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笛ふきの少年とお姫さま
笛ふきの少年とお姫さま
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あれから七年の歳月が流れました。
村の小高い丘にはコケの生えた大きな石がたたずんで、村を見守っていました。
七年前に村人たちが少年のためにこしらえたものでした。
今日の村人たちはみんな大忙しです。
女性はきらびやかなドレスに身を包み、男性は締めたことの無いネクタイにひと苦労。
そう。今日は晴れてお姫さまの結婚式が執り行われるのです。
お姫さまは真っ白なドレスにキラキラ光る真珠のネックレス。とても綺麗です。
「お父様、わたし、パレードなんて恥ずかしいわ。馬車の奥に隠れていても良い?」
お姫さまは照れながら言いました。王様は笑いながら答えます。
「はっはっは。一生に一度のお前の結婚式だ。他の国々の方も多く来られておる。世界一の道化師、世界一の料理人、世界一の楽団、みんな集まっておるのだ。恥ずかしがらず、堂々と祝福してもらいなさい」
国にはゆったりとした心地よくあたたかい風が流れていました。
お姫さまと王子様の結婚の儀が終わり、金色の馬車に二人は乗り込みました。
ギギギギギ……。
お城の大きな門が開かれ、国じゅうの民衆の波に金色の馬車はゆっくりと歩を進めます。
まばゆいばかりの紙吹雪と花びらに囲まれ、お姫さまは照れくさそうに、けれどもちゃんと馬車から顔を出して民衆に手を振りました。
「お姫さま、おめでとう!」
あの村人たちがお姫さまに向かって叫ぶと、お姫さまは嬉しそうに手を振りました。子供たちがお姫さまに気づいて一斉に色とりどりの花を宙に放ちました。
「みんな、ありがとう!」
目の前には世界一の道化師が色とりどりのお手玉を空に投げ、村の子供たちも大喜びです。
それを見て、お姫さまも顔をくしゃくしゃにして笑いながら子供たちに手を振った、そのときでした。
「♪♪♪♪♪♪……」
とても懐かしい音色が鳴り響きました。
お姫さまは王子様を押しのけんばかりに反対側へと顔を向けました。
そこには遠い遠い国から来ると聞いていた世界一の楽団が、様々な音色を重ねて行進しています。
その先頭では世界一の笛ふきとなったあの少年が、こちらにほほえみながら笛を吹いておりました。
少年の吹く『祝いの曲』は、
山のこと、水のこと、動物のこと、人のこと、すべてがつまっている曲でした。
みんなみんな祝福しているよ。
そんなやさしいやさしい曲でした。
お姫さまは次々とこぼれる涙をおさえきれませんでした。
少年がかつて聴かせてくれた数々の曲が頭の中によみがえり、涙で少年がかすんでしまいました。
「大丈夫かい? どうしたの?」
王子様がたまらずお姫さまに声をかけ、お姫さまを抱き寄せました。
「ううん、何でもないの。すごくすごく私は今、幸せ。ねぇ、ずっとずっと私を大切にしてね」
お姫さまは涙をぬぐいながら王子様を見つめ、王子様はにっこり微笑んでお姫さまを強く抱きしめました。
王子様の胸は窮屈だったけど、とてもとても温かくて、お姫さまは幸せでした。
少年の吹く『祝いの曲』が鳴り響きます。
その空にはさんさんと光り輝く太陽と、あの日のような天気雨が広がっていました。
おしまい
村の小高い丘にはコケの生えた大きな石がたたずんで、村を見守っていました。
七年前に村人たちが少年のためにこしらえたものでした。
今日の村人たちはみんな大忙しです。
女性はきらびやかなドレスに身を包み、男性は締めたことの無いネクタイにひと苦労。
そう。今日は晴れてお姫さまの結婚式が執り行われるのです。
お姫さまは真っ白なドレスにキラキラ光る真珠のネックレス。とても綺麗です。
「お父様、わたし、パレードなんて恥ずかしいわ。馬車の奥に隠れていても良い?」
お姫さまは照れながら言いました。王様は笑いながら答えます。
「はっはっは。一生に一度のお前の結婚式だ。他の国々の方も多く来られておる。世界一の道化師、世界一の料理人、世界一の楽団、みんな集まっておるのだ。恥ずかしがらず、堂々と祝福してもらいなさい」
国にはゆったりとした心地よくあたたかい風が流れていました。
お姫さまと王子様の結婚の儀が終わり、金色の馬車に二人は乗り込みました。
ギギギギギ……。
お城の大きな門が開かれ、国じゅうの民衆の波に金色の馬車はゆっくりと歩を進めます。
まばゆいばかりの紙吹雪と花びらに囲まれ、お姫さまは照れくさそうに、けれどもちゃんと馬車から顔を出して民衆に手を振りました。
「お姫さま、おめでとう!」
あの村人たちがお姫さまに向かって叫ぶと、お姫さまは嬉しそうに手を振りました。子供たちがお姫さまに気づいて一斉に色とりどりの花を宙に放ちました。
「みんな、ありがとう!」
目の前には世界一の道化師が色とりどりのお手玉を空に投げ、村の子供たちも大喜びです。
それを見て、お姫さまも顔をくしゃくしゃにして笑いながら子供たちに手を振った、そのときでした。
「♪♪♪♪♪♪……」
とても懐かしい音色が鳴り響きました。
お姫さまは王子様を押しのけんばかりに反対側へと顔を向けました。
そこには遠い遠い国から来ると聞いていた世界一の楽団が、様々な音色を重ねて行進しています。
その先頭では世界一の笛ふきとなったあの少年が、こちらにほほえみながら笛を吹いておりました。
少年の吹く『祝いの曲』は、
山のこと、水のこと、動物のこと、人のこと、すべてがつまっている曲でした。
みんなみんな祝福しているよ。
そんなやさしいやさしい曲でした。
お姫さまは次々とこぼれる涙をおさえきれませんでした。
少年がかつて聴かせてくれた数々の曲が頭の中によみがえり、涙で少年がかすんでしまいました。
「大丈夫かい? どうしたの?」
王子様がたまらずお姫さまに声をかけ、お姫さまを抱き寄せました。
「ううん、何でもないの。すごくすごく私は今、幸せ。ねぇ、ずっとずっと私を大切にしてね」
お姫さまは涙をぬぐいながら王子様を見つめ、王子様はにっこり微笑んでお姫さまを強く抱きしめました。
王子様の胸は窮屈だったけど、とてもとても温かくて、お姫さまは幸せでした。
少年の吹く『祝いの曲』が鳴り響きます。
その空にはさんさんと光り輝く太陽と、あの日のような天気雨が広がっていました。
おしまい
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