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第一章 : 救世主の復活

吉報は波乱の幕開け

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司令本部街の大門が開く轟音が、広大な街が広がる洞窟に響き渡る。

「おい!出撃していた連中が戻ってきたぞ!!」

イヴラヒム、ヒューゴ、リリーナ、そして、吸血の救世主たるミラを筆頭に、ステラフォルトに出陣じていた南方吸血鬼軍が一列になって街に入る。

「執将様、戦は、どうなったのですか?」

軍勢を遠巻きに見ていた吸血鬼の中の一人が、此度の戦いの結果をいち早く知りたくて、無礼を承知でイヴラヒムの許へ駆け寄る。

「・・・・・・・。我が司令部街の皆、聞いてくれ。我が軍は、此度の戦、見事勝利を収めたぞぉッッッ!!!」

直後、街中を揺らさんばかりの大喝采が轟いた。

「やったぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

「これでもう、この街は安泰だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

遠くない内に訪れるであろう滅びの時が回避されたことに、街中の吸血鬼が喜びを露わにした。

「やっぱりミラ様がついてきてくれたおかげだよな!!」

ある一人が口にした言葉が、まもなく群衆に伝播していく。

「ああそうだ!!」

「オレ達の救世主が勝利をもたらしてくれたんだよな!!」

「救血の乙女様、ばんざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!」

止まることのないミラへの喝采にミラ自身・・・

・・・・・・・。

・・・・・・・。

そう。あたし自身は恥ずかしさで縮こまった。

これじゃまるでフェスに出たアーティストだよぉ・・・

「皆様、ミラ様を称えたい気持ちはとても分かりますが、ミラ様はお疲れなので凱旋のお声は控えめにして頂けると嬉しいです。」

ヒューゴ君のお願いに、どよめいていた街のみんなが次第に静かになった。

やっぱりお偉いさんはオーラが違うなぁ・・・

「分かりましたっ。ミラ様、今回は我々を救ってくれて、本当にありがとうございます。お礼は後日いたしますので、今日はごゆっくりお休みになられて下さい。」

「あっ、ありがと・・・」

「では、参りましょうか。」

司令部の屋敷に続く通りに並んだ住民たちの熱い視線を浴びながら、あたし達はゆっくり屋敷に進んだ。

ヒューゴ君が街のみんなを大人しくさせたのって・・・

・・・・・・・。

・・・・・・・。

やっぱり、これからがあるからだよなぁ・・・



◇◇◇



「では皆様、集まってもらいましたね。」

屋敷に帰った後、あたし達はイヴラヒムさんの部屋に集まった。

「今回の作戦、“ステラフォルトの要塞を陥落させ、南方の吸血鬼への大規模攻勢を阻止する”という当初の計画は完遂させました。」

「ああ、そうだな。」

「しかし、その余波は計り知れないものです。」

「余波、とは?」

訝しむイヴラヒムさんから、ヒューゴ君はそっとあたしの方へ視線を移した。

「この戦いで、吸血鬼。そして、人間の双方でミラ様の復活が公に認められるでしょう。」

やっぱ、そうだよなぁ・・・

なんせ、あんな派手なことやらしたんだから・・・

「ミラ様が甦ったことを知れば、人間軍は更に勢力を強めて我々を攻撃することでしょう。」

「・・・・・・・。ごめんなさい・・・。あたしのやらかしで、みんなを、危険な目に、合わせて・・・。」

「いえ。私は別にミラ様を責めるつもりなど毛頭ございません。」

「えっ?」

「むしろこれは吉報になるのです。」

吉報?

「ミラ様が復活したことが知れ渡れば、苦難に立たされた我々にとってかつてない希望となり、士気も高まるでしょう。」

たっ、確かに・・・。

あたしがこれまで会った人達のリアクションが吸血鬼全体に広がれば、ビックリするぐらい戦力が高くなると思うし・・・。

「それでイヴラヒム様、ご提案なのですが。」

「何だ?」

「南方吸血鬼軍を、北方のベリグルズ平野の支援に回しては頂けないでしょうか。」

「べっ、ベリグルズ平野だと!?」

どっ、どこそこ?

