甲賀忍者、甲子園へ行く【地方予選編】

山城木緑

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強豪、滋賀学院 霧隠才雲、現る

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 さあ。

 ヘルメットのつばをなぞりながら、この回先頭の犬走は出塁できる可能性を模索していた。

 最初の打席で、振ることもできるという印象だけは与えたはずだ。ただ、それだけで充分か? もう1打席布石が必要か? その判断が難しい。

 幸い、白烏の出来が出色だ。もう1打席振ることに専念し、試合後半に相手が迷うのを待つか……。

 そう、ほぼ決めた時だった。犬走の目線の先に滋賀学院のベンチが見えていた。ベンチの奥にいたのか先ほどまで姿が見えなかったあの18番、霧隠才雲がベンチの前に出てきていた。眼光鋭く、こちらに目を向けている。……霧隠、出てくるのか?

 犬走は作戦を咄嗟に変えた。

 嫌な予感がする。早めに点を取った方が良い。犬走は自軍のベンチに目をやった。みんなへの合図だ。俺は様子見を解いて勝負をかけるぞ。そう目線で合図を送った。

 ベンチにいる甲賀忍者たちは滋賀学院ベンチの異変に気付いていた。そして、犬走へ視線を送る。

 行け、と。

 相変わらず超前進守備を敷かれている。だが、ほんの僅か、一塁手の体重が後ろに寄っているのが分かる。この一塁手には最初の打席での布石が効いている。対して、三塁手の西川はさすがだ。重心は身体の中心に置き、犬走の走り当てにも振ってきたときにも対処できるよう、ギリギリの守備体勢を保っている。

 難しいミッションだ。

 ツーストライクと追い込まれるまでは振り、追い込まれてから、走り当てをファウルにせず、しかも一塁手の方へ転がす。難題だが、やるしかない。そのために、この準決勝に間に合わせたのだから。

 初球、2球目と、少し大袈裟なほどバットを振った。当たったら当たったでラッキーだと思っていたが、さすが川原だ。あれだけ練習したのに、振りにいくと当たらない。うまくタイミングを外されている。

 ただ、振るごとに一塁手が半歩ずつ後ろに下がっていく。三塁手の西川が一塁手に下がるなと手で合図しているが、身体が反応してしまっているのだ。あとは、集中して当てる。そして、一塁手のもとへ。

 犬走は追い込まれてなお、高くバットを構えた。一塁手は二歩下がった。追い込まれていて、ちょこんと当ててくることはないのではないか。一塁手はそう、踏んでしまった。

 

 犬走の感覚が研ぎ澄まされる。ピッチャーの川原が相変わらず美しいフォームから腕を振ってくる。同時に犬走はバットをだらりと下ろし、助走をとるため少し下がった。

 しまった。一塁手はそう思ったが、既に少し遅い。犬走はしっかりとボールの軌道を確認した。

「警戒している時、大事な時はスクリューボールが6割、あとは厳しいコースへのストレートが多いわ。それは皆なら初速で判断がつくかもしれない」

 伊香保がミーティングで言っていたその言葉を思い出す。川原の指から離れたボールは少し遅い。スクリューボールだ。ということは手元でグッと沈む。しっかりと最後までボールを見る。走りながら頭でそう反芻し、犬走は足元に沈み始めたスクリューボールをとらえた。
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