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第二章 : 動乱の王国

ベリグルズ平野の戦い④

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ファイセアさんの奥さんが、黎明の開手ひらきて

そんな話あるワケが・・・。

でもこの人の気配、明らかにファイセアさんより実力は上。

信じる他ないか・・・。

「ミラお姉様どうしますか!?この女、黎明の開手って・・・。」

「あたしが相手にするからヒューゴ君とリリーはサポートに徹して!!」

「「了解ッッッ!!!」」」

あたし達のやり取りを見て、アルーチェと名乗った女は「フッ。」と小馬鹿にしたように鼻で笑った。

「何がおかしいの?」

「3人でわたくしの相手をするというのですか?」

「そうだけど?」

「それは結構。ですがいいのですか?お友達を助けにいかなくても・・・。」

「どういう意味?それ。」

((((ミラ様ッッッ!!!))))

あたしの脳内に、それぞれ所定の配置についていたグレースちゃん、ローランドさん、アウレルさん、プルナトさんからメッセージが届いた。

それも、全くの同時に。

「どうしたのみんな!?」

(敵の増援です!!ですがどうもおかしくて・・・!!)

ってどういうこと?」

(風貌が、天使みたいで・・・)

使・・・?」

その時、あたしが口にしたフレーズを聞いてアルーチェがケタケタと笑っていることに気が付いた。

「まさか・・・アンタ!何か仕掛けたでしょ!?」

「ええ。心強い軍隊を用意しました。」

「軍隊・・・?」

「ああ。だから使雄ですか・・・。」

「どういうことヒューゴ君?」

天級ヘヴン第四位魔能・聖なるパニッシャー軍勢レギオン天使エンジェルから主天使ドミニオンまでの下~中位天使の軍勢を呼び出せる魔能です。熟練度にもよりますが、その総数は・・・。」

3300。まぁこれでも発展途上ですけどね。」

自慢気に言ってみせるアルーチェの解答を聞いて、あたしは血の気が引くのを覚えた。

今まで優勢だと思っていたのに、ここへきて敵の数が3000以上まで膨れ上がった。

しかもそのほとんどが、人間じゃない、不思議な力を持った天使たち・・・。

どうしよう・・・。

このままじゃ、みんなが・・・。

今すぐにでも、みんなの許に駆け付けたい。

でもそんなたくさんの天使たち、いくらあたしでも全部を対処するなんて、できないよ・・・。

でもこうしている間にも、みんなが・・・!!

