上 下
5 / 514
第一章 : 救世主の復活

異世界の事情

しおりを挟む
「クソ!どこ逃げやがった!?」

「必ず見つけ出して、殺さなくては・・・」

はあ・・・はあ・・・

もう、何でアイツ等あんなに血気盛んなんだよ・・・

そりゃ、あたしは吸血鬼の英雄で、見つけて〇せば大出世できるからなんだけど・・・

でもなんであたしがアイツ等の昇進とかのためにやられなきゃいけないワケ!!

っていうか、なんでそもそも普通人間たちから怖がられてるはずの吸血鬼が血取られるために逆に命狙われてんの!?

ああ、もう!!

意味分かんない!

ホンッッット、どうなってんの、この世界は!?

誰か教えてほしいよ・・・

「おい!いたぞ!!」

ヤバ!

見つかった!

早く逃げないと。

でもどこに逃げよ~?

見たカンジ、もう完全に囲まれちゃったみたいだし・・・

ボコッ!

え!?

地面が、抜けた・・・?

「あああああああああああああああ!!」

め、目が回るぅ~!!

ゴロゴロ!!ドサッ。

「う~~~」

いたた・・・

どこ、ここ・・・

「しっ!声を出さないで。」

「えっ・・・?」

「おかしい、いないぞ!」

「そんなはずは・・・確かにここにいたはずなのだが。」

「もしや隠れたのでは・・・まだそんな遠くには行ってないだろ。急いで見つけ出せ!!」

「「了解!!」」

ドッ、ドッ、ドッ、ドッ・・・

いっちゃ、た・・・?

「連中、向こうに行ったみたいね。もう大丈夫だから安心して。」

ッッッ!?

紅い目、前歯の牙・・・

この人、吸血鬼だ。

「危ないところだったわね。私はグレース。あなたは?」

「ああはいっ。ミラです。助けてくれてありがとうございます!」

「ッッッ!?ではあなたが、あの・・・」

「え、ええ・・・なんかそうなってるみたいで・・・」

?」

あっ、言葉間違えた!

ここは取り繕っても救世主っぽい喋り方しないと。

でもなぁ、あの口調ちょっと疲れんだよな~

やっぱ素で話すのが疲れないでいいし。

どうしよっかな~?

・・・・・・・。

・・・・・・・。

そうだ!!

いいこと思いついたっ。

「じ、実は・・・」



◇◇◇



「記憶がない、ですか・・・」

「はい。すでに聞いてるかと思いますが、あたし実は人間に殺された、らしくて・・・実はその時のことも覚えてなくって。で、多分その時に何かしたからこうやって復活することができたっぽいんですけどそのせいで記憶がすっぽり抜け落ちてしまったらしくって。」

し、信じてくれるかな?

咄嗟に思いついたことなんだけど・・・

「そういえば・・・」

「はい?」

「死の間際に、自分に後から効果が出る復活の魔能を施すことによって生き返ることができるのですが、その際の後遺症で記憶に欠落が生じると聞いたことがあります。もしかしたらミラ様は、それで自分の名前以外の全ての記憶を失いになったのではないかと。」

そうなんだ!!

そういう話があるんだったら、口実として使えそう。

さすがに、『中身は全くの別物』っていうのはマズそうだし。

「はっ、はい!多分そうだと思います。」

「そうでしたか・・・それは大変お辛い思いをされたかと存じます。」

「すっ、すいません!心配かけちゃって。」

「いえいえ!私たちは、最後の希望であるミラ様が甦ってくれただけでも大変嬉しいのですから。」

「ありがとうございますっ。それで何ですが、ので、この世界がどういったことになってるのかそれも分からなくて・・・教えて下さい!一体どうして吸血鬼は人間から命を狙われてるんですか?」

「その理由は・・・」



◇◇◇



グレースさんが教えてくれた、この異世界の現状はこんなものだった。

この世界では、遥か数千年前に、幻想大厄災ファンタズマ・カタストロフィという未知の災害が発生して、さっきの話にも出てきた竜種ドラゴレイスをはじめとする、ファンタジー世界に出てきそうな動物は、ほとんどが絶滅してしまったらしい。

生き残ったのは、森精人エルフ岩削人ドワーフといった、高度な魔能を操ったりする種族や、あたし達吸血鬼ヴァンパイアのような繁殖力が高い種族ばかりだという。

そんな中、人間たちが吸血鬼の血に利用価値を見出した。

理由は、吸血鬼には種族としての特性、血を吸うことで他の種族が持っている魔能をレベルごと奪うことが可能であることと、森精人エルフと同等の長寿であることだ。

吸血鬼から抜き取った血は色々な使い道がある。

手っ取り早く魔能を取り込むことができるポーションの原料、万病の特効薬、そして、不老不死の妙薬だ。

そのために吸血鬼は、人間たちの欲望のせいで大勢捕らえられ、そして殺された。

この世界では、吸血鬼は人間に利用されるだけのただの動物に過ぎないんだ・・・

「大勢の同胞が殺され、私達は滅びの時を待つばかりでした。しかしそんな中、あなた様、ミラ様が現れて私達を解放に導き出してくれたんです。怯えるばかりの私達に寄り添う慈悲深さと、敢然と人間たちに立ち向かうその雄姿は、まさに救世主のお姿そのものでした!」

なんかあたし、この世界で上手くやっていけるか分かんなくなっちゃった。

見た感じあたしは、他の人達よりかはは強そうだけど、それでも滅亡の危機に瀕した仲間を救うなんて、ただ単に強いだけじゃ無理そうだし。

なんであの子、本物のミラはあたしなんかをこの世界に自分自身として生き返らせたんだろう?

こんな、日本にゴロゴロいそうな普通の女子なんか・・・

「ミラ様?」

「えっ、あ、いやいや何でもない!この世界のことについては大体分かったからさ。それで、これからどうするの?」

「そうですね、人間の目をかいくぐりながら、更に南東に進んだ、森の奥地にある吸血鬼軍の拠点を目指そうと思います。実は私のいた隠れ村が人間の手に落ちてしまって、保護を求めるためにここまでやってきたんです。」

そういえば閉じ込められた吸血鬼もそんなこと言ってたな・・・

「ねぇ、あたしもそこに行ってもいい?そこにいけばあたしのこともっと分かるかもしれないし。それにここにいつまでもいると危険だし。」

「本当ですか!?分かりました。ミラ様のことは私が全力でお守りします!私、剣の腕には少しばかりですが自身があるのでっ。」

「そっ、そんなに張り切らなくたっていいよぉ~イザとなれば二人で逃げればいいし。」

「そんなワケには参りません!救血の乙女たるミラ様をお守りするためならば、この命、惜しむことなく使います!」

「いやいやいやいや!もっと自分大事にしなって!!」

自分のために他の人が身体を張ってくれるってのは、前までは素敵だと思ってたけど自分がそれをやられるのは疲れるし、心苦しい・・・

やっぱあたし、この世界で上手くやっていけるかどうか、不安だ。

うん、とぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉても・・・!!不安・・・。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

弓使いの成り上がり~「弓なんて役に立たない」と追放された弓使いは実は最強の狙撃手でした~

平山和人
ファンタジー
弓使いのカイトはSランクパーティー【黄金の獅子王】から、弓使いなんて役立たずと追放される。 しかし、彼らは気づいてなかった。カイトの狙撃がパーティーの危機をいくつも救った来たことに、カイトの狙撃が世界最強レベルだということに。 パーティーを追放されたカイトは自らも自覚していない狙撃で魔物を倒し、美少女から惚れられ、やがて最強の狙撃手として世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを失った【黄金の獅子王】は没落の道を歩むことになるのであった。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...