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エースと四番

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 迎えた準々決勝。

 既に滋賀県の高校野球ファンの間では、甲賀高校野球部が話題になり始めていた。

 だが、さすがに準々決勝。相手は文武両道を掲げる公立の雄、東彦根が上がってきた。甲子園でもベスト8に入った経験があり、圧倒的な力を誇る大阪の大阪桐心高校をあと一歩まで追い詰めた実績も持つ。頭脳野球ゆえ、伊香保よりも分析力に富む。苦戦は免れないと誰もが予想した。

 打線では、ここまで毎試合ヒットを放っていた藤田と桐葉をマークされ、三回戦で活躍した蛇沼と桔梗に緩い変化球は一切投げてこない。

 そこに藤田の疲労がついに押し寄せてきた。三回まで投げて、食い止めてはいるものの3失点。仕方なく、未完成の白烏を登板させる。

 白烏のコントロールは徐々に改善されてきているものの、その後四回を投げ、たったヒットを1本しか打たれていないのに、また四死球がたたって5失点してしまう。

 七回表を終えて、8-2。

 万事休す。

 かと思われたが、ここで活躍したのはキャプテン副島と滝音だった。

「伊香保、橋爪先生。もう俺、大丈夫です。出ます」

 奥でずっとストレッチをしていた犬走が、ベンチに入るなりそう告げた。言葉と裏腹に表情は険しい。

「本当かね。無理をして将来を棒に振ることはあってはならんですぞ、若人よ」

 珍しく橋じいが心配そうに眉をひそめる。伊香保もそれに追随した。

「確かにこのままじゃまずいけど、あたしはとてもこんな短期間で走れるとは思わない」

 出場を反対された二人を尻目に、犬走は副島に直訴した。試合に出ないまま敗退は嫌だ。その想いだけだった。

「副島、俺は出られる。走れる。出してくれ」

 ベンチに入ってきた副島に犬走がそうねだると、副島は厳しい目つきで犬走を制した。

「犬走、俺は東雲に明後日までは絶対に駄目やと止められとる」

「けど……このまんまやったら……」

 滝音がそこに割って入った。

「この試合は知恵比べだ。あっちの戦い方と戦力は分かった。あとはこちらの知恵を見せる。おそらく、犬走を欠いてもこちらの方が強い。ベンチで見ておいてくれ」

 まるで軍師のようなその言い方に犬走はベンチにちょこりと腰を落とした。
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