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「お帰りなさいませ! お迎えに上がりました!」

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「お帰りなさいませ! お迎えに上がりました!」
 一瞬で辺境伯領に転移したジーンとイーグスを、元気な声が出迎えた。
 辺境伯側の出口となる転移ゲートは危機管理上の観点から、領主館からも辺境騎士団本部からも少し離れた場所に設置されている。予定を知らせてあったためか、その前で辺境騎士団所属の騎士が一名、待機していた。ジーンと同年代の馴染みの騎士だ。名をエイデンという。
「いや、ここは俺の家じゃないんだが……」
 母親の実家であり、月に一度程度のペースで入り浸ってはいるが。
「まあその、ただいま、エイデン」
 ジーンは苦笑しつつも、挨拶を返す。
 ここでのジーンは本人の希望で、王子ではなく『辺境伯の身内』という扱いで統一してもらっている。もちろん全員が彼の本当の身分を知っているし、そうでなくても領主の身内というだけで、ある程度は丁寧な扱いを受ける訳だが、騎士たちとは比較的気安い間柄である。


「似たようなものではないですか、いずれは継がれるのですし」
 気にしなくていいと思います、とエイデンは笑う。
「継ぐかどうかはまだ分からないけどな」
 叔父である辺境伯は独身で、子供もいない。甥であるジーンを後継にという話が上がっているのは事実だが、確定はしていない。
「我々としては継いでいただきたいので善処をお願いします……荷はこちらだけですか?」
 エイデンは、ジーンの足元に置かれていた木箱をひょいっと持ち上げる。
「辺境伯さまが騎士団本部でお待ちです、御案内します」


「あ、それは……私物でして」
 辺境伯が受け取ったら困惑するであろう荷を持って行かれそうになり、イーグスが慌てる。
「補佐官殿の私物でしたか? ではあとでお部屋に」
 運んでおきますよ、とにこやかにエイデンに言われるが、イーグスの私物ではない。困った顔でジーンをちらりと見る。
「それは俺の……というか、姉上に頼まれた届け物なんだ。アンジェリカ宛てに」
「ああ、シェルナ殿下からアンジェリカに……」
 中身を察したエイデンが、少し遠い目になる。
「では、騎士団の宿舎に寄って行かれますか」
「そうだな」






「いくらアンジェリカ相手といえども、さすがに女性の私室に突撃する訳には行きませんし、誰かに呼び出しを頼んで……」
 宿舎の入口でそう言い掛けたエイデンは、ふと立ち止まった。
「あ、ちょうど食事中みたいです……アンジェリカ!」
 入口から見える食堂の席で、アンジェリカが朝食を取っているのが見える。
「何? え、ジーンさま?」
 呼ばれたアンジェリカは辺りを見回し、軽く手を上げたジーンを見つけて、ちぎりかけていたパンを手に持ったまま、目をぱちくりとさせる。


「おはようございます……どうしたんですか?」
 手招きされたアンジェリカが食堂から出てくる。
「姉上からアンジェリカにと預かってきた」
 ジーンの説明に合わせて、エイデンが床に置いていた木箱を、アンジェリカの前に置き直す。
「シェルナから!? ありがとうございます!」
 木箱の中の本を見て、アンジェリカの目が輝く。
「シェルナ『殿下』だろ」
 敬称を付けろよ敬称を、とエイデンが注意するが。
「はいはい、シェルナ第二王女殿下から賜りものとは恐れ多いですねー」
 一応言い直しながら、シェルナ本人から公式の場以外なら敬称無しでいいと言われているアンジェリカは、小さく肩を竦める。


「ジーンさまにもお手数をおかけして」
「こっちに来るついでだ。大した手間じゃないから気にしなくていい。それで姉上から今回の目玉は何かの最新刊だと伝えておいてほしいと……何だったかな、知略がどうのこうの」
 確か宰相が……とジーンが思い出そうとしていると。
「もしかして宰相閣下と第四王子殿下のですか!?」
 アンジェリカはパタリと床に膝をつくと、木箱の中を漁り始める。
「あった! 私、このシリーズ大好きで!」
 落ち着いた色合いの上品な装丁の本を見つけたアンジェリカは、嬉しそうに取り出してジーンに見せる。


「もうすぐ新刊が出るって噂だったから楽しみにしてたんですよー」
 もう出てたんだ、嬉しい! と弾むアンジェリカ。
「そ、そうか……」
 喜んでもらえるのは嬉しいが、兄の第四王子がモデルに使われている小説だと思うとジーンとしては複雑である。
「そんなに面白いのか? どんな内容なんだよ」
 アンジェリカのはしゃぎっぷりに、エイデンが興味を持ったのか尋ねる。
「面白いわよ、もう十六巻も出てる人気シリーズで……あ、これが十七巻目ね。内容は、最近は『上下を賭けた知略戦争』が多いかな。それはもう手に汗握る展開で!」
 アンジェリカは力説するが。
「上下? 戦争? え、これって恋愛小説じゃないのか?」
 エイデンは首を傾げる。思っていたのと違う。
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