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第二章 : 動乱の王国

ベリグルズ平野の戦い①

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駐屯地を出立して、およそ2時間程が経過した。

眩いほどに夕焼けに照らされたベリグルズ平野の大地も、今や星々が煌めく夜空の下であった。

「総騎士長殿。あと1時間も南下すれば吸血鬼軍のキャンプがあると思しき地点に辿り着きます。」

「分かった。気を引き締めてゆくぞ、ガーナイト。」

「はい!!」

あと一刻もすれば我々は、二度と戻ることが叶わぬやもしれぬ死地へと足を踏み入れてしまう。

正直死を恐れていない。

だが、それでも、遺された者達のことがどうしても気掛かりになってしまう。

弟は果たして、私の死をいつまでも悔やんだりせず、立派な騎士となるために満身してくれるであろうか・・・。

本国に残してきた妻は、私との別れを乗り越えて、より良縁に巡り会ってくれるであろうか・・・。

一度考え出しただけで、不安が湯水のように溢れていき、心の内を満たしていく。

私とて、本心では生きて彼等の許まで帰りたい。

だが淡い望みにかまけて自らが負うべき責務をないがしろにする訳にはいかない。

騎士として、王より仰せつかった命のため、最期の瞬間まで奮迅しなくては。

たとえかの『救血の乙女』の手にかかろうとも・・・!!

「ガーナイト総督!!」

「なんだ?」

「我々の行軍ルートに怪しげな街が・・・。」

見ると前方に、周りを壁で囲まれた、ここからでも容易に確認できる広大な街が堂々と構えられていた。

「おかしい・・・。昨日まであのような街など無かったはず・・・。如何しましょうか、総騎士長殿。」

このような面妖な事態に、自ら飛び込むのは定石ではない。

しかし、敵がこちら側に何か仕掛けてきたとすれば、それを確かめるに他に手はない。

「行こう。何があるか分からぬが、ここで立ち止まっている猶予はない。」




◇◇◇



「なんだ?これは・・・。」

ベリグルズ平野に突如顕現した街に到着した我々は、遠目からでは見て捉えられなかった街の奇妙さに言葉を失った。

門は赤い紐のような光によって塞がれ、その隙間から覗く街の外観は、鉄と木で建造された建物ばかりで、中心部には牙城とも円形劇場とも見て取れる奇天烈な建物が聳え立っていた。

「壁を登って侵入しましょうか?」

「いや待て。中がどうなっているか確かめぬまま入り込むのは危険が大きすぎる。ここは透視系の魔能で内部を偵察しなくては・・・。」

その時、門を塞いでいた赤色の光が失せ、街の中心地まで続いているであろう街道が姿を現した。

「総騎士長殿・・・。」

「ああ。ということなのだろう。」

「どういたしましょうか?」

「招きに応じるとしよう。各員くれぐれも、警戒を怠るな。」

私の後に続いて、騎馬に跨った騎士達は、ゆっくりと魔訶不思議な街へと足を踏み入れていく。

その奇想天外な景色に私だけでなく、多くの騎士が不安の色を顔に滲ませ、武器を持つ手も微かに震えていた。

やがて最後尾が街の中に入ったその瞬間・・・!!

「今だ!!攻撃開始ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

その号令とともに、左右の建物の影から、武装した吸血鬼達が一斉に飛び出してきた。

だが彼等もまた、我々が見た事のない機械仕掛けの鉄でできた筒状の武器を構えてきた。

「くそ!!待ち伏せか!?」

突然のことで混乱しながらも何とか応戦しようとした我々であったが、鉄筒の武器から放たれた光の玉のような弾に多くの者の胴体が穿たれていった。

「あがっ・・・!!」

「ぐっ・・・!!」

「かはぁ・・・!!」

盾で防ごうとする者もいたが、光弾は盾をいとも簡単に貫通し、なす術もなく身体に穴を開けられてしまう。

「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!弓隊前へ!吸血鬼どもを一掃しろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

ガーナイトが命令し、後ろに控えていた弓兵達が前に乗り出し、吸血鬼達に矢を放とうとした。

だが、できなかった。

矢が放たれようとした刹那、けたたましい轟音とともに弓隊がいた場所は跡形もなく吹き飛ばされた。

「なっ・・・!!」

前方を見ると、4~5人の吸血鬼によって支えられた、4本足が生えた鉄の大砲のような武器が3つ並んでいた。

操舵手と思われる1人が引き金を引くと、先程の光弾とは比べ物にならないくらい大きい光の塊が砲口より放たれ、着弾すると爆音を響かせ地面に穴を開けた。

「ぐはぁぁぁぁ・・・!!」

「ぎゃあああああ・・・!!」

運悪く逃げ遅れた騎士達は地面ごと消し飛ばされ、彼等の亡骸は何処にも見られなかった。

「そっ、総騎士長殿!!!どうかご指示をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

吸血鬼達のまるで想像だにしなかった攻撃の数々に、我が軍は最早総崩れとなってしまった。

今はとにかく、ここから脱することを第一に考えなくては・・・!!

「たっ、退却しないと・・・このままではやられてしまうッッッッッ!!!!」

多くの仲間を失い、半狂乱に陥った者達が先程入って来た門に大挙した。

彼等が赤色の紐の光に触れた瞬間、その身体はまるで蒸発したように消し去られてしまった。

「おい・・・。ウソだろぉ・・・。」

目の前で起きた光景、そして一歩も街の外には出られないという事実に、騎士達は皆、絶望感に満ちた顔を見せた。

どうすれば・・・。

どうすれば皆を逃すことができる・・・!?

混乱のあまり乱れる精神をどうにか堪え込み辺りを見回すと、側方に緑が生い茂る一画が見えて、私はそれが小規模の森だということを瞬時に理解した。

「全員あそこの森まで退避しろッッッ!!このままでは全滅するッッッッッッッッッッ!!!!」

私が指示を飛ばすと、皆一目散に森に向かって馬を走らせた。

しかし、一体どうなっておるのだ?

この世界の技術力では到底作り出せない武器。

明らかに魔能ではない人為的な機能が施された街。

ミラの持つ力は、これほどまでに恐ろしく、強大であったというのか・・・!?




◇◇◇




「ミラ様。守備は中々に上々のようですね。」

「うん。良かったよ、ヒューゴ君。」

ヒューゴ君と一緒に、遠隔視の魔能で状況を見ていたあたしは、その善戦っぷりに上機嫌だった。

さすがはSF系の武器!

火力からして明らかに向こうの上を行ってるよ!

いやぁ、まさかここまで威力が絶大だとは思わなかったな~。

敵戦う前からヒィーヒィー言ってたし。

だから忠告したでしょ?

「来たらタダじゃおかない。」って。

人の言う事は素直に聞くもんだよ、全く!

「プルナト総督から伝達がありました。ここまでの戦いにおけるこちら側の死傷者はゼロとのことです。」

「ホントに!?」

「ええ。このまま押し通れば、誰一人失うことなく勝利することができるでしょう。」

「そっか。だったらこのままのペースで頑張らないとね。」

「ミラ様のご期待に添えるように我々も全力を尽くします。」

「ありがと!!それじゃあ、敵の陣形は崩したし、次のフェーズに移行しよっか。」

「森には既に、グレース達が配置についております。」

「分かった!ちょっと連絡してみるね。」

森に待機しているグレースちゃんと連絡を取るために、あたしは耳に指を当てて、遠距離会話用の魔能を発動させた。

遠距離対話ハイ・コミニュケート。もしもしグレースちゃん。聞こえる?」

(はい、ミラ様。)

「人間軍の連中、そっちに逃げたからさ、対応の方よろしくね!」

(かしこまりました。)

「でも!分かってるね?もし万が一ヤバいことになったら・・・」

(“即座に撤退して、ミラ様に報告。”ですね?)

「おお、分かってるねぃ!じゃ、くれぐれも無茶だけはしないでね。」

(任せて下さい!連中に私達を敵に回したことを後悔させてやりますよッッッ!!!)

・・・・・・・。

・・・・・・・。

ふぅ~。

グレースちゃんにも釘を差したし、とりまこれで大丈夫、かな?

よし、ここまでは驚くほど順調に敵を抑え込めてるな。

後は向こうの出方に、コッチが上手く立ち回れるか・・・だよね。
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