166 / 189
強豪、滋賀学院 霧隠才雲、現る
19
しおりを挟む
三球目。川原がグローブの中でスライダーの握りをする。犬走を目で牽制する。ギリギリまで目で犬走の動きを止めながら、流れるフォームへ移行していく。
川原の腕がしなり、長い指からボールが弾かれた。
内角か外角か、はたまた真ん中か。
外角だ。それだけを確認し、道河原はコンパクトにバットを振った。外角からぐんとホームベースの方へ曲がってきたスライダーと、道河原のコンパクトなスイングから振られたバットが高音を上げて衝突した。
キィィン!
バットの先の方へ当たるのが分かった。このままじゃファウルか一塁ゴロだ。ここからが道河原の腕の見せ所。バットの先に当たろうと、構わず強い力で振り切る。手首を鋭く返すことでボールを押し返していく。ボールがバットの先で変形し、無理矢理にフェアゾーンへ飛ばされていく。
「でかした、道河原」
打球の行方を慎重に判断した犬走が全速力で三塁へ向かった。道河原の放った打球は力ずくで二塁手の頭の上を越えていった。
「4つーーーー!」
三塁手の西川が前進して捕球したライトへバックホームを呼び掛ける。ライトは捕球し、そのまますぐに本塁へ矢のような送球を返した。
「これでアウトになったら、何のために俺はここにいる」
犬走の姿勢が一層低くなる。本塁を小動物に見立て、それを狩る獣のように本塁へと飛びかかる。狩人が射った矢のように、ライトからの送球が本塁へ向かう。
本塁に犬走の指が触れ、犬走の背中をキャッチャーがグローブで叩いた。
セーフ、セーーーフ!!
四回表。甲賀高校、四番道河原のライト前へのタイムリーヒットで先制。
甲賀1-0滋賀学院
一塁ベース上で道河原が強く強く拳を握った。甲賀の応援席で黒いメガホンが大きく揺れていた。ベンチから皆が道河原に拳を向けている。気付いた道河原がベンチへ拳を向けた。
「よっしゃーーー!」
「道河原あぁぁ!!」
道河原はやっと野球で喜びを噛み締めた。やっとチームの役に立つことができた。
それにもうひとつ、道河原は初めて野球の奥深さを知った。パワーだけじゃない。たとえバットの先に当たっても、それをパワーで支えれば良い。自分の並外れたパワーは色々な使い方ができると、初めて知ることになった。
川原は不用意な一球を悔やんだ。相手はここまで打てていなくとも、チームの四番なのだ。警戒を怠った自分を責める。
「川原、気にするなぁ!」
センターから大きな声が響く。滋賀学院のヒットメーカー川野辺だ。滋賀学院のキャプテンでもある。俺が相手投手を打ってやる。だから、下を向くな。そんなメッセージに川原はこくりと頷いた。
盛り上がりの余韻残る皇子山球場の打席に滝音が入った。
今大会、副島の意思で初めて五番として起用されている。
副島が滝音を五番に抜擢した理由。それは類いまれなる頭脳と状況判断力。それに、敵の嫌なところをつけるしたたかさだ。
1点は取ったが、この川原というピッチャーから、そうそう点は取れまい。滝音はバットを構えながら思慮に耽った。それに、この回なんとしても点を取ろうとしたのは、あの背番号18の存在だ。川原に声を掛けた川野辺はさすがだが、川原はまだ確実に気落ちしている。
ここは、なんとしても畳み掛けるぞ。
川原の腕がしなり、長い指からボールが弾かれた。
内角か外角か、はたまた真ん中か。
外角だ。それだけを確認し、道河原はコンパクトにバットを振った。外角からぐんとホームベースの方へ曲がってきたスライダーと、道河原のコンパクトなスイングから振られたバットが高音を上げて衝突した。
キィィン!
バットの先の方へ当たるのが分かった。このままじゃファウルか一塁ゴロだ。ここからが道河原の腕の見せ所。バットの先に当たろうと、構わず強い力で振り切る。手首を鋭く返すことでボールを押し返していく。ボールがバットの先で変形し、無理矢理にフェアゾーンへ飛ばされていく。
「でかした、道河原」
打球の行方を慎重に判断した犬走が全速力で三塁へ向かった。道河原の放った打球は力ずくで二塁手の頭の上を越えていった。
「4つーーーー!」
三塁手の西川が前進して捕球したライトへバックホームを呼び掛ける。ライトは捕球し、そのまますぐに本塁へ矢のような送球を返した。
「これでアウトになったら、何のために俺はここにいる」
犬走の姿勢が一層低くなる。本塁を小動物に見立て、それを狩る獣のように本塁へと飛びかかる。狩人が射った矢のように、ライトからの送球が本塁へ向かう。
本塁に犬走の指が触れ、犬走の背中をキャッチャーがグローブで叩いた。
セーフ、セーーーフ!!
四回表。甲賀高校、四番道河原のライト前へのタイムリーヒットで先制。
甲賀1-0滋賀学院
一塁ベース上で道河原が強く強く拳を握った。甲賀の応援席で黒いメガホンが大きく揺れていた。ベンチから皆が道河原に拳を向けている。気付いた道河原がベンチへ拳を向けた。
「よっしゃーーー!」
「道河原あぁぁ!!」
道河原はやっと野球で喜びを噛み締めた。やっとチームの役に立つことができた。
それにもうひとつ、道河原は初めて野球の奥深さを知った。パワーだけじゃない。たとえバットの先に当たっても、それをパワーで支えれば良い。自分の並外れたパワーは色々な使い方ができると、初めて知ることになった。
川原は不用意な一球を悔やんだ。相手はここまで打てていなくとも、チームの四番なのだ。警戒を怠った自分を責める。
「川原、気にするなぁ!」
センターから大きな声が響く。滋賀学院のヒットメーカー川野辺だ。滋賀学院のキャプテンでもある。俺が相手投手を打ってやる。だから、下を向くな。そんなメッセージに川原はこくりと頷いた。
盛り上がりの余韻残る皇子山球場の打席に滝音が入った。
今大会、副島の意思で初めて五番として起用されている。
副島が滝音を五番に抜擢した理由。それは類いまれなる頭脳と状況判断力。それに、敵の嫌なところをつけるしたたかさだ。
1点は取ったが、この川原というピッチャーから、そうそう点は取れまい。滝音はバットを構えながら思慮に耽った。それに、この回なんとしても点を取ろうとしたのは、あの背番号18の存在だ。川原に声を掛けた川野辺はさすがだが、川原はまだ確実に気落ちしている。
ここは、なんとしても畳み掛けるぞ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる