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「おはようございます、ユージーン殿下」
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「おはようございます、ユージーン殿下」
書類を抱え、転移ゲートのある地階に続く階段の前で待機していたイーグスが、ジーンを見迎えて、一礼した。
「おはようイーグス」
イーグスは、ジーン――ユージーン・バナンゼーロ第五王子の補佐官を務めている。
「辺境伯領に届ける物資ですか? お預かりします」
ジーンの肩に担がれた木箱を見て、イーグスは慌ててそれを引き取ろうとしたが。
「いや、これは今しがた姉上に頼まれたものだから」
自分で運ぶ、とジーンはそのまま階段を降りていく。
「シェルナ殿下からですか? ああ、そうですね、確かにそのような……」
ジーンを追いながら、木箱の中をちらりと覗いたイーグスは、なかなかに華やかな装丁の本がぎっしり詰まっているのを見て目を逸らした。
「今回は書類関係だけだったな?」
ジーンは、転移ゲートの上にシェルナから預かった木箱を置いた。転移ゲートはゲートと呼ばれているが門ではなく、地下の一室の床に刻まれた魔法陣である。
「はい、ザートレギオン辺境伯さま宛ての書簡を二通、辺境騎士団への通達を一通、お預かりしております」
イーグスは、持っていた書類に挟んでいた書簡を示す。
「どちらにしろ叔父上宛てだな」
辺境騎士団の騎士団長は、ザートレギオン辺境伯その人である。
手間がなくていい、と独り言ちたジーンは、不意に胸の痛みを覚える。
「………くっ」
少し苦しげな声を上げて胸を押さえたジーンの顔色は酷く悪い。
「ユージーン殿下? 大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、いつものアレだ」
心配そうに顔を覗き込んでくるイーグスを手で制したジーンは、目を閉じて、大きく息を吸って、吐いた。
「魔力硬化症の薬をお飲みになりますか? それとも魔力生成抑制剤をお飲みになりますか? すぐに水を」
イーグスはいつも持ち歩いている薬瓶から錠剤を取り出そうとしたが。
「問題ない、魔力を使えば治まる。叔父上のことだから、俺の魔力を有効に使って下さることだろう」
「そう……ですね、そのための辺境伯領行きです」
自分に言い聞かせるように呟いたイーグスは、深呼吸を繰り返すジーンを痛ましげに見遣る。
ジーンは魔力の生成力がとんでもなく高い。
一般的な魔術師であれば、数発で魔力切れを起こすような攻撃魔法でも、魔力量の多さと生成力の高さで、『無限砲台』と異名をとるほどの連続攻撃が可能である。
魔術師としては羨まれる体質だといえる。
しかし、ジーンは魔力制御が上手くできなかった幼少期に体内に魔力の塊――魔石が出来てしまっている。魔石化した魔力は、人の体には害でしかない。
魔力硬化症と呼ばれるそれは、人によって痛みや痺れ発熱など、症状は様々だが、重症化した場合、命にかかわることも多い。
ジーンの場合は、魔力を使わない時間が長いと体内をめぐる魔力が自然に練り上げられてしまい、濃くなった魔力が魔石を肥大化させる=魔力硬化症の症状が酷く現れるという図式になっている。
「時間だな、行くぞ」
懐中時計を確認したジーンは、イーグスの腕を掴んで転移ゲートの中央に移動する。
「『起動』」
ジーンは片膝をついて魔法陣に左手を置くと、短く呟いて魔力を流し込んだ。
書類を抱え、転移ゲートのある地階に続く階段の前で待機していたイーグスが、ジーンを見迎えて、一礼した。
「おはようイーグス」
イーグスは、ジーン――ユージーン・バナンゼーロ第五王子の補佐官を務めている。
「辺境伯領に届ける物資ですか? お預かりします」
ジーンの肩に担がれた木箱を見て、イーグスは慌ててそれを引き取ろうとしたが。
「いや、これは今しがた姉上に頼まれたものだから」
自分で運ぶ、とジーンはそのまま階段を降りていく。
「シェルナ殿下からですか? ああ、そうですね、確かにそのような……」
ジーンを追いながら、木箱の中をちらりと覗いたイーグスは、なかなかに華やかな装丁の本がぎっしり詰まっているのを見て目を逸らした。
「今回は書類関係だけだったな?」
ジーンは、転移ゲートの上にシェルナから預かった木箱を置いた。転移ゲートはゲートと呼ばれているが門ではなく、地下の一室の床に刻まれた魔法陣である。
「はい、ザートレギオン辺境伯さま宛ての書簡を二通、辺境騎士団への通達を一通、お預かりしております」
イーグスは、持っていた書類に挟んでいた書簡を示す。
「どちらにしろ叔父上宛てだな」
辺境騎士団の騎士団長は、ザートレギオン辺境伯その人である。
手間がなくていい、と独り言ちたジーンは、不意に胸の痛みを覚える。
「………くっ」
少し苦しげな声を上げて胸を押さえたジーンの顔色は酷く悪い。
「ユージーン殿下? 大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、いつものアレだ」
心配そうに顔を覗き込んでくるイーグスを手で制したジーンは、目を閉じて、大きく息を吸って、吐いた。
「魔力硬化症の薬をお飲みになりますか? それとも魔力生成抑制剤をお飲みになりますか? すぐに水を」
イーグスはいつも持ち歩いている薬瓶から錠剤を取り出そうとしたが。
「問題ない、魔力を使えば治まる。叔父上のことだから、俺の魔力を有効に使って下さることだろう」
「そう……ですね、そのための辺境伯領行きです」
自分に言い聞かせるように呟いたイーグスは、深呼吸を繰り返すジーンを痛ましげに見遣る。
ジーンは魔力の生成力がとんでもなく高い。
一般的な魔術師であれば、数発で魔力切れを起こすような攻撃魔法でも、魔力量の多さと生成力の高さで、『無限砲台』と異名をとるほどの連続攻撃が可能である。
魔術師としては羨まれる体質だといえる。
しかし、ジーンは魔力制御が上手くできなかった幼少期に体内に魔力の塊――魔石が出来てしまっている。魔石化した魔力は、人の体には害でしかない。
魔力硬化症と呼ばれるそれは、人によって痛みや痺れ発熱など、症状は様々だが、重症化した場合、命にかかわることも多い。
ジーンの場合は、魔力を使わない時間が長いと体内をめぐる魔力が自然に練り上げられてしまい、濃くなった魔力が魔石を肥大化させる=魔力硬化症の症状が酷く現れるという図式になっている。
「時間だな、行くぞ」
懐中時計を確認したジーンは、イーグスの腕を掴んで転移ゲートの中央に移動する。
「『起動』」
ジーンは片膝をついて魔法陣に左手を置くと、短く呟いて魔力を流し込んだ。
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