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エースと四番

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 ───準々決勝の翌日は休養日として、日程が空けられる。
 東彦根との準々決勝を制した甲賀高校は午前中に軽くストレッチとランニングを行い、昼前に準決勝で対峙する滋賀学院の対策講義を伊香保が行い、そのまま解散した。

 本来ならば、まだまだ守備の連携などやりたいことは山積みだ。だが、ここは各々が疲れを癒し、準決勝、決勝という連戦を乗りきるため、身体を休ませることとした。

 喜ばしいことは、朝のストレッチ、ランニングともに犬走が通常通りこなせたことだ。

「犬走、明日いけそうか?」

 副島が問うと、犬走は一本ダッシュをしてみせた。

「100%とは言えないけど、驚くほど違和感はないよ。東雲のお母さんはすごいな」

「えへへ、それなら良かった。お母さんも喜ぶよ。あたしも東雲式医術を覚えないといけないんだけどね。でも、お母さんは無茶な走りは厳禁って言ってた。走れるレベルまでが限界だって」

 犬走が頷き、副島が決心したように伊香保に向かって大きく頷いた。伊香保も呼応して、首を縦に振る。準決勝の滋賀学院、おそらく決勝に上がってくる遠江。どちらも犬走の力はやはり必要だ。

 それぞれが明日に備え、グラウンドから去っていく。

 次々と自転車に乗って家路へ散っていく姿を二人の部員が見送っていた。

 皆の背中が消えたのを確認して、その二人はまたグラウンドへと戻った。


 甲賀高校は自然豊かな山の麓にある。

 グラウンドの向こうには大きな川が流れている。広い土手が広がっていて、二人の男が夕日に照らされながらその土手に腰かけていた。やけに長い影が二人から伸びている。

「…………」

「…………」

「…………なあ」

「…………何だ?」

「…………気づいとるか?」

「…………何をや?」

「…………俺ら………………全然活躍しとらんぞ」

「…………分かっとるわ」

「…………俺ぁ、初めてまわし締めた時より今の方が恥ずかしいわ」

「…………やから、お前も残って練習したんやろが。次、俺らマジでやるしかねえぞ」

 ひときわ大きな図体で夕日を浴びているのが、道河原玄武。言わずもがな、甲賀高校の四番打者である。ここまでの県大会4戦を終え、打率.068 打点1。
 単刀直入に恥ずかしい成績を残している。

 隣で同じく長い影を落としているのが、白烏結人。甲賀高校の背番号1を背負っている。ここまで3試合7イニングに登板し、防御率14.13。被安打1、与四死球24。
 圧倒的なノーコンである。

「お前の指は、いつ手裏剣と同じようにボールが馴染むようになるんや?」

「もうすぐや。てか、それはこっちの台詞や。お前はいつんなったらど真ん中以外を打てるようになんだ?」

「もうすぐや。お前に言われたないわい」

 二人は甲賀高校のエースと四番ながら、完全にチームに置いてけぼりを食らっている。
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