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いざ初戦。甲賀者、参る。

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 副島が肩を落として広い会場を出ると、空はどんよりと曇っていた。今にも雨が降りそうだ。

 会場から虚ろな目で出てきた副島を甲賀ナインが出迎える。副島は自らの運の無さを嘆いていた。引いたくじはあまりに残酷だった。

遠江姉妹社とおえしまいしゃ高校? ふざけた名前の高校だな」

 副島の隣で、道河原が鼻を豪快にかみながら言った。

「初戦は女子高か? だが、くノ一を甘く見てはいけない。うちの東雲がたくさんいると思え」

 桐葉が言った。
 駄目だと副島が何度も言っているのに、今日も刀を腰に差している。休みの日はいつもこうだと言う。銃刀法違反で逮捕されたら元も子もないから、ほんとにやめてほしいと副島は願っている。

「とりあえず、道河原も桐葉もどっちも違う。まずもって女子高が甲子園出られねえから。えっとな、遠江姉妹社は甲子園出場もある強豪なんや。滋賀学院とか遠江と渡り合える高校のひとつや。これは、かなりやばい」

 副島が溜め息をつき、うなだれた。藤田も頭を抱えている。

「甲子園に出たのは昔なんしょ? そいつらいねえんなら関係なくないすか?」

 びょんびょんとジャンプしながら月掛が副島に訊ねる。

「……まあ、そうやねんけど。それでも甲子園を知っているってのは違うねん」

 副島はまだ頭を抱えている。

 腰かけていた白烏がすっくと立ち上がった。

「ごちゃごちゃうるせえ。俺が一点も許さねえよ。それで文句ないだろう」

 白鳥がぶんぶんと腕を回して、今にも投げたそうな表情を浮かべている。

「そんなん、ストライク入るようになってから言ってくれや。……で、白鳥よ。意気込んでるとこ悪いけど、初戦は控えな。先発は藤田でいく」

 白鳥がムンクの叫びのように両手を頬にあて絶望している。

「初戦の先発は大事や。理弁の時みたいな初回の投球されたらかなわん」

 副島がそう切り捨てると、白烏はさすがに口を尖らせて拗ねてしまった。副島がそれを見て声を出さずに笑う。ピッチャーってのはこんな風に子供っぽい負けず嫌いさがあった方が良い。

「ただ……理弁和歌山さんの四番五番を三振に取った最後のあのイニング……。あの球が放れれば、白烏は日本屈指のピッチャーや。まずはベンチから藤田のリリースポイントをギリギリまで勉強しといてくれ」

「……分かったよ」

 空にはもくもくと夏の到来を告げる雲が球児たちを見下ろしていた。

 俺らにとったらどこと当たっても強豪や。俺がどんと構えとかんと。なあ、兄貴。ワクワクすんな。

 球史に残る甲賀高校野球部の挑戦が、ここから始まる。
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