魔王は世界に帰りたくない

透‐toru‐

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プロローグ 【魔王と勇者はサラリーマン】

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俺は……俺は……
2度と戻らない、そう決めたんだ。




「先輩!俺、営業行ってきます!」
「おー。そーかーいってこーい。」
「はい!!!」

清々しい朝である。
こんな日は何事もせず平和に昼寝をしていたい。後輩のスーツ姿を見送りつつ、俺はそう思っていた。
なんにせよ、こんな真夏日に外に出る事も無く、コーヒーかっくらって、オマケに先輩先輩って呼ばれるなんていい仕事じゃないか。
まぁ俺もあんな新人だった時代もあったが、今では部長の座について営業に行くこともなければパソコンに向かうこともなく、ハンコを押すだけの仕事だ。
「あーあ、これで後は家に帰りゃ最高なんだがなぁ……。」
と、その時だ。

ガッシャーーーーン!!!

「ふえ……せんぱぁーーい!」

1つ訂正。
俺はあんな新人では無かった。

「はぁ……またか。」
階段の方から物凄い音が聞こえた。
それはおそらく……さっきの後輩。
「おい、どうした?」
と顔を覗かせると階段の何段か下には俺よりやや背が高い青年が尻もちをついていた。猫っ毛の髪にはまるで耳がついていそうな、んでもってしっぽもついてそうな青年だ。
(こりゃ見事にしゅんとしてんなぁ。)
「先輩……。
階段から落ちましたぁ……うう。」
「はいはい、全く。
まずは起きてそこ座れ。」
と一段目に座るように促す。
(毎度の事ながらやらかしてくれるなぁ……。
幻覚か?垂れてるしっぽと耳が見える……。)
毎日とはいかずとも週に2、3回は階段から落ちるってどうなんだ?成人男性として。
それに、
「お前、ここ26階だからエレベーター使えと言っとるだろうが。」
ぽかっ、とこいつの頭を叩く。
「だってぇ……こないだ社長が元気が一番だって……」
「その元気をここで無駄にするな……。」
と言いつつ膝を触ってみる。
怪我はしていない。
それを確認し、どこか安堵する自分がいた。
まぁ仕方ないだろう。あんな大きな音を聞けば誰だって身構える。それが毎日のようにあることだとしてもだ。

「僕……。
もう、こんな世界キライです!うぅ……。」

ふと、こいつが漏らした言葉に俺は思わず肩を震わせた。
だけども、慣れはある。
何事も無かったかのように取り繕い、そいつの背中をさすった。
「ハイハイ、元はすっごい勇者だったんだもんなー?」
「なんで信じてくれないんですかー!?
ほんとのことなのに!」
つん、とそっぽを向いてしまう後輩。
「ハイハイ、そんな拗ねるんじゃねぇよ」

お前が勇者だってこと、誰よりも俺の方が理解してるってのに。

俺はそんな言葉を飲み込んだ。

そう、こいつは元勇者だ。
そして俺は

元魔王。

だからこいつの話を信じてしまってはいけないし、興味を持ってもいけない。もちろん、バレてしまっても駄目だ。
なぜなら、

「僕は早く魔王を見つけて、一緒にあっちの世界に戻らないといけないんです!僕達を待っている人がいるから!」

連れ戻されてしまうからだ。
もうあんなところごめんだ。
誰もが俺にひれ伏し、媚びて、憎んで、恐れる……。普通に接してくれる奴なんて誰も……。

いや、いなかったわけじゃない。
こっちに来る前に1人だけ……そう、こいつだけだった。
俺はこいつがいれば普通でいられる。それだけでいいんだ。

ここで一つ疑問点。

こいつは何で俺が魔王だと分からないのか。
ま、その答えはすぐに分かった。
あの世界での俺は人間では無く魔族。当然姿というものが異なる。無駄な装飾に、無駄な体格、無駄な威圧感。そういったものがここで人間になったことで無くなったがために、俺は魔王である自分を捨てることが出来た。
だからこそ、こいつも俺が魔王だと分からない。

「ま、慌てても仕方が無いだろう。まずは仕事、行ってこい。ここはお前がいたであろう世界とは違うんだ。」

と、こいつの背中を叩いた。
納得のいってなさそうなその顔の眉間を指でパチンとはたく。
うう、とうめき声をたてつつ青年は立ち上がった。

「はい、行ってきます……。真央先輩(まおせんぱい)。」

この世界での名を呼ばれ、俺は心臓が波打つのを感じた。それがなんだったのかは俺にも分からない。
ただ、

「おう、行ってこい。……勇(ゆう)。」

なんとなくこいつの名前を呼びたくて仕方がなかった。
勇は俺がそう言ったのを聞くと階段を使って下へと降りていった。
ふぅ、と息をつきオフィスへ足を向ける。
しかし……

ガラガラガッシャーン!!!

嫌な音が鼓膜を刺激した。
やがて……

「ふえ……せんぱぁーーーーーーーい!!」

情けない声が俺を呼んでいる。

「だから……エレベーターを使えと言っただろうがっ!」

勇者は勇者でも使えない新人には変わりないことを痛感している毎日だ。
今日も俺は怒号を吐く羽目になっている。
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みんなの感想(1件)

いちごみるく

やばばば!
おもしろいっす!!
続き楽しみにしてますっ(*/ω\*)

2016.10.06 透‐toru‐

ありがとうございますΨ( Φ∀Φ)Ψ

解除

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