくお願いしまぁ・・・!?!?」
自己紹介を終える前に、カリアード君の仲間の人達が一斉に押し寄せてきて、あたしは思わず倒れそうになった。
「救血の乙女様、ですね!?お会いできてとても嬉しいですッッッ!!!」
「吸血鬼の救世主にこんなところでお目にかかれるなんて夢にも思いませんでしたッッッ!!!」
「あなた様が我々にお力沿いして下さるなんて、これ以上に心強いことはございません!!わたくしどもにできることがあったら遠慮なくお申し付けくださいッッッ!!!」
「こっ、こちらこそ、みなさんとお会いすることができて、とっても、嬉しい、です・・・。みなさんの活動を、これから一生懸命、お勉強させて、いただきます、ね・・・。」
吸血鬼救済会の人達のあたしに対する羨望の眼差しに圧倒されてしまい、思うように言葉を出すことができなかった。
「じゃあみんな、ミラ様に俺達の活動を知ってもらうために、今日は今まで以上に張り切ってやるぞ!!」
「「「分かりましたッッッ!!!!」」」
みっ、みんなすんごい気合だな・・・。
こうやって周りの反応を見る度に「ああ、ミラってすごいヤツだったんだな。」って改めて認識させられて、嬉しい反面、どうリアクション取ったらいいか分からない・・・。
やっぱどうにも慣れなぇな、こういうの・・・。
◇◇◇
みんなへのあたしの紹介も終わって、あたし達はもう一度お店の前に集まった。
「それじゃあいつもの流れで行くから、みんなは俺の呼びかけに合わせてビラを配ってくれ。」
カリアード君の指示に頷くと、みんなは箱から何やら紙の束を取り出して、それぞれ配置についた。
「ねぇ、カリアード君。」
「何でしょうか?」
「よかったらさ、あたしもそのビラ配り、手伝ってもいいかな?」
「えっ?」
「ここでただ立ってるのもあれだからさ。さっきも言ったけど、あたしにも手伝えることがあったら手伝いたいし。」
「ミラ様・・・。分かりました。ただし、ビラの内容はミラ様にとって少々酷かもしれないですから、どうかご無理をなさらないで下さい。」
「どういうこと?あたしなら大丈夫だから。」
「そうですか・・・。それではミラ様、お願いします。」
「分かった。ありがとね、カリアード君。」
カリアード君からOKをもらって、あたしは箱からビラの束を取り出した。
よし、じゃあやるとしますか!
それにしても、一体どんな内容なんだろ?
束が裏返しだったので、あたしは手の上でそれを表にひっくり返して書かれている内容に目を凝らした。
その瞬間、あたしは絶句した。
書かれていたのは、捕獲された吸血鬼に対する非人道的な行為の数々で、文章の横には白黒の写真が添付されていた。
イスに括りつけられて、身体中に血を抜くためのチューブが刺さったひどく痩せこけた女性の吸血鬼。
手術台みたいなのに縛られて、周りに立っている白衣姿の人間達に、明らかに無理やり肥大化させられた男性の吸血鬼。
フリルのついた可愛らしいドレスを着せられて、殴られ過ぎて腫れあがった顔で檻の中で倒れている子どもの吸血鬼・・・。
そのどれもが直視し難いものばかりで、手が震えてビラを道に落としそうになった。
「皆さん聞いて下さいッッッ!!!」
呆然とする中で突然カリアード君の声が聞こえてきて、ドキッとしたあたしは顔を上げた。
「今このお店で販売されている新発売のポーションをはじめとする数々の健康食品は、全て国内外で捕獲された吸血鬼の血液から生成されています!!彼等はひどく劣悪な環境で人間達から血を抜かれ、吸い尽くされるとまるでゴミのように無惨に捨てられます!!ただ血液を摂取するだけでは飽き足らず、吸血鬼から更に効率よく血液を摂取するための実験も、採血所では行われています!しかも挙句の果てには、捕獲された吸血鬼の中にはスポンサーである貴族の慰め物として献上される者もおり、その誰もが醜い貴族の穢れた欲の犠牲になっています!!こんな・・・こんな狂ったことが到底許されるはずなんかありませんッッッ!!!この告発に少しでも共感してくれた方は、どうか我々、吸血鬼救済会に加わって下さいッッッ!!!私達と力を合わせて、吸血鬼を解放へと導きましょうッッッ!!!」
お店を訪れたカリアード君の呼びかけは、本当に悲痛そのものだったが、その中には確固たる信念と決意が感じられた。
あたしは目をぎゅっと閉じて、そして大きく見開くと、周りの人がやっているのと同じように黙々とビラを配り始めた。
「あの、大丈夫ですか?お顔が真っ青ですよ。」
横でビラ配りをしている初老の男性に声を掛けられて、ビラを配る手が止まった。
「大丈夫です。」
「あの、代表代行が言っていたように、ご無理をされない方がよろしいのでは・・・。」
「ご心配なら無用です。仲間が危機に陥ってるのに、じっとしてなんかいられないですから。」
初老の会員は、あたしの忽然とした態度に身を引いて、ビラ配りに戻っていった。
あたしも止めていた手を再び動かして、来店者に対してビラを配り始めた。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
あたし、捕まった吸血鬼が、あんな目に遭ってるなんて知らなかった。
今までは捕まって連れて行かれる前に助けていたから・・・。