焦りと不安からバクバクと激しく鼓動を打つ胸を押さえながら、必死に思考を巡らせる。

そして、導き出した最善策は・・・。

「・・・・・・・。ヒューゴ君、その天使たちの強さってどれくらい?」

主天使ドミニオンまでなら、乙女の永友である私達ならどうにか対処が可能かと・・・。」

「そう。良かった・・・。」

「どうなさるのですか?」

「・・・・・・・。ヒューゴ君はプルナトさん、リリーはグレースちゃん達のところに助けに行って。この人は、あたしが倒すから。」

「そっ、そんな・・・!!ミラお姉様をお一人になんて、私達にはできま・・・。」

「リリーッッッ!!!!」

「ッッッ!!」

あたしが怒鳴ると、ヒューゴ君とリリーがビクッと震えた。

「あたしなら大丈夫。だからみんなを助けてやって。ね?」

「でっ、でも・・・。」

「そう泣きそうな顔をしないでよぉ~!あたしが負けるワケないっしょ!!こんなおばさん絶対ブッ倒して、すぐに駆け付けてやるからさ♪」

不安がる2人に、あたしはニカっと笑って右手でピースサインを作ってみせた。

「ミラ、様・・・。分かりました。」

「ちょ、ちょっとヒューゴ!!ミラお姉様をここに置いてくつもり!?」

「リリーナ!ミラ様はこうなさることが最善だと結論したのです。ならば我々は、その判断を信じるしかないでしょう。」

ヒューゴ君に諭されて、リリーは拳を強く握る。

それは彼女のどうしようもない歯がゆさを表していた。

「ミラお姉様・・・。絶対に、絶対ご無事でいて下さいねッッッ!!!!」

「当ったり前でしょ?あたしが約束破ったことなんて、ある?」

「もう・・・。ミラお姉様ったら。だから好きなんですよ・・・。」

リリーはくすっと笑うと、ヒューゴ君と一緒に塔の下に続く階段を急いで駈け下りて行った。

「さてっと・・・。それじゃあそろそろ、始めるとしますかッ。」

「できない約束はするものじゃありませんよ、ミラ。お友達を悲しませないためにも。」

「誰ができない約束だって?あたしはアンタを絶対倒してみんなのところに行くから。」

「では本気で、わたくしをこの場で殺すおつもりですか?」

「だからさっきからそう言ってんじゃん。そのために、出し惜しみは一切しないから覚悟してよね?」

あたしはついさっきまで解除していた魔能を全て発動させた。

辺り一帯の空気が一気に震えるのを感じ取ったのだろう。アルーチェの顔が少し歪む。

「これほどの気迫とは・・・。これは勝てる見込みが減りましたね。」

「どう?逃げる気になった?」

「いいえ。むしろ俄然やる気がでました。わたくし、挑む壁は高い方がお好きでしてよ。」

「壁が高すぎて、当たった瞬間顔が潰れなきゃいいけどねッッッ!!!」

あたしは自分の血で剣を作り、それを構えるとアルーチェに突撃した。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

