甲賀忍者、甲子園へ行く【地方予選編】

山城木緑

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いざ初戦。甲賀者、参る。

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 打席に入っている打者は変化球が苦手だ。しかも、今まで見たことのないナックルを投げる投手が相手に出てきてしまった。初球は確実にボールだと思ったのに、異様に曲がってストライクを取られてしまった。

 相手の甲賀はここまでこのナックルボーラーを温存していたんだ……。打者は甲賀高校のタレント力に敬服した。

 なんとそこまで、この打者は勘違いしてくれていた。

 橋じいがここまで計算していたのであれば、名伯楽誕生と言えるが、橋じいはベンチの奥でこぼしたお茶の掃除をしていた。どこまで読んでの起用であったのかは謎のままだ。

 とにかく、こうなってくれると、蛇沼は助かる。道河原の体躯は的が大きく投げやすい。またとんでもない握りかたをして、2球目を投じた。が、その2球目は目も当てられないほどに、ストライクゾーンから離れていく。道河原が手を伸ばしても届かず、ボールは後ろに転がっていった。

 しまった。蛇沼と道河原がどちらもそう声を出しそうになった瞬間、驚くことに審判が叫んだ。

 ストライクッ!

 打者はそんなとんでもないボール球をスイングしていたのだ。さすがに遠江姉妹社ベンチから監督の怒号が飛ぶ。

 それでも、初球のストライクが頭に残っていたのか、結局フルカウントからのボール球に手を出してくれ、蛇沼もまた人生初のマウンドを三振という最高の形でマウンドを降りた。

 守備位置から皆が戻ると、甲賀ベンチはお祭り騒ぎとなっていた。

「すげえな、さっきの起用は。結局はああ見せかけて伊香保の案やったんか?」

 レフトから戻ってきた副島が伊香保に訊ねる。伊香保は苦笑いして、首を振った。

「ううん、ほんとに橋じいが勝手にベンチ出て決めちゃったの。心臓止まるかと思ったわ」

 橋じいがベンチの奥から、戻ってきた甲賀ナインへ拍手を送った。

「諸君は作戦を見事に成功させれり! 天晴れじゃよ。まさに、第二次世界大戦におけるドオォイツ軍によるバアルジの戦いの如し!」

 橋じい独特の褒め言葉にナインが苦笑いを浮かべる。

 それにしても、改めてこの采配は大きかった。少しでも藤田を休ませられているのも大きい。

 一方、甲賀に一人、元気を出せないものがいた。

 ベンチの最前列で白烏が笑みを浮かべて皆を迎えている。本当は心中穏やかではないだろう。

「結人、お前の力が必要になるときがくる」

 滝音がそっと肩に手を乗せる。

「分かってんよ。ま、鏡水が先に登板するとは思わんかったけどな」

 白烏も滝音の肩を叩いた。そのグッと悔しさを堪える白烏を見て、負けている状況ながら滝音はひとつの手応えを感じていた。
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