あたしがここにいる間にも、多くの仲間達が写真にあったような酷い扱いを受けていると思ったら、居ても立っても居られない。
正直、今すぐにでも採血所を全部潰して、助けにいってやりたい。
でも、今ここでそんな派手なマネなんかとても出来っこない。
じゃあこの、どうしようもなくやるせなくて腹立たしい気持ちを、どうやって落ち着かせばいいっていうんだよ・・・。
「おい!貴様ら!!」
向こうを見ると、警察官のような恰好に身を包んだ数人の男達が、血相を抱えてビラ配りをやっているあたし達に向かってきた。
「マズい!!王都守衛隊の連中だ!!」
「カリアードさん・・・!」
「今日の活動は一旦ここまで!全員急いで撤収するように!!」
どうやら役人に目を付けられたらしく、みんな一斉にビラを箱の中に放り込んで引き上げようとした。
「邪魔すんじゃねぇよ、クソが・・・。」
あたしはビラをその場で投げ捨てると、走ってくる役人に向かって手をかざした。
「地級第四位・限りある苦痛。」
「ぐっ!?うう・・・!ああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!」
「うぐっ!?ぐがあああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!」
役人の男達は、ドサッと倒れると全身を掻きむしりながらのたうち回った。
「10分はこの状態が続くから、その間にこっから逃げよ。」
怖い位に落ち着いた声で言うあたしに、みんな何も言うことなく荷物をまとめてついて行った。
◇◇◇
役人から逃れたあたし達はお店から大きく離れた裏道沿いの広場に一旦集まった。
「ここまで来ればひとまず安心ですね。」
みんなで無事に危機を脱して、カリアード君はホッと胸を撫で下ろした。
「あっ、あの・・・。皆さん、ごめんなさいッッッ!!!」
いきなり頭を下げるものだから、みんなとってもビックリした感じで目を見開いた。
「どっ、どうしたのですか?」
「目立つマネはするべきじゃないのにあんなことしちゃって・・・。ただ、あのビラを見た後で、あたし達の邪魔しようとする役人の顔見たら、どうしても抑えることができなくて・・・。」
「ミラ様・・・。ミラ様が謝ることなんてありませんよ。」
「えっ?でも・・・。」
「あんな酷いものを見せられて、取り乱さない方が逆におかしいですよ。ミラ様がお怒りになるのは当然です。むしろ、あの直後で、あの役人達を殺さずにただ苦痛を与えるだけに留まったミラ様は、立派だと思います。」
「カリアード君・・・。ホントごめん!!次からはなるべく自重するようにするから。」
「何言ってるんですか!先ほどのミラ様、とってもカッコよかったですよ!!」
「カッコ、よかった・・・?」
「カリアードさんの言う通りですよ!私達の邪魔ばかりする王国守衛隊の奴らを簡単にねじ伏せてしまうなんて・・・!!」
「魔能を使ってる時の救血の乙女様、本当に素敵でした!!あれこそまさに“吸血鬼の英雄”に相応しかったです!」
「でも、あたしのせいで更に締め付けがひどくなったら・・・。」
「何言ってるんですか~!連中多分今ごろ、“恐ろしいほど腕の立つ魔能使いが吸血鬼救済会に入った。”ってガタガタ震えてますよ。そうなればアイツ等だってそう易々と手なんか出せないですよ!やはり救血の乙女様は、とっても頼りになるお方ですね♪」
「みんな・・・。本当に、ありがと!」
懲りずに怒りに任せて、あんな行動に走ってしまったけど、この人達にとってはあたしのしたことは間違ったことじゃなかったと、思ってくれたみたいだった。
正直結果オーライだったけど、いい方向に話が進んでるみたいで嬉しかった。
「カリアードさぁん、くれぐれも救血の乙女様に惚れないで下さいね~?」
「なっ、何言ってんだよ!?」
年の近い男性の会員に冷やかされ、カリアード君の顔が一気に赤くなった。
「だってこの間“いい加減彼女出来てほしい”ってぼやいてましたから。」
「だからって俺とミラ様じゃ釣り合わないだろ!?考えただけでヒヤッとするわ!!」
「でもですね、仮にもミラ様とお付き合いできるってなったらどうします?」
「じょ、冗談でもそんなこと言うのやめろよぉ~!」
「いや真面目な話、どうなんです?」
「うっ・・・。まっ、まぁ・・・。そうなったら、嬉しい、かな・・・。」
「かっ、かかっ・・・。カリアード、君・・・!!!」
ボォンッッッ!!!
「みっ、ミラ様!?」
「おい今、救血の乙女様の頭、爆発しなかったか!?」
「そんなのあるワケないだろ!!ああ!お気をしっかりして下さいミラ様ッッッ!!!」
薄れた意識の中でカリアード君の声を、彼があたしの肩をゆする感触が微かにした。
カリアード君、だからあたしにそんな殺し文句言うんは反則やねんよ・・・。
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――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
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