「ねぇリリー、ベリグルズ平野って何?」

「人間の大国、ヴェル・ハルド王国に最も近い、私達が最も苦戦を強いられている激戦地です。」

げっ、激戦地ッッッ!!?

「むっ、無謀だッッッ!!!あの場所がどれほど危険か、先刻まで派兵していた其方が一番知っているだろうッッッ!!!」

「ええ。ですから我々も相応の対策をしたいと思っております。」

「対策、とな・・・?」

「奉救遊撃隊の皆を集結させます。」

「なっ、なんだとッッッ!!?」

奉救遊撃隊?

確か、ミラの・・・。あっ、今はあたしの近衛兵だったか・・・。

「“乙女の永友”たる我々がミラ様の許で一丸となって最前線に立てば、苦境に喘ぐベリグルズの兵士たちを救うことが叶うかと考えます。ですが、我々だけでは戦況を好転させることは難しいでしょう。なので、今や敵の侵攻の危険性が最も低くなった南方のお力をお貸しして頂けたいのです。よろしいでしょうか?」

「うっ、むむむ・・・。分かった。我が南方地方は、これより北方、ベリグルズ平野の全面支援に回るとしよう。」

「ありがとうございます。」

「ミラ様も、よろしいでしょうか?」

「・・・・・・・。うっ、うん!分かった。みんなで北のみんなを助けに行こう!!」

あんだけの騒ぎを起こしたのだから、反省としてみんなのために頑張らなくっちゃ!!

「ありがとうございます。では私は他の皆に報せを送ります。皆もミラ様に会えると聞けば、さぞお喜びになられるでしょう。」

そういえば、他のみんなってどんな人達なんだろう?

まぁでも、リリーやヒューゴ君が優しいのだから、きっといい人達なんだよ、ね・・・?



◇◇◇



コンコン・・・

「入るよ、ローランド。」

「何用だ、アウレル。」

アウレルが入室した部屋には、簡素な祭壇に飾られた救血の乙女像が立っていた。

「なにしてるの?」

「偲んで、いたのだ・・・。我らが救い主を・・・。」

神妙な面立ちで答えるローランドに、アウレルは「やれやれ。」というような表情を浮かべた。

「ミラ様に祈りを捧げるのはいいけどさ、せめて・・・。服くらい着なよ・・・。」

「何を申すか!!この世に生を受けたままの姿でミラ様にお会いする。これ以上の弔いの心が他にあるかッッッ!!!」

「僕としては、筋肉隆々な君が全裸で手を合わせたらミラ様も困ると思うよ。」

「ふんッ!身体と同じく、性根まで小枝の如く細い貴様には分からないことだな!」

「はぁ・・・。それに、もうミラ様の彫刻に手を合わせる必要もなくなったみたいだよ。」

「どういうことだ?」

「ヒューゴからさっき報せがあった。南方のステラフォルト要塞が壊滅したらしい。」

「何ッッッ!!?あそこは人間軍にとって難攻不落の要所だろう!?一体何があったというのだ?」

「ミラ様が、やったって・・・。」

「ッッッ!!!どっ、どういうことだ・・・。」

「ミラ様が甦って、要塞を滅ぼしたらしい・・・。」

「貴様。下らん冗談を言うと、どうなるか、分かっておろうなぁ・・・。」

「最初が僕もそう思ったんだよ。でも、同じ頃に見張りについていた兵士が南で強力な魔能反応を探知したんだけど、それが・・・。冥王ロングリヴ降臨ダークロードのものだったんだ。」

「なっ、なんだとッッッ!!?あっ、あの魔能を使えるのは・・・あの方のみのはず・・・。みっ、ミラ様が・・・甦った・・・。」

「ヒューゴによると、僕達に至急集まってほしいって。」

「こっ、こうしてはいられないッッッ!!!直ちにあの方の許に馳せ参じなくてはッッッ!!!」

「ちょっ、ちょっと待ちなよ!!まだどこに集まるか言ってないし!部屋から出ていくにしても、服を着てからにしろよッッッ!!!」

慌てるあまり素っ裸で部屋から出ようとするローランドを、アウレルは全力で止めた。
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