81 / 166
腕試し
18
しおりを挟む
打席には初回に特大ホームランを放った野中。一年生ながら、四番に抜擢された理弁和歌山の未来を担う主砲候補である。
初回は甘い球をホームランにした。一年生ながら、速い球にはめっぽう強い。
野中はボール球は見極め、ストライクに入ってきたストレートを仕留めるイメージを持っていた。いくら速くとも、俺が上だ。野中はバットを持ち上げ、威圧的に大きな伸びをして打席に向かった。
だが、打席で大きく構えようとした野中は無意識にバットを僅かに短く持った。
明らかに初回に投げていた白烏と雰囲気が違う。同じと思ったら、打てない。そう直感し、額に汗を垂らした。そう気づいた野中はさすがの打者と言える。
白烏は全身で投げるイメージだけに集中していた。実は先ほどバントした時、白烏は中指にボールをぶつけ、おそらく突き指してしまっていた。指の力だけでは抑えられない。藤田の投げ方で投げてみる。これが、功を奏した。
綺麗な円運動で白烏の身体が捻られる。力みのないリリースから放たれた初球がジェット機のように風を立てて滝音のミットに突き刺さった。
野中は手が出なかった。……何だ? 速すぎる……。
「監督……」
資定が初球を見て、たまらず高鳥へ声をかける。
「資定、黙って見てろ」
資定は高鳥に見初められ、入部後ずっとそばにいた。故に、高鳥が今、眼前の白烏の才能に苛立ち、同時にワクワクしているのが資定にはよく分かった。
グラウンドは静まりかえっていた。あまりにも速く、あまりにも曲がる球に皆が圧倒されていた。初回に特大ホームランを打った野中が成す術なく三球三振に倒れた。呆然とベンチへ戻る。
敵の理弁和歌山ナインは、あまりの速さと変化球のキレ、それに、見違えるように改善されたコントロールに驚愕している。味方の甲賀ナインすら、声が出なかった。
静寂に、白烏の投げたボールがミットに収まる音が響く。野中の次に入った理弁和歌山の五番打者は、打席で構えているのがやっとだった。既に2球で2ストライクと追い込まれている。
せめてバットには当ててやる。五番打者は野中がしたように、バットを極端に短く持って構えた。サインに頷いた白烏が無駄のないフォームから投げ込んでくる。
咄嗟に五番打者は後ろに避け、そのまま勢い余って尻餅をついた。ボールがとんでもないスピードで顔付近に向かってきたからだ。
ストライイイイィク! アウッ!
「へっ?」
思わず五番打者がすっとんきょうな声をあげる。見ると、滝音が構えた外角のミットにボールが収まっている。まさか……顔に向かってきた球がそんなに変化したというのか? 五番打者は大きく首を振りながらベンチに帰っていく。
「あれは……打てへん」
悔しさを通り越すほどであったか、五番打者はそう呟いて笑みさえこぼした。
たった6球。
されど、白烏は初回の汚名を返上するには充分な6球であった。かつて、この常勝理弁和歌山の四番五番打者がここまでスイングできなかったことは、ない。
初回は甘い球をホームランにした。一年生ながら、速い球にはめっぽう強い。
野中はボール球は見極め、ストライクに入ってきたストレートを仕留めるイメージを持っていた。いくら速くとも、俺が上だ。野中はバットを持ち上げ、威圧的に大きな伸びをして打席に向かった。
だが、打席で大きく構えようとした野中は無意識にバットを僅かに短く持った。
明らかに初回に投げていた白烏と雰囲気が違う。同じと思ったら、打てない。そう直感し、額に汗を垂らした。そう気づいた野中はさすがの打者と言える。
白烏は全身で投げるイメージだけに集中していた。実は先ほどバントした時、白烏は中指にボールをぶつけ、おそらく突き指してしまっていた。指の力だけでは抑えられない。藤田の投げ方で投げてみる。これが、功を奏した。
綺麗な円運動で白烏の身体が捻られる。力みのないリリースから放たれた初球がジェット機のように風を立てて滝音のミットに突き刺さった。
野中は手が出なかった。……何だ? 速すぎる……。
「監督……」
資定が初球を見て、たまらず高鳥へ声をかける。
「資定、黙って見てろ」
資定は高鳥に見初められ、入部後ずっとそばにいた。故に、高鳥が今、眼前の白烏の才能に苛立ち、同時にワクワクしているのが資定にはよく分かった。
グラウンドは静まりかえっていた。あまりにも速く、あまりにも曲がる球に皆が圧倒されていた。初回に特大ホームランを打った野中が成す術なく三球三振に倒れた。呆然とベンチへ戻る。
敵の理弁和歌山ナインは、あまりの速さと変化球のキレ、それに、見違えるように改善されたコントロールに驚愕している。味方の甲賀ナインすら、声が出なかった。
静寂に、白烏の投げたボールがミットに収まる音が響く。野中の次に入った理弁和歌山の五番打者は、打席で構えているのがやっとだった。既に2球で2ストライクと追い込まれている。
せめてバットには当ててやる。五番打者は野中がしたように、バットを極端に短く持って構えた。サインに頷いた白烏が無駄のないフォームから投げ込んでくる。
咄嗟に五番打者は後ろに避け、そのまま勢い余って尻餅をついた。ボールがとんでもないスピードで顔付近に向かってきたからだ。
ストライイイイィク! アウッ!
「へっ?」
思わず五番打者がすっとんきょうな声をあげる。見ると、滝音が構えた外角のミットにボールが収まっている。まさか……顔に向かってきた球がそんなに変化したというのか? 五番打者は大きく首を振りながらベンチに帰っていく。
「あれは……打てへん」
悔しさを通り越すほどであったか、五番打者はそう呟いて笑みさえこぼした。
たった6球。
されど、白烏は初回の汚名を返上するには充分な6球であった。かつて、この常勝理弁和歌山の四番五番打者がここまでスイングできなかったことは、ない。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる