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10.父親だからよ
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それからは佐々木が中心になってシェンシェンに向けて唄ってみる日々を続けた。佐々木の後ろで祐吾が首を上下させると、シェンシェンはつられるように首を上下させ始める。これはシェンシェンも楽しそうで良い企画かもしれない。
シェンシェンは佐々木の歌には必ず首を振り、佐々木以外の飼育員が唄っても徐々に首を振り始めた。これはいけるかもしれない。
遠足の予約をしてくれた学校に電話して、一分以内の歌ならシェンシェンと一緒に歌とシェンシェンのダンスのコラボができるかもしれないと伝えてみた。幼稚園や小学校の先生たちは喜んで準備すると言ってくれた。
「あとはシェンシェンがノッてくれるかどうかだな。子供たちは元気いっぱいの声で唄ってくれるだろうし、シェンシェンがびっくりしてまうかもな」
祐吾がシェンシェンの頭を撫でながら佐々木に言った。
「そうすね。でも、この子ってやってくれるんですよね。きっと子供たちの歌に首を振ってくれる気がします」
「そうだな。おりこうさんやわ」
「うん、シェンシェンってなんだか空気を読めるんですよね。世の男どもと違って。世の男どもはあたしの魅力にも気づかないし」
「…………」
佐々木の恋愛はどうあれ、最初の遠足は明日に迫っていた。幼稚園の子供たちがやってくる。先生から電話があり、園児たちはシェンシェンに届けるお歌の練習をしてくれているのだという。シェンシェン、頼んだぞ。
まだ暑さ残る遠足日和。たくさんの元気な声が堂ヶ芝動物園のゲートをくぐった。シェンシェンは子供たちの声が聞こえてきて嬉しそうだ。嬉しさが有り余ってなんども滑り台を滑っている。
佐々木が予行練習をするように箒で掃きながら歌を唄うと、シェンシェンは首を振って喜んでいた。
園児たちの声がパンダ舎のほうへと近づいてくる。シェンシェンがやぐらに登って園児たちを見つけたようだ。ワウッと鳴くと、園児たちの歓声があがった。
「シェンシェンだぁぁ!!」
「シェンシェーン!」
わぁぁぁという歓声とともにパンダ舎の前に園児が集まった。さっそく駆け回るシェンシェンを見て園児たちの笑顔があふれる。
先生たちが目を輝かせる園児を整列させていた。
「さあ、みんな。シェンシェンにお歌を届けましょうね。できる人!」
はーーい、と元気な返事がして園児たちが鍵盤ハーモニカを構えた先生に目を向けた。
祐吾と佐々木はシェンシェンの後ろで拳を握っていた。シェンシェンは今までにない雰囲気を感じとってすこし緊張しているように見えた。シェンシェン、頑張れ。園児のみんなも練習してくれたし、シェンシェンもちゃんと練習したんだから。
やがて鍵盤ハーモニカの音が響き、大きな園児たちの歌がはじまった。
♪ドーはドーナツのドー レーはレモンのレー♪
シェンシェンは園児たちが唄う元気なドレミの歌にびっくりしてしまったようで固まっていた。が、やがてシェンシェンはゆっくりと首を振り出した。一生懸命唄う園児たちがそれに気づいたようで笑顔をつくった。祐吾と佐々木が顔を見合わせて笑った。
と、祐吾と佐々木はシェンシェンの驚く行動に目を丸くした。
シェンシェンは園児たちの歌に合わせて首を振りながら、吠え出したのだ。
ワウウゥーン
キャウウゥゥン
シェンシェンは園児たちとともに歌いだしたのだ。祐吾も佐々木もこれには驚いた。お歌が終わるとみんなで拍手をして、シェンシェンはよほど嬉しかったのか、ぐるぐると円を描くように駆け回った。
「シェンシェン一緒に歌ってたねー」
園児たちは嬉しそうにそう言いながら、シェンシェンへ手を振ってパンダ舎を後にした。
「シェンシェン、なによー。あんた歌えちゃうのかよぉ」
佐々木がシェンシェンの頬をなでなですると、シェンシェンはワウッと鳴いた。
