ぼく、パンダ

山城木緑

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10.父親だからよ

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 季節は忙しなく移ろう。色づいた木葉が徐々に落ち始め、寒さに身を震わせ始める動物も出はじめた頃だった。

「……おい、佐々木。悪い、ちょっとシェンシェン替わってくんねえか」

「はーい、いいですよー。立花さんが美味しいケーキ差し入れしてくれたんで、早坂さんも食べちゃってください。テーブルに置いてまーす」

「あぁ、そうか」

 なーんだ、そっけないなぁ。せっかく立花さんが並ばないと買えないケーキ買ってきてくれたのに。年とるとケーキの価値わかんないんだろうなぁ。佐々木は枯れ葉を掃きながら口を尖らせた。はっはっと息をあげながらシェンシェンが寄ってくる。

 キャン、キャンキャンキャンキャンキャン。

「おー、どうしたシェンシェン? テンション高いやーん」

 キャウ、キャンキャンキャンキャンキャンキャンキャンキャン。

「うるしゃーい。ほら、子供たち呼んでるよ。お顔きれいきれい出来るようになったでしょ。見せてきてごらん。喜んでくれるよ」

 キャンキャンキャンキャンキャンキャン、キャンキャンキャンキャン。

 風が冷たい。
いつもの朝会が全員参加で開かれていた。まだ暖房が執務室をあたためきっていなくて、佐々木は腕をこすり合わせて寒さに耐えていた。
 今年の冬は平年よりぐっと寒くなると言われていて、木下が温暖な気候で生息する動物たちの報告を細かく聞いている。
 佐々木がちらりと隣に目をやると祐吾が目をつむっている。うわ、早坂さん寝てるわ。だめだこりゃ。
 園長からの人員体制連絡が長く続いている。祐吾はやっと目を開き、佐々木に身を寄せた。佐々木がなにごとかと眉をひそめると、祐吾はちいさな声で佐々木に話しかけた。

「ちょっと、便所行ってくるわ」

「えぇ? 朝会もうすぐ終わりますって」

 佐々木が周りを気にしながら小声で祐吾に応えた。

「なげえんだよ、今日の朝会」

「いや、あと三分もないっすよ。我慢してくださいよ」

「年とって我慢してたらいつの間にか漏れてんだよ」

「きったな。もう行って行って」

 祐吾は何かを噛み潰したような顔をしながら、輪からそっと抜けた。
 祐吾が朝会を抜けることなんか今まで一度もなかった。おそらく一番の動物想いである祐吾は、受持ち以外の動物でも気になったことがあればアドバイスをする。そのアドバイスで好転することも実際多く、困ったことがあるとみんな祐吾の顔を見るのだ。

「早坂さん、どしたん?」

 そう尋ねられて佐々木は首をかしげた。小さくなる祐吾の背中を輪から首を出して見つめた。トイレを我慢できないという割に急いでトイレに向かっているように見えない。ゆっくりと歩いている背中が見えていた。
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