上 下
49 / 166
レフト副島&ピッチャー藤田

3

しおりを挟む
 グラウンドの隅っこ、壊れたバスケットボールリングやハードルなどが置かれた場所が野球部のスペースだ。副島と藤田はそこでキャッチボールをする。

「藤田はポジションどこなん?」

「僕はピッチャーです。外野も守れますけど」

「へえ、ほならせっかくやし投げてみいよ。ちょっと待っとってな」

 副島は部室に戻って、埃かぶったキャッチャーミットを抱えて戻ってきた。ざっと18.44mの距離を取って座り、ミットをバシバシと叩く。

 藤田は嬉しかった。

 実は、中学はシニアでならした方だった。近畿大会でも準決勝まで進出し、防御率は2.63。どこからか声がかかるのではないか。そう期待したが、結局どの高校からも声は掛からず、一般入試でも私立に落ちた。
 なんとか受かった甲賀高校には野球部無いんじゃないか……と言われていただけに、こうして投げられることが嬉しい。

 肩を軽く回してセットに構える。副島がミットをど真ん中に構えている。グローブを返し、円を描くように腕を回す。左足から右足へ体重移動はスムーズだ。右足が地面を掴み、左手の指からボールが離れていく。うん、指のかかりは悪くない。

 パシーーーン

 少しだけ高めに浮いたボールが副島のミットに収まる。

 

「……マジか。藤田、めっちゃ良い球放るやん!」

 副島は嬉しそうに藤田へボールを返した。力強いボールが藤田のグローブに収まる。副島のメッセージだった。絶対お前に野球をさせてやる、と。

「副島とあの一年、頑張ってるよな」

「ああ、ほんまに。涙出てくんな」

 他の運動部から日々そんな声が漏れ始めていた。副島と藤田は誰よりも遅くグラウンドを後にする。たった二人でどの運動部よりも声を出した。雨の日でも風が強くとも、副島と藤田はグラウンドに出てボールを追いかけ、バットを振った。陸上部よりも学校周りを走る姿は他の運動部の心を動かしていた。

「先生。野球部がさ、9人集まったらグラウンド使える日を設けましょうよ」

「ラグビー部と俺らも同意見っす。グラウンドの隅で頑張った副島に思いきり使わせてやりたい」

「陸上部も同じです。副島とあの一年の藤田に思いきり打たせてやりたい」

 いつの日か、各部の主将たちは部活動委員長である教頭へそう直訴していた。

「そうだな。私たち教員の間でもあの野球部の二人の頑張りは話題になってる。あとは、せめて副島が3年になる夏の県予選までに9人揃えば良いんだがな…」

 窓から皆でグラウンドを覗くと、グラウンドの隅で副島と藤田が準備運動しているのが見える。首を上げて大きく口を開いているのが分かる。遠くて聞こえないが、声を張り上げているのだろう。

「お前ら知ってるか? 副島のお兄さんは甲子園で活躍した選手だったんだ。お兄さんは亡くなってしまって、お兄さんの好きだった野球を良い思い出にするために頑張ってるんだ。藤田もお兄さんが甲子園で辛い負け方をして、そのリベンジのために甲子園に行きたいって……」

 運動部の主将たちが窓から二人を眺める。

「そうなんすか……集まって欲しいっすね、野球部……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...