シェンシェン、お前ってやつは。祐吾はシェンシェンの頭をくしゃくしゃと撫でてシェンシェンをほめた。痛む腰がまったく気にならないほど祐吾は感動していた。
シェンシェンは佐々木の歌には必ず首を振り、佐々木以外の飼育員が唄っても徐々に首を振り始めた。これはいけるかもしれない。
遠足の予約をしてくれた学校に電話して、一分以内の歌ならシェンシェンと一緒に歌とシェンシェンのダンスのコラボができるかもしれないと伝えてみた。幼稚園や小学校の先生たちは喜んで準備すると言ってくれた。
「あとはシェンシェンがノッてくれるかどうかだな。子供たちは元気いっぱいの声で唄ってくれるだろうし、シェンシェンがびっくりしてまうかもな」
祐吾がシェンシェンの頭を撫でながら佐々木に言った。
「そうすね。でも、この子ってやってくれるんですよね。きっと子供たちの歌に首を振ってくれる気がします」
「そうだな。おりこうさんやわ」
「うん、シェンシェンってなんだか空気を読めるんですよね。世の男どもと違って。世の男どもはあたしの魅力にも気づかないし」
「…………」
佐々木の恋愛はどうあれ、最初の遠足は明日に迫っていた。幼稚園の子供たちがやってくる。先生から電話があり、園児たちはシェンシェンに届けるお歌の練習をしてくれているのだという。シェンシェン、頼んだぞ。
まだ暑さ残る遠足日和。たくさんの元気な声が堂ヶ芝動物園のゲートをくぐった。シェンシェンは子供たちの声が聞こえてきて嬉しそうだ。嬉しさが有り余ってなんども滑り台を滑っている。
佐々木が予行練習をするように箒で掃きながら歌を唄うと、シェンシェンは首を振って喜んでいた。
園児たちの声がパンダ舎のほうへと近づいてくる。シェンシェンがやぐらに登って園児たちを見つけたようだ。ワウッと鳴くと、園児たちの歓声があがった。
「シェンシェンだぁぁ!!」
「シェンシェーン!」
わぁぁぁという歓声とともにパンダ舎の前に園児が集まった。さっそく駆け回るシェンシェンを見て園児たちの笑顔があふれる。
先生たちが目を輝かせる園児を整列させていた。
「さあ、みんな。シェンシェンにお歌を届けましょうね。できる人!」
はーーい、と元気な返事がして園児たちが鍵盤ハーモニカを構えた先生に目を向けた。
祐吾と佐々木はシェンシェンの後ろで拳を握っていた。シェンシェンは今までにない雰囲気を感じとってすこし緊張しているように見えた。シェンシェン、頑張れ。園児のみんなも練習してくれたし、シェンシェンもちゃんと練習したんだから。
やがて鍵盤ハーモニカの音が響き、大きな園児たちの歌がはじまった。
♪ドーはドーナツのドー レーはレモンのレー♪
シェンシェンは園児たちが唄う元気なドレミの歌にびっくりしてしまったようで固まっていた。が、やがてシェンシェンはゆっくりと首を振り出した。一生懸命唄う園児たちがそれに気づいたようで笑顔をつくった。祐吾と佐々木が顔を見合わせて笑った。
と、祐吾と佐々木はシェンシェンの驚く行動に目を丸くした。
シェンシェンは園児たちの歌に合わせて首を振りながら、吠え出したのだ。
ワウウゥーン
キャウウゥゥン
シェンシェンは園児たちとともに歌いだしたのだ。祐吾も佐々木もこれには驚いた。お歌が終わるとみんなで拍手をして、シェンシェンはよほど嬉しかったのか、ぐるぐると円を描くように駆け回った。
「シェンシェン一緒に歌ってたねー」
園児たちは嬉しそうにそう言いながら、シェンシェンへ手を振ってパンダ舎を後にした。
「シェンシェン、なによー。あんた歌えちゃうのかよぉ」
佐々木がシェンシェンの頬をなでなですると、シェンシェンはワウッと鳴いた。
シェンシェン、お前ってやつは。祐吾はシェンシェンの頭をくしゃくしゃと撫でてシェンシェンをほめた。痛む腰がまったく気にならないほど祐吾は感動していた。
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