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第二章 : 動乱の王国

激烈な歓迎

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「すぅ・・・。すぅ・・・。んっ、んんっ・・・。」

あっ、そろそろ起きないと・・・。

時計がなくても体感時間で分かる。もう夜だと言うことが。

吸血鬼になってから昼夜の価値観がすっかり逆転してしまったけど、それにもだいぶ慣れてきた。

いま外は日暮れ直後なんだけれど、それが吸血鬼のあたしにとっての『朝』なんだ。

最初は生活リズムがぐっちゃぐちゃになるんじゃないかって不安になってたけど、人間ってやっぱ慣れるもんなんだなぁ・・・。

まっ、あたしはもう人間じゃないんだけどね。

おっと、下んないこと言ってないでいい加減起きないとっ。

あれ?なんか布団が暑いような・・・?

それに何故だろう?妙な圧迫感を感じる。

「んんっ、らに・・・?」

「むにゃ・・・。むにゃ・・・。」

・・・・・・・。

・・・・・・・。

「ひゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!?」

「むにゃ・・・。あっ、おはよ~ございますぅ~。ミラお姉様ぁ♪」

布団の中であたしに抱きつき、ぐっすり眠るリリーを見た瞬間、あたしはビックリしてテントから飛び出してしまった。

「りっ、リリー!!なっ、何してんの!!?ってか、いつの間に入ってきたの!!?」

「ミラお姉様がお寒い思いをしないように、私の肌の温もりで暖めて差し上げようかと。いかがでしたでしょうか?」

「ええっ!?いっ、いや・・・。暑、かったん、だけど・・・。」

「そうでしたかぁ~。ミラお姉様のお身体に触れている内に、私の身体が、火照ってきて、そのまま、眠りこけてしまった、みたいです・・・。うふふ。夢の中のミラお姉様、まさかあんな、大胆なコトを・・・♡

「あんたの夢であたしはどんなコトをしでかしたのッッッ!!?」

リリーのあたしに対する凄まじい好意には毎度のことながらホントビックリさせられるよ・・・。

ウン!とキツく行ったら止めてくれるかもしれないんだけど、この間あんなことあったんだから凹ますようなこと言いたくないんだよなぁ・・・。

それに、好かれること自体はイヤじゃないし、むしろちょっと嬉しいから・・・。

ヤベッ!もしかしたらあたし、系に目覚めようとしてんのかも!?

「ミラ様!どうしましたか!?」

「グレースちゃん・・・。」

「りっ、リリーナ様・・・。何故ミラ様のテントの中に?」

「ああっ・・・!ミラお姉様ったら、私の胸元を頬ずりして、まさか首筋に噛み付いて、それから・・・はああんっ!♡」

ちょ、ちょっとリリー!何言ってんのさッッッ!!!

今この場で言ったら・・・。

「・・・・・・・。」

「ぐっ、グレースちゃん!ちっ、違うかんね!!これはあくまでリリーの夢の話で・・・。」

「・・・・・・・。ミラ様、愛のカタチはそれぞれですし、それに、どんなになっても、私は、あなたに、ついていきますので・・・。」

グレースちゃんはそう落ち込んだ風に言うと、自分のテントの方へ走り出した。

「まっ、待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇグレースちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!あたしまだリリーに身体カラダも心も奪われてないからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



◇◇◇



「はぅぅぅ!!さっきは早とちりしてしまって申し訳ございません~・・・。」

手にした皿に乗ったソーセージと目玉焼きをフォークでつつきながら、グレースちゃんは口をもごもごさせた。

あれから、あたしはグレースちゃんの誤解をどうにかして解くことができた。

軽く小一時間はかかってしまったが・・・。

横からリリーが誤解を深めることを言わなければもうちょっと早く話をまとめられたと思う・・・。

「グレース、心配しなくてもミラ様とリリーナは決してそんな関係になったりしませんよ。」

「ひゅ、ヒューゴ様・・・。」

「何言ってんのよヒューゴ!!私とミラお姉様はすでに固い愛の絆で結ばれてるんだから!!あとは、互いの身体を寄せ合うだけ・・・♡」

「もしそうなったら、私はこの世界に絶望して自刃いたします。」

「ちょっとあんた!!それ、どういう意味!?」

「額面通りだと思って頂ければ。」

「ヒューゴぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・!!」

「こっ、こら二人とも!食事中はケンカはやめてよ!!」

互いを引っ張り合いっこするリリーとヒューゴ君を叱りつけると、二人はすぐさまケンカを止めた。

「もっ、申し訳ございません。ミラ様!」

「私も、誠にすみません・・・。せっかくミラお姉様がわざわざ朝食を作って下さったというのに・・・。」

実は今グレースちゃん達や、南方吸血鬼軍のみんなが食べている朝ごはんは、あたしが作ったものだ。

言っても、卵とソーセージをただ単に焼いて塩で味付けしただけなんだけど・・・。

それでも全員分を用意するのは中々に大変だった。

他の吸血鬼のみんなが手伝ってくれて、本当に助かったよぉ。

「しかし驚きました。ミラ様のお作りする朝食がこんなに美味しいなんて。」

「そんなに褒めないでよ~グレースちゃん!単純に焼いただけなんだから。」

「私もビックリしました。ミラお姉様が料理をできるようになったのですから。」

でっ、できなかった?

