64 / 160
腕試し
1
しおりを挟む
翌日。
「しゃあああああす!!!」
合宿施設のグラウンドに大きな挨拶が響いた。白いユニフォームに赤い字で『R』の文字。何度とテレビで観た甲子園常連校のユニフォームだ。名将と称えられる高鳥監督が橋じいに頭を下げている。年の功。副島にとって、これほどにその言葉が浮かんだことはない。
「うはは、相手さん気合い入ってるな。木っ端微塵にしてやろう」
道河原がバットをぶんぶん振り回して言った。
「その前にど真ん中以外も打てるようになってくださいよ、玄武さん」
月掛が応えると、道河原にバットで頭を小突かれた。
「おい、東雲。ボタン留めろ」
桔梗の胸元がぱっくり開いている。副島は気合いが入っており、いつもより厳しい表情で桔梗を睨んだ。桔梗は上目遣いで副島に目を潤ませる。すさかず藤田と道河原が桔梗の胸元に目をやっていた。
犬走はいないものの、初の実戦はどうなるものか。副島と藤田はさすがに胸に来るものがあった。ストレッチとキャッチボールを両チームとも済ませ、ノックは理弁和歌山さんに譲った。
「うちは朝ノックしましたので。理弁和歌山さんがノック終わったら試合始めましょうか」
高鳥監督は軽く帽子を脱いで挨拶し、バッターボックスへ入る。テンポ良く高鳥監督の右手にボールが渡され、機械のように一定のテンポでノックの打球が各ポジションに飛んでいく。長短、速遅、高低、全て使い分けられ、それを理弁和歌山ナインはエラーなく捌いていく。
「す、すげえ」
月掛が甲子園常連校のノックに感嘆していた。後ろで桐葉さえもごくりと唾を飲んでいた。
「橋爪先生、ノックありがとうございます。では、30分から試合開始ということで」
「ほほっ、そうじゃの」
さあ、いよいよだ。甲賀ナインの胸が高鳴る。敢えてノックはせずに、どれだけ実戦に入って浮き足だってしまうのかを副島は確認したかった。だが……。
「副島、相手は背番号一桁がいない。ほんとのスタメンじゃないってことだな?」
滝音がそう訊ねて胸に闘志を燃やしている。
「ああ、二年生一年生のチームだろう」
「舐めやがって。レギュラー引きずり出してやろうぜ」
道河原が拳をバシバシと鳴らしながら言うと、皆がおう! と低く気合いのある声で応えた。
やはりこいつらは頼もしい。気合いの空回りはあれど、浮き足立つことはなさそうだ。
「しゃあああああす!!!」
合宿施設のグラウンドに大きな挨拶が響いた。白いユニフォームに赤い字で『R』の文字。何度とテレビで観た甲子園常連校のユニフォームだ。名将と称えられる高鳥監督が橋じいに頭を下げている。年の功。副島にとって、これほどにその言葉が浮かんだことはない。
「うはは、相手さん気合い入ってるな。木っ端微塵にしてやろう」
道河原がバットをぶんぶん振り回して言った。
「その前にど真ん中以外も打てるようになってくださいよ、玄武さん」
月掛が応えると、道河原にバットで頭を小突かれた。
「おい、東雲。ボタン留めろ」
桔梗の胸元がぱっくり開いている。副島は気合いが入っており、いつもより厳しい表情で桔梗を睨んだ。桔梗は上目遣いで副島に目を潤ませる。すさかず藤田と道河原が桔梗の胸元に目をやっていた。
犬走はいないものの、初の実戦はどうなるものか。副島と藤田はさすがに胸に来るものがあった。ストレッチとキャッチボールを両チームとも済ませ、ノックは理弁和歌山さんに譲った。
「うちは朝ノックしましたので。理弁和歌山さんがノック終わったら試合始めましょうか」
高鳥監督は軽く帽子を脱いで挨拶し、バッターボックスへ入る。テンポ良く高鳥監督の右手にボールが渡され、機械のように一定のテンポでノックの打球が各ポジションに飛んでいく。長短、速遅、高低、全て使い分けられ、それを理弁和歌山ナインはエラーなく捌いていく。
「す、すげえ」
月掛が甲子園常連校のノックに感嘆していた。後ろで桐葉さえもごくりと唾を飲んでいた。
「橋爪先生、ノックありがとうございます。では、30分から試合開始ということで」
「ほほっ、そうじゃの」
さあ、いよいよだ。甲賀ナインの胸が高鳴る。敢えてノックはせずに、どれだけ実戦に入って浮き足だってしまうのかを副島は確認したかった。だが……。
「副島、相手は背番号一桁がいない。ほんとのスタメンじゃないってことだな?」
滝音がそう訊ねて胸に闘志を燃やしている。
「ああ、二年生一年生のチームだろう」
「舐めやがって。レギュラー引きずり出してやろうぜ」
道河原が拳をバシバシと鳴らしながら言うと、皆がおう! と低く気合いのある声で応えた。
やはりこいつらは頼もしい。気合いの空回りはあれど、浮き足立つことはなさそうだ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
後悔と快感の中で
なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私
快感に溺れてしまってる私
なつきの体験談かも知れないです
もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう
もっと後悔して
もっと溺れてしまうかも
※感想を聞かせてもらえたらうれしいです
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる