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第二章 : 動乱の王国

王国恐々

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~ヴェル・ハルド王国 王宮内会議室~

「皆、急ぎ呼び出してしまいすまない。」

会議室に設けられた玉座に座った国王が、テーブルに着いた貴族らに詫びた。

「何を申しますかっ!陛下がお呼びとあらば、いついかなる時でも我らは招集に応じる所存でございます。」

「そうか・・・。ありがとうな。」

「しかしどうしたのです?緊急議会なんて・・・。まさか到底看過できない有事が王国内で起きたのですか?」

貴族の問いかけに、王はゴクっと固唾を飲んだ。

「・・・・・・・。先刻、南方のステラフォルト要塞が、突如として消失したとの報告が、私のもとに上がった・・・。」

「ッッッ!!すっ、ステラフォルトが、ですか!!?」

人間軍が誇る要所が跡形もなく無くなってしまったという報せに、煌びやかな服装に身を包んだ貴族らは全員驚愕の声を出した。

「なっ、何故ですか!?あそこは我が軍が誇る難攻不落の砦だったはず!それが何故・・・。」

王は口をつぐみ、その理由を決して話そうとしない。

「その理由については、わたくしがご説明いたします。」

会議に同席していた、一見貴族には見えない長髪の髭面の武骨そうな男が名乗りを上げた。

彼の名前はファイセア・オーネス。

ヴェル・ハルド王国軍総騎士長にして、アドニサカ魔政国軍との交渉人である。

「半月ほど前に、ステラフォルトからの交信が突如として途絶え、調査隊を派遣したところ砦は崩壊し瓦礫の山のみが残る惨状で、生存者は・・・残念ながら発見できず・・・。」

「なっ、なんと・・・。」

「そして、当地には、とある任務で遠征していた黎明の開手ひらきての一人、統時雄とうじゆうのルゼア・デニウイド・ヴァーキリー殿が訪れていたのですが、同じように消息を絶ちました。」

「とある任務?何だ、それは・・・。」

ファイセアのこめかみを、一筋の汗が流れる。

「・・・・・・・。救血の乙女・ミラの死体の所在についての、調査です・・・。」

「どっ、どういうことだッッッ!!?」

「更に、ステラフォルトの残骸からは、広範囲にわたって冥府の炎の残渣が、確認されました。以上のことから、我々が出した推察は、限りなく事実に近くなるかと・・・。」

「推察・・・?まっ、まさか・・・!!」

「・・・・・・・。ミラが・・・復活いたしました・・・。」

その言葉に、貴族全員がテーブルから立ち上がり、間もなく力無く座り込んだ。

「そっ、そんな・・・。」

「ミラが・・・。あの、吸血鬼の救世主が、甦ってしまった、のか・・・。」

「なんて化け物だ・・・。殺してもなお、生き返ってしまうなんて・・・。」

貴族は皆、口々に信じ難い事実への驚きを呟いた。

「まずいぞ・・・。これではミラの死に腑抜けになっていた吸血鬼どもが再び、いや、更に勢い付いてしまうではないか!!」

立派な髭を蓄えて、でっぷり太った初老の貴族が、憤りながらテーブルを拳で殴った。

「どうしよう・・・。もしヤツがウチの領土の収容所を襲ったりなんかしたら・・・。もう吸血鬼の血が飲めなくなってしまうじゃないかぁ・・・。」

赤髪の若い貴族は頭を抱えて両肘をテーブルに付いた。

「わたくし、ミラの血を数滴でも良いから父にお贈りしようと思っておったのに・・・。何故生き返るのだ、アイツ・・・。」

痩せ型の貴族は、椅子に座りながらガクッと項垂れた。

「アドニサカは何と言っておるのだ!?」

ファイセアは拳を強く握りしめ、重々しく答えた。

「“乙女の永友をはじめとする吸血鬼の精鋭を各個撃破し、体制を立て直したうえでミラを再び討伐せよ。”と・・・。」

彼が納得いかなったのは、アドニサカ魔政国の悠長な判断ではない。

「最早そうするしかない。」と自分自身でも解りきっていたからだ。

先のミラ討伐戦で、人間軍の要であった黎明の開手の14人のメンバーの内、8人を喪い、更にステラフォルトの一件で1人戦死し、残るメンバーは5人しか残っていない。

このような戦力ではミラに挑むことなど到底かなわない。

表向きは「体制を立て直してから。」などと言っているが、アドニサカは悟っていたのだ。

人間が吸血鬼の救世主、救血の乙女を倒すことは、最早絶望的だということを。

なので今は、向こうの精鋭を倒し、少しでも敵の戦力を削ることを先決せよ。

これがアドニサカ魔政国が下した結論だった。

「そっ、そんな悠長といられるかッッッ!!!」

「あの国は何も分かっておらん!!彼等も自国にを抱える身になってみろッッッ!!!」

のこと、ですか・・・。」

「そうだッッッ!!!奴らがミラの復活を嗅ぎ付けてみろ!!もしや王国に対してクーデターをするやもしれん・・・。」

貴族の男達は青ざめた。

そうなってしまえば、王国を土台から崩す事態となってしまう。

「諸侯の皆様のお気持ちはごもっともです。ですが今は、かの国が言うように敵の戦力を削り、ミラの手勢をなくすことが最優先だと、わたくしも愚考します。」

「ああ、ファイセアの言う通りだ。」

総騎士長の考えに同意する王に、貴族は反論することなかった。

「それで皆、当面の課題についてだが、我が国に最も近いベリグルズ平野における戦を早期に決着させることだ。あの地は我が軍が優勢だからな。ミラが応援に駆け付ける前に何としてもカタをつけたい。」

「陛下、ミラの復活については公表を控えますか?」

「そうしてくれ。我が国に奴を信奉する者がいる以上は知られてはいけないだろう。民にはミラは倒されたものだと引き続き情報を流し、決して事実を流さないように徹底するのだ。」

「「「ははっ。仰せの通りにっ。」」」

貴族たちが全員退室すると、陛下は深いため息をついた。

「ミラの復活、か・・・。」

「心中お察しいたします。」

「なんだか・・・。、だな・・・。」

「と、申しますと?」

「一度でも良いから、あの吸血鬼の血、飲んでみたかったな・・・。」

落胆する王に、ファイセアは深々とお辞儀した。

「誠に申し訳ございませぬ。ミラの血を、陛下にご献上すると約束したにもかかわらず・・・。」

心から謝罪するファイセアに、王は「そんなことない。」と言う風に手を振った。

「貴様が謝ることはない。過ぎたことを悔やんでも仕方のないことなのだ。」

ファイセアは玉座に向かって片膝を付き、ヴェル・ハルド王国、リアエース4世に忠誠の意を示した。

「お約束いたします!!必ずや再びかの吸血鬼を覆滅し、その血を陛下の許に献上してみせますとッッッ!!!」

「・・・・・・・。フッ、期待しておるぞ。」

王は玉座から立ち上がり、ファイセアの前に座り込むとその肩に優しく手を置いた。

その表情は微笑んでいたが、目元は諦めに満ちたように見えた。
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