「リリーナ様、どういうことでしょうか?」

「完璧超絶ステキなミラお姉様だけど、唯一できなかったのが“料理”だけなんだよ。一度パンを焼いてみようとしたんだけど、できたのは雷に打たれて黒コゲになった樹木みたいなモノだったんだよ。まっ、それでも私にとっては絶品だったんだけどね♪他のみんなは泡吹いて倒れたんだけどさ。本っ当軟弱な奴らだったよ!」

泡吹いて倒れたって・・・。

どんだけマズい代物ができあがったんだよ・・・。

「記憶を失くされて、料理の腕が格段に上がったのでしょうか?以前に、ご自身は感覚的に料理が得意な気がすると仰ってましたよね?」

「へっ!?そっ、そうだね!きっとそうだと思うよっ。」

「なるほど。失くすばかりではなく、新たに得られるものもあるのですね。」

「ミラお姉様が更に完璧になられて、私は大変喜ばしく思いますッッッ!!!」

「あっ、ありがと・・・。」

ふぅ。

今回は上手く取り繕うことができたけど、ついボロが出そうになんのは色々考えようだなぁ・・・。

料理すんの控えた方がいいのかな?

でもなぁ、みんな「美味しい美味しい。」って言って食べてくれるし・・・。

う~ん。

・・・・・・・。

・・・・・・・。

もういいや!

あんま深く考えずにみんなのためにこれからもなんか作って食べさせてあげよっ!

みんなの喜ぶ顔には勝てないからね。

なんか自分がめちゃくちゃチョロい気がするけど・・・。

まっ、いっか!!



◇◇◇



ザリッ・・・。ザリッ・・・。ザリッ・・・。

夜の闇が包む暗い森を、あたし達は歩き続けている。

南方の吸血鬼軍の司令部を出発して、今日でおよそ3週間。

もうそろそろ目的のベリグルズ平野に着いてもおかしくないんだけど・・・。

「ねぇヒューゴ君。あとどれくらいで着くの?」

「そうですね。あと一日進めばベリグルズ平野の入口になると思うのですが・・・。」

あと一日か・・・。

ってことは、思ってたよりだいぶ近づいてきたんだな・・・。

「ですので皆さん気を付けて下さい。この先、前線で戦っている人間軍との遭遇率が高くなってきますから!」

ヒューゴ君がそう言った後に、あたしは自分の中の警戒心をMAXにさせた。

自分たちが今から行こうとしてるのは、吸血鬼と人間が激しい戦いを繰り広げている激戦地。

そこに向かっているということは、危険な目に遭う確率も近づく度に高くなっていくということ。

だから決して油断してはならない。

そう心の中の緊張の糸を強く張った直後だった。

森の向こうから矢が飛んできて、近くの木の幹に当たったと思ったら勢いよく爆発した。

「きゃっ!?」

「ミラ様!ご無事でしょうか!?」

「うっ、うん。大丈夫。」

「いっ、一体どこから・・・。」

辺りをくまなく見回すと、目深にフードを被った複数の人影が、素早く森の中を走り回るのが見えた。

「人間軍の斥候部隊でしょう。あの風貌からして、全員爆裂矢で武装しているかと・・・。」

「どうやら私達、手厚い歓迎を受けるハメになったみたいね・・・。」

早々に受けた激戦地最初の洗礼を目の当たりにして、あたしの心臓の鼓動は高鳴った。

やはり入る段階から、一筋縄とはいかなかったみたいだ。

「ミラ様をお守りしろッッッ!!!」

後ろの兵士たちが、あたし達を守るために周りに陣形を作ろうとした。

「みんな待って!!」

あたしが制止すると、兵士たちは全員一斉にあたしの方を向いた。

「みんなはあたしの後ろにいて。安全になるまで絶対に動こうとしないで!」

「しっ、しかし・・・それではミラ様をお守りできることが・・・。」

あたしなんかより、今ここにいる兵士たちの方がよっぽどやられる危険性が高い。

イヴラヒムさんと約束したんだ。

絶対にみんなを無事に連れて帰るって・・・。

「あたしのことは平気だから!みんなは自分のことを一番に考えて!!」

「しっ、しかし・・・。」

「ミラ様の心情を無碍にするおつもりですか?ここは我々に任せて、他の者は後方で待機してください。」

ヒューゴ君が促すと、兵士たちは気持ちをグッと堪えた様子で後ろに下がった。

「ミラ様、どうしましょうか・・・?」

グレースちゃんが不安げに聞いてくると、あたしは彼女の方にニカっとした笑顔を向けた。

「決まってんじゃない!!向こうがウェルカムって言ってんだからこっちもそれに応えるのが礼儀ってもんでしょ!?ウンっとキッツイお返事を返してやろうじゃんかッッッ!!!」
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