天級ヘヴン第三位・座天使の加護ソロネ・プロテクション。」

アルーチェが詠唱すると、彼女を守るように神々しい鎧と3対の翼、そして2本の剣を携えた天使があたしの前に立ち塞がり、あたしの剣を受け止めた。

「ッッッ!!」

「呼び出せる天使のレベルが主天使ドミニオンで終わりな筈がないでしょう。」

アルーチェを守る天使とあたしとの間で、激しい剣戟が繰り広げられる。

天使の猛攻は強烈で、全て捌き切れず頬や額に切り傷を受けてしまう。

「くっ・・・。このっ・・・!」

天使が邪魔をするせいで、中々アルーチェに近づくことができないことに段々イライラしてきたあたしは、身体の中心に力を集中させて、自分の剣に込めた。

そして天使が見せた僅かな隙をついてそのがら明きになった胴体に剣の切っ先を突き立て、一気に力を流し込んだ。

地級アース第一位・暴走せし内なる力インナー・タイラント!!」

天使は頭を押さえて苦しむ仕草を見せて、次の瞬間爆発四散した。

「はぁ・・・!!はぁ・・・!!全回復フル・ヒーリング!」

天使の身体の破片と思しきキラキラ輝く光の雫が落ちる中で、あたしは傷と体力を回復させた。

「さすがは救血の乙女。座天使ソロネを消滅させるとは。」

「関心してないで自分で戦ったらどう?使い魔なんかに丸投げしないでさぁ。」

「使い魔とは心外ですね。彼等は天から舞い降りた聖なる戦士だというのに。でも、その意見には賛成ですね。いいでしょう。わたくし自ら参りましょうか。」

アルーチェは目をそっと閉じて、精神集中しているみたいだった。

天級ヘヴン第三位・神の御使いの衣ゴッズ・フェロー・アーマー。」

アルーチェの背中から3対の翼が生え、それを使って宙に浮いてみせると、まるで天の羽衣のような煌びやかな鎧が身体を纏い、手には十字架に似た巨大な槍が握られた。

「それでは、参りますよッッッ!!!」

アルーチェが急降下してあたしに突っ込んでくると、どうにかして剣で受け止めたが衝撃で壁際スレスレまで押し負かされた。

「くぅ・・・!!アンタ、天使の武具を、自分でも、使えるなんて、反則じゃない・・・?」

「死ぬか生きるかの戦場に反則もクソもないでしょう?」

「それも、言えてる・・・!!」

あたしはアルーチェを何とか押しのけると彼女の脳天目がけて剣を振り下ろす。

だが彼女の槍さばきは凄まじく、あたしの攻撃は余裕な顔で全ていなされてしまう。

彼女はあたしの剣をかわすと今度は翼で縦横無尽に駆け回ると急降下、急接近を繰り返しながら槍をぶつけてくる。

その一つ一つがどれも威力が凄まじく、受け止める度に腕の骨が軋む感覚がした。

「どうかしら?そろそろ疲れてきたんじゃなくて?」

「くっ・・・。誰が・・・!」

あたしが頭上から振り下ろされるアルーチェの槍の一突きを避けると、横から切り上げて真っ二つに折った。

「しまったッッッ!!!」

武器を壊されたことにさすがに焦ったアルーチェに、あたしは息もつかずに一太刀加えようとした。

「言ったでしょ!!あたしはアンタには高すぎる壁だってッッッ!!!」

おそらくお互いに勝負が決まったと思ったはずだ。

だがであたしはアルーチェにトドメを刺すことができなかった。

「がっ!!?」

「険しい壁なら、2人で挑めばよいッッッ!!!」

振り返るとファイセアさんがあたしの背中に剣を振り下ろしていた。

あたしはアルーチェを仕留める前に、まずはファイセアさんの息を止めることにした。

「アンタ分かってる?あたしに物理攻撃と地級第一位以下の魔能は一切効かないって!!」

「ああ分かってる!だが目くらまし程度の役には立つだろうッッッ!!!」

「えっ?」

地級アース第三位・紅蓮の剣筋フレイム・ストライクッッッ!!!」

ファイセアさんが剣を振り下ろすと、切っ先から炎の波が斜めに広がり、あたしの視界を奪った。

「ああ・・・!?」

「そして囮の役目もなッッッ!!!」

「なっ、何・・・!?」

困惑していると突然背中に激痛が走り、見るとアルーチェがいつの間にか握っていた光に包まれた剣で背後からあたしの背中を強烈な突きを入れていた。

「ああッッッ!!!」

あたしは衝撃で後ろに吹っ飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がりながら受け身を取ったが、痛みで膝を付いてしまった。

「何のつもりですか!?あなたは後ろに下がっているべきです!!」

「すまない。君が殺されると思ったら身体が勝手に動いてしまって・・・。」

「斬られてもおかしくはなかったのですよッッッ!!!全く無茶が過ぎます!!」

「だが私のおかげで君はこうして生き延び、私も助かり、しかもヤツに手傷を負わすこともできたでないかッ!」

「それは結果オーライというものです。本当に、あなたの無鉄砲さにはほとほと呆れます。」

「フン。素直に“助けてくれてありがとう。”と申したらどうだ?」

「ちょっとぉ、そこのバカップル。イチャコラすんのはいいけど状況はイマイチ変わってないよ?」

あたしは先程受けた傷と絶え絶えになった体力を全回復フル・ヒーリングで治すとゆっくり立ち上がった。

「ふぃ~♪ほらね!」

「どうやら元の木阿弥のようですね。」

「案ずるなルーチェ。先程手傷を与えてやったのだ。私達が連携を重ねれば、ヤツの首を落とすことができるやもしれん。」

「協力するしかないようですね。」

「ああそうだ。」

「くれぐれも、足だけは引っ張らないで下さいね。あなた。」

「そちらも無理するなよ、我が愛しい妻よ。」

あたしに剣を向ける2人は本気そのもので、どうやらガチで2人で寄ってたかってあたしを殺しにかかるつもりのようだった。

「ははっ、こりゃ相当骨が折れることになりそうだな・・・。」

純粋な剣技ならあたしより上な、囮役のファイセア

天使の装備を纏って強力な魔能を操る攻撃役のアルーチェ

面倒な敵を一気に相手にしなければならない事実に直面し、あたしは今までにないくらい憂鬱な気持ちになって苦笑